第22話 エルフ合流、そしてションボリ~アフターが付いてない件~

「このたびは、何より大切な王を放り出して、多大なご迷惑を……」

「う、うぐぅぅ、申し訳、ありませんでしたぁ~」


 石畳に正座させられているエセ双子。

 フォレストエルフの長老・アンダリエルのめいである。

 異世界よりセイヤからもたらされた伝統的な座法である【正座】。

 その伝統は現在、エルフの王族である二人に容赦なく牙をいていた。


 姫なのに地面に額を付けっぱなしのアイナ。

 姫なのに泣きべそをかいて反省しているエルフィ。


 場所は前回から引き続いての会議室。

 戻らない王に気づき、泡を食って飛び込んできた二人。

 厳粛げんしゅくな場にも関わらず、即正座を申し付けられる。


 本来、フォレストエルフは一部を除き、エルフ種全体の盟主であるという立場なのだが……。


 今はこの場の誰もが、その盟主に対してあわれみの感情しかいだいていないのであった。


「元は俺が悪かったことで、置き去りにもしちゃったわけだから……。あの、アンダリエルさん、そういうことで。見ているとたたまれないというか──あまりにも悲しい光景ですし、ここいらで許してやってくれません……?」


「セージ様は二人に甘いですね。二人とも、おろかなおのれかえりみて、王に何か申し上げることは?」


「ありがとうございますありがとうございます! この胸に抱いた感謝の印として、文字通り私の胸をご自由に……!」

「あっ! ならば私は! 王のお好きな、お風呂──」


「うん──もう一刻いっこくは大丈夫そうだな。そろそろ二人とも、【エロフ】とかに改名しとく? どうして二人は事あるごとに俺に対してエロくろうとすんの? 君ら、名実ともにエルフの姫的な立場なんだろ? 『別に清楚せいそであれとまでは言わないけど、せめて姫なんだからもう少しつつしみは持てよ』って意見は──勝手な押し付けで、俺の偏見なのかなぁ? そもそも慎みって言葉自体、バーサーカー的な存在であるエルフの辞書にはってないのかな? それとも、実はどこかで【好色覇王】の異名を俺に取らせたいほどの恨みでも買ってたとか?」


