第26話 エルフカーニバルアフターケア ~けっこうガチへこみのアイナとエルフィ。そしてフォレストハイエルフの条件~

 アイナとエルフィ。

 祭り各日の暮れには構ってもらう約束をしていた。

 だが、初日に怒られて以来──

 二人は出てこず、ずっと引きこもっていた。

 最終日を迎え、さすがに心配になるセージ。


「ほら、今なら特別に抱き着いてもいいから。二人とも元気出せって。な?」


 セージが入室するまで、二人は……。

 もぬけの殻のような、無表情だった。

 そして。


「う、うぅうう。はぅうううう」

「あぁあううぅう」


 セージが声をかけた瞬間、声を上げる二人。

 というか、さめざめと泣き始めた。

 理由は至極、単純である。

 彼女らはセージに怒られ……。

 嫌われたと思い込んでいたからだった。


 ハイパーポジティブであるハズのエルフ。

 大抵の発言は【エルフフィルター】がかかる。

 そして、前向きな意味でとらえてしまう。

 そのエルフ唯一の弱点。

 それは、主からの『嫌い』に類する言葉だった。


「ほら、来いって。あの時はやり過ぎだったから、さすがにちょっとだけ怒ったけど。さすがにもう怒ってないから」


「ほ、ほんとでしゅか?」

「わがおう、わたしのこと、きらいじゃない?」


 幼児退行は未だ治っていない。

 だが、セージの言葉には少し安心感を覚える。

 恐る恐る、近寄っていく二人。

 そして、大丈夫そうだと確信すると──

 左右から抱き着くのだった。


「嫌いじゃないからなー。ほらほら、立ち直れって。立ち直りの早さが売りの二人だろ?」


「………………」

「………………」


 それから四半刻ほどが経ち。


「そろそろ大丈夫そう? この状態に胡坐あぐらをかいてない態度だったら、今の俺、二人に優しくするし」


「はい、もう大丈夫です」

「王から嫌われてなくて安心しました」


「あ……そうだ」


「「??」」


「いや、二人にも何かあげようと思ってさ。あー、【お掃除棒mkⅡマークツー】、欲しがってたっけ?」


「!? も、もしや」

「いただけるのですか!?」


「俺も言い過ぎたしな。ホントはストックで掃除用に一本とっておきたかったけど、一人一本ずつってことで。しょうがないから、もう二本ともあげよう。自分が使うお掃除用のは、また新しく作るか」


「エルフィ──これはまさか!!」

「そうです、アイナ! まさしく王からの【プロポーズ】!!」


「は? フォレストハイエルフのプロポーズ条件ってなんなの?」


 この展開には慣れてしまったセージ。

 もう、怪訝けげんな顔をするのみである。

 それ以前に、当初から二人はこんな感じだったという理由もある。


「よくぞ聞いてくださいました。フォレストハイエルフの条件こそ、全エルフ中で【最高難易度】」

「その条件とは──まず一つ目、これは【デザートエルフ】と重なりますが、武器を贈ること。ただし、その難易度はさらに上で、最低でも伝説クラス。そして二つ目、これがまず普通は無理なのですが──フォレストハイエルフの命を救うこと」


「ふーん。じゃあ俺、条件満たせてないじゃん。その【お掃除棒mkⅡマークツー】は俺が作ったやつだからカムエンペに刺さってた初代お掃除棒と違って伝説じゃないし。なにより二人の命なんて救った覚えがないし」


「な、なにをおっしゃいます!? これこそ至高の宝剣。伝説など、かすむレベルです」

「しかも、命に関しては初対面の時に救ってくださったではないですか」


「あぁ……行き倒れのアレ、カウントされてんのか。しかし、その棒……いくらでも作れるんだけど。お掃除用だよ? 逆に君らそれでいいの? 『毎日それでお掃除してくれ』ってプロポーズするにしても、普通は指輪とかを贈るもんだと思うのは俺だけなのかな。ほんっっとに今さらな話なんだけど、エルフっておかしくない?」


「それは王の能力の高さゆえです。しかし──エルフィ」

「ええ。これで我々が他のハイエルフを出し抜き──王からのプロポーズされた初のハイエルフとなってしまいました」


「………………」


『そうか……。二人とも引きこもってたから、事情、知らないのか』

 得意そうにしている二人を見て、セージはなんだか悲しい気持ちになった。


「な、なんですか王よ。そのあわれみの視線は」

「新たな形のご褒美ですか」


 無視や嫌う言動以外はご褒美に換算する二人。

 完全に元に戻っている。


「いや……ものっすごく言いづらいんだけど。いや、まぁいいか。ぶっちゃけさ、そのハイエルフ的プロポーズ。君らが──最後なんだよね」


「えっ……は……?」

「ま、またまた御冗談を! あっ【覇王ジョーク】! 本日も【覇王ジョーク】がわたっておりますね!?」


「………………」


「え、えっ? まさか、本当に? 各ハイエルフのプロポーズ条件、ものすごく難しいんですよ?」

「デザートハイエルフはフォレストハイエルフに近いからわかります。王なら楽勝でしょう。マウンテンハイエルフは──特殊な鉱石。そこいらの鉄鉱石では満足しないレベル。シーハイエルフに至っては──各色合わせて七種類の装飾品ですよ。そんなの、一朝一夕で手に入るモノではございません」


