第24話 エルフカーニバルその2 ずっとセージのターン・ドワーフ(エイル)の場合

 そしてエルフ・カーニバル二日目。


 アイナとエルフィは──

 あれから一切、駄々をこねていない。

 さすがに先日の一件がこたえたらしい。

 立ち直りの早さには定評のある二人。

 だが、本日は自室に引きこもっていた。


「覇王閣下! 本日はよろしくお願いするであります!」


「お、おう。なんというか、エイルさんって常に気合いが入ってるよね。軍人っぽいというか。それ、種族の特徴?」


 ディネルースの時は釣られて敬語調になっていたセージ。

 エイルに対しても、初対面こそ丁寧語だった。

 だが今は口調を崩している。

 彼の中で、何かの線引きがあるのだろう。


「軍人らしさ──口調でありますか? 種族の特徴というわけではございません!」


「あぁ、エイルさん独特のってことね。なぜだろう……かたっ苦しい喋りなハズなのに、この話しやすさ……」


「光栄であります!」


 しかし、大げさではあった。

 こういう所はエルフだよな、と心中で頷くセージ。


「エイルさんはどこか行ってみたいお店とかある?」


「私は覇王閣下と供にいられれば、それだけで幸せなのであります!」


「あ、一人称は『私』なんだ。てっきり『小官』あたりかな? なんて勝手に想像しちゃってた」


「そうなのでありますが……『小官』は……可愛くないのであります……」


 いきなり女性らしい意見を述べるエイル。

 とはいいつつも、彼女とてエルフの一種族。

 小柄と言えど、容姿は非常に整っている。

 そのギャップによりセージの好感度は上がった。


「ってことは、その軍人っぽいのってキャラ付け? 失礼な言い方になっちゃうけど、その口調、小っちゃい子が背伸びしてるみたいで可愛いよなー。とはいえ小柄なだけで立派な美少女だし、種族的にそれなりの年齢なんだろうけど」


「いえ。体格が小柄でしたので舐められないよう、最初はそうでありましたが……気づけばこれが素の言動になっていたであります……」


 恥ずかしそうにエイルは語った。

 どうやら軍人らしさは彼女なりの涙ぐましい努力の結果らしい。

 もはや『エイルさんって撫でたくなるよね』などとは言えない。

 とはいえセージなので、もしかすると後々、言うかもしれないが。


 もちろん素の口調だというのはわかっていた。

 だが、安直なキャラ付けなどというレッテルを貼った自分に恥じ入るセージ。


 彼女から当初より感じていた真摯しんしさと真面目さ。

 聖剣マサユキの話の時には既に薄々感じてはいたのだが……。

 その大本に思い至り、思わずホロリと来るのだった。


「ドワーフ界も厳しいんだなあ。ザ・職人の国って感じ?」


「ほぼ全ドワーフが職人であります。覇王閣下も一度、首都【ウフィーピラ】にお越しいただきたいのであります!」


「うんうん、是非とも行かせてもらうよ。マサユキが打ち直された場所、見てみたいし」


「マサユキ……打ち直した聖剣の名前でありますか?」


「そうそう。昨日は持ち歩いてなかったけど、普段は守り刀として持ってるんだよ」


「アレは……不自然に精霊というか、精神を入れられたような形跡けいせきがあったので、気にはなっていたのであります……」


「あ、そういうのってわかるんだ」


「マウンテンエルフは素材と対話をしながら物造りを行いますので。しかし、守り刀ですか……」


「ん? 何かおかしかった?」


「とんでもないことであります! 私、感激しているのであります! ──あの、厚かましいお願いで恐縮でありますが……今お持ちでしたら、お見せ願えないでしょうか?」


 打ち直したマサユキを見せてほしいと頼むエイル。


「いいよ、はいどうぞ」


 打ち直された小刀は非常にシンプル。

 白木しらきの柄に、白木のさや

 造りとしては片刃で、日本刀に近い。

 取り出されたソレは、大事そうに布に包まれていた。


「では、拝見を……。──!?」


 丁寧に布から取り出し、鞘から抜く彼女。

 その刀身を見た瞬間、エイルの顔は驚きの色に染まる。


「あれっ? そんな乱暴に扱った覚えもないんだけど。もしかして、刃こぼれかくもりでもあった? うわ恥ずかしい。造り手に対して、そりゃ申し訳ないな」


 その反応を見て、セージは申し訳ない気持ちになる。


「ぎゃ、逆であります……。こ、これ、こんな──。さ、さすがは覇王閣下! すでに、【スピリット】が宿り始めているのであります!」


「んん? 【スピリット】??」


 その言葉にピンとこないセージ。

 一応、悪い意味で無さそうなことはわかる。


「モノは愛着を持って長く使っておりますと、稀に【スピリット】が宿るのであります。この小刀からは──以前、宿っていた精神の感謝の残り香と、それに呼応した精霊達が集まってきて……すでに聖剣に近い存在になりつつあるのであります……!」