「順番に説明するか。まず、ディネルースさん。カムエンペに刺さってた初代お掃除棒あげた。エイルさん。空から降ってきた隕鉄をあげた。そして、エアルウィンさん。手作りの髪留めあげたら、たまたまソレが虹色だった」


「……マジでございますか?」

「本当に? 我々が最後? 勇者様お得意の【ブレイブ・ジョーク】ではなく?」


 ショックからだろうか。

 アイナの口調はおかしくなっている。

 エルフィはジョークでませたくてたまらない。


「残念ながら。条件とか知らなかったんだけど……気づいたらそんな感じに。あと【ブレイブ・ジョーク】って何だよ。君が以前使ってた【ブレイブ・スラッシュ】とかいうのの仲間かよ。ちなみに、フォレストハイエルフの条件も、いま知った。ところであのさ、一つ聞いていい?」


「一つといわず、いくらでも」

「我らの恥ずかしい秘密でしょうか? 如何様いかようにも」


「ハイエルフだけなのかもしれないけど、プロポーズのその異常な難易度。それ、代々クリアされてきてんの? ぶっちゃけ、難易度高くしすぎると、各王族滅びちゃうんじゃないかな」


 エセ双子的、恥ずかしい秘密の内容。

 それを当然の如くスルーするセージ。


「そ、それは、そのぉ」

「あぅ、ええと」


 何やら言いにくそうにしているエセ双子。

『あ、コレまた意味のわからん理由が来るな』

 セージはそう直感する。


「セイヤ様の時代に、次代の勇者が現れた時のみ、そういった条件をすようにと」

「一族の仕来しきたりでして、平素は特に……。恋愛でも政略でも、どちらでも。人間と同じです」


「それ、ご先祖様が決めたの?」


「いえ、セイヤ様ご自身と申しますか、お仲間が助言により全体的な雰囲気でそうなったとか」

「助言なさったのは確か……シーエルフを先導した【チフユ】様だったかと」


「おい誰だよ。また初めて聞く名前だよソレ。二人は情報を小出しにする呪いにでも、りつかれてんのかよ。……って、そうか、エアルウィンさんの一族に協力したって人の名前か。そういえばマーメイドの時だけ名前聞き忘れてたな」


 恐らく、聞けば喜んで何でも答えたであろうマーメイド。

 何せ、聞いてもいないエルフ的恋愛事情すららすほどである。


「その通りでございます」

「【外交関連のチート】の持ち主、チフユ様です」


「それは追々おいおい、聞いていこうと思うんだけど。それより、二人ともいいのか?」


「はい、我々がセージ様の性癖を受け入れられるかですね?」

「我らはいかなる行為でも、いつでもウェルカムでございます」


「おい、せめて文脈くらいつなげろよ! 一言ひとことたりとも、そんな話してねぇだろ! この【ハイエロフ】どもが! そうじゃなくて! こう、なんというか。現状、プロポーズ事情から言って、【ハイエルフハーレム】が形成されかかってるんだけど……」


 無視するつもりが、とうとうエロ発言に物申すセージ。

 意識的にツッコんだわけではなく、それは条件反射。

 つまり、あまりの突拍子のなさゆえだった。


「そちらでしたか」

「それでしたら全く問題ございません」


「え、自分で言うんもなんだけど、二人ですら俺を取り合ってる風なのに? また何で?」


「実は古来からの盟約がございまして──」

「覇王であり勇者でもあるセージ様は、【各エルフをいくらでもはべらせてよい】という決まりになっております」


「はっ? それも初耳なんだけど。それより聞いていい?」


「先ほども申し上げましたが、お好きなだけ」

「王の性癖に応えるのも我らが使命」


「あのさ、たまに二人でケンカ……かどうかは知らんけど。言い争ったり、嫉妬心からか面倒くさくなったりするじゃん? なんで?」


 またもエロ発言スルーに戻るセージ。

 だが、もっともな質問であった。


「えぇ~っとー……」

「はぅぁ……」


 その質問に二人は赤面した。

『エロ発言の時に赤面しろよ』

 セージはその様子を見て思う。


「なんか、言いにくい系の事情?」


「いえ、それは単純に、なんと申しましょうか」

「見えないところでしたら大丈夫なのですが、さすがに目の前で見せつけられると我慢ができず……」


「……アンダリエルさんの言う通り、単に感情が制御出来てないだけだったのか……」


『まぁ、理性と本能って別だし。分かってても無理なことってあるよな』

 あきれたように見えて、寛容かんような受け取り方。


 セージはその辺り、口で言うよりふところが広く。

 案外、理解があるのだった。


「最後にもう一個だけ。君らさ、俺が【フォレストハイエルフのプロポーズ条件】を満たせてなかったら──俺のこと諦めてた?」


「………………」

「………………」


 その質問に、エセ双子は気まずげに視線をらせた。

 どうやら、条件に関係なく自重する気などサラサラ皆無。

 アンダリエルいわく、『大好きすぎる』は伊達だてではないらしい。

 言葉にするまでもなく、態度が物語っていたのだった。

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