「あ、もしかして……【スピリット】って、我が家に伝わる「付喪神つくもがみ」みたいな存在かな。ご先祖様由来だったら異世界の概念かな?」


「ぁ。そういえばセイヤ様のお仲間も、そうおっしゃっていたそうであります」


「ご先祖様の仲間? あ、ダークエルフみたくドワーフにも異世界人の誰かが付いてたのかな」


「はい! 【錬金鍛冶れんきんかじチート】をお持ちだった【ナツキ】様であります! 私の一族はセイヤ様と並んで大恩あるお方であります!」


「【錬金鍛冶チート】。うーん……【錬金鍛冶チート】に【生活魔法】。やっぱご先祖様だけ名前負け──」


「ななな、名前負け!? セイヤ様の【古代魔法】がでありますか!?」


「あ、その反応、ディネルースさんと同じなのな。まぁまぁ、決してバカにしてるわけじゃないから」


「こ、これは失礼したであります。しかし、もしも今の発言を覇王閣下以外が行った場合──それを聞いたエルフは総力を持って相手を叩きのめすのであります……!」


「あ、ああ。なんというか、俺が悪かったよ。今日は……なんでよりによって、飴ちゃんじゃなくて醤油煎餅しょうゆせんべいなんて持ち歩いてるんだ、俺は。せめて甘いものを持ち歩けって話だよ。エイルさん、これ──口に合うかはわかんないけど、良かったら食べて落ち着いて?」


「は、はあ。では失礼いたしまして…………なにこれ美味うまぁ!?」


 ディネルースと全く同じ反応のエイル。

 エルフの口調が崩れると、こうなるのかもしれない。

 それは本当に彼女の口に合ったらしく、夢中で食べていた。


「えっ、今回は甘いものですらないのに?」


「この天上の美味が……王の下賜かし品でありますか……!」


 ここも前回と同じであるが。

 異常な称賛しょうさんのされ具合。

 むしろセージの方がビビっていた。


「いやだから下賜品て。お煎餅せんべいあげただけなのにその反応、申し訳ないから。お煎餅くらい、なんなら袋ごと上げちゃうから。そうだ、ディネルースさんの時みたく、エイルさんにも……でもなぁ。お掃除棒(初代)は上げちゃったし、打ち直したマサユキもさすがに上げられない。んー……あ、そうだ」


 何かを思い出したかのように、セージは手の平を打った。


「??」


「エイルさんって鍛冶なんかの、火を使ったモノづくりが得意なんだよね?」


「ご用命でありますか!?」


「いやそういうワケじゃないんで。どうどう。冒険者時代の拾い物なんだけど──コレなんかどう?」


 そう言って、セージは小袋を取り出した。

 そして、袋の中からは鉱石らしきものが出てくる。

 大きさとしては拳大の半分程度。


「拾い物……で、ありますか?」


 疑問を発しながら鉄鉱石を受け取るエイル。


「なんか珍しい雰囲気だったから、たまに持ち歩いてるんだけど。いや待てよ。いくらドワーフだからって、女性に鉱石、しかも拾い物。よく考えなくても失礼さがはなはだだしいってレベルじゃないな。ごめん、やっぱり何か他の──」


 露店あたりで装飾品でも買うべきだった。

 せめて鉱石にしても、聖銀ミスリルだとか。

 第一、拾った珍しい石って、なんだよ。

 セージは心の中で、セルフツッコみをする。



「ここここコレは!!!!」


「……は?」


「い──隕鉄いんてつで、あります、か……!?」


 呆然自失ぼうせんじしつとする様子のエイル。

 発する言葉も途切れ途切れである。


「隕鉄って……空から落ちてくるヤツ? 確かに、落ちてた平野の周囲はくぼんでたかなぁ」


「まままさか、こ、これを……私に?」


「あれっ、なんか思いのほか良さげな反応だ。どうぞどうぞ、何となく持ち歩いてただけなんで、欲しいなら差し上げるよ。置物にするなり鍛冶に使うなり、好きに使っていいよ?」


「!?」


 そのセージの軽い返事に──。

 エイルは驚きのあまり、思わず両膝をつく。

 まるで卒倒でもしかねない勢いだった。


「その反応さ。エセ双子の初対面時に匹敵する──なんというか、予感がするんだよね。一応、確認するけど……エイルさん、レアだから驚いてるだけだよね?」


「レアもレア、下手すると地上で唯一の素材であります。そして、覇王閣下からの【プロポーズ】……私なんかで良ければ、喜んでお受けするのであります!!!!」


「プロ、ポーズ──!?」


 セージはディネルースの時と全く同じ反応リアクションを見せた。


「【マウンテンエルフ】にとって、対話すべき素材はとても大切なものであります。そして、マウンテンハイエルフにプロポーズする条件。それは……貴重な鉱物を持参することであります。その行為こそが──【これで結婚指輪を打ってくれ】という意味であります!! ゥグッ! まさか、隕鉄だなんて最高の素材でプロポーズをしていただけるなんて……ぅ、私は、幸せ者であります……」


 感極まり泣く反応までもが、ディネルースの時と同じである。


「なん……だと……!?」


 思わずシリアスな顔になるセージ。

 もはや、ここまで来ると呪いである。

 いや、彼は最初から……。

 エセ双子に出会った時から、その運命は決まっているのかもしれない。


 セージの持つエルフハーレム(笑)


 エセ双子とディネルースに引き続き──容赦ない勢いで追加要員が増える。


 なおこの時……彼は『断ろうだとか誤魔化そう』などとは考えられなかった。


 完全なる思考停止状態だったのだ。

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