 先ほどまでは雪解ゆきどけを思わせる、春のおとずれを感じさせたセージの温かな視線。


 だが逆効果な発言により、秒速で氷点下になっていた。

 そして二人に対する怒涛どとうの質問責め。

 エルフィなどはセリフを最後まで言わせてすらもらえない。


「え、英雄は色を好むので、『気を引きたいのなら、とりあえず脱いでおきなさい』と教育係の者が」

「男色でさえないのなら、──ひぃいいい!?」


「──────」


『氷点下をも下回る、形容しがたい視線だった。アレは生き物に向けていい目じゃなかった』

 その時、王の容赦ない眼力を浴びた二人は、後にそう語る。


 その好戦的な姿勢から『修羅の世界で生きている』とちまたで評判のエルフ。

 セージの住まうヴァンデリア王国などでは、『人類の天敵』とすら公言されている始末である。


 そのエルフの心胆を──勇者の視線は、これでもかとさむからしめた。


「はぁ、もういいですから。二人とも、ひとまず席につきなさい。ご覧なさい、他の族長も迷惑をこうむっているでしょう」


 一番奥に配置されている王の座席。

 その主は不動であり、勇者のものとされている。

 その左右は先ほどまで空席だったが──。

【正座】とともに伝わる、セイヤの時代からの伝統。

 その二つは、フォレストエルフの姫達のために用意されていた席だった。


 事情を知らない者がここだけ見れば、十中八九は驚くに違いない。


「それで、セージ様の──エルフ王のを、どのように世間へとどろかせようという話ですね」

「我らが不在の間、各種族の長は良くやってくれました。全エルフの王であるセージ様の御名みなもと、ここに友好と感謝を──」


 席についた途端、先ほどまでの情けない顔は嘘のようにりをひそめ……。

 まるで王族かのように、姫らしい発言を取り始める見目麗みめうるわししき二人。


「その立ち直りの早さだけは誇張こちょう抜きで……いや、皮肉じゃなく、マジで感心するわ」


 先ほどまで、『形容しがたい視線』を放っていたセージの目。

 その目は驚きのあまり、今では丸くならざるを得なかった。


「セージ様……二人が何か余計なことを言う前に、強制的に舵取かじとりをなさった方がよろしいかと」


 アイナとエルフィが着席して以降。

 変わらず、アンダリエルはセージの傍に控えていた。

 もしかすると二人に対し、目を光らせているのかもしれない。


「おっと、そうか。ああ、その前にアンダリエルさん。そもそもなんですが、この会合の趣旨は?」


「こ、この二人は──まさか、そんなことすら申し上げてないとは……!」


「ひっ!?」

「ちちち、違っ!」


 即座に王族から小動物へと立ち戻るエセ双子。

 もはや一周回って、その様子にセージは愛嬌すら覚えていた。


「まあまあ。【エルフ・カーニバル】とかいう名前だけ聞いてたもんで……どちらかというと、会議というよりお祭りみたいな集まりなのかなと」


「それも間違いではございません。会議の後は街でお祭りが行われますし。会合の趣旨は、そうですね……セイヤ様の時代以来、久方ぶりに現れてくださった王との顔合わせ──言ってしまえば、親睦しんぼく会です」


「ああ、そういう……。俺が王とかいうのは取りあえず置いておきまして、ここはもう、アンダリエルさんにお聞きしてもいいですか?」


「? はい、なんなりと」


「あの……、さっき『フォレストエルフよりも控え目な種族がいれば』って質問に誰も名乗り出なかったんですけど。もしかして、全種族がバーサーカーなんでしょうか……?」


「それは──なんと申しましょう。失礼な物言いになってしまいますが、『セージ様の質問の仕方から挙手できなかった』が正しいでしょうか……」


「俺の質問の仕方?」


「はい。『武力的に好戦的でない』という尋ね方なら──ここは人間族と同じ呼び方を私もしますね。ダークエルフ以外は手を挙げていたかと」


「?? そうなんですか? ちょっと、違いがわからないんですが」


「そうですね……。ここは、僭越せんえつながらエルフ各種族の特徴をご説明します。ということで皆さん、しばし、自由になさっていてください! ──アイナとエルフィはその間、正座で」


 さりげなく身内に厳しいアンダリエル。

 大人しく、ションボリと正座へ移行する二人。


「まぁまぁ、さっきは俺もそう言いましたけど……さすがに半泣き美少女の正座は見ていて可哀そう過ぎるので。それより、ご説明いただいても?」


 まさかの正座免除。

 敬愛する王からの思わぬ助け舟。

 何かと可哀そうな二人はパァッと顔を輝かせた。


「端的に申し上げますと──全エルフに言えることなのですが、情熱的なのです。それはもう、各専門分野に限った上での話なら控え目どころか苛烈かれつと言っていいほどに」


「か、苛烈!? それはまた……。ドワーフとマーメイドに至っては苛烈どころか、平和主義っぽく見えるんですけど……」


「戦闘面におきましては。ですが、専門分野の熱量に限っては大差ございません」


「と、言いますと?」


「……では、大まかな概要を。フォレストエルフはご存じの通りです。正面から敵を押し切ります。ダークエルフの価値観はフォレストエルフとほぼ同じ。ただし、どちらかというとゲリラ戦や、策による戦闘を得意としております。ドワーフは鍛冶や物づくりに対する熱量が。マーメイドは恋愛──いえ、ああ見えて、心理戦や政治的な駆け引きに突出しております」


「ん? ダークエルフがフォレストエルフのライバル的な感じってのはともかく、やはり他の二種族は控え目なのでは……?」


「それぞれ、物づくりと情報戦においては──『フォレストエルフの戦闘に比肩する。時と場合によっては、その上すらも行く』とお聞きになっても?」


「…………なるほど、把握しました。つまり、どの種族にしろ──何らかの形で、一癖も二癖もあって自己主張が激しいと」


「そういうことです。話の流れから得意分野の説明も入ってしまいましたが、大よそのご理解はそのように。とはいえ、セージ様を害そうとする者だけは絶対におりませんので、そこはご安心ください」


「そこは特に心配してませんが。そうだ、失礼な聞き方になっちゃうんですけど──アイナとエルフィの【エロさ】も、フォレストエルフの特徴ですか……?」


「それはこの二人に限っての話で例外です。語弊ごへいを承知で申し上げるなら、本来はマーメイドに多いタイプですね。普段はもっと──いえ、エルフの姫らしく厳粛げんしゅくで身持ちは異常に固いのです。それはもう、不逞ふていやからはずかしめを受けるくらいなら躊躇ちゅうちょなく自害を選ぶほどに。ただセージ様に関してだけは……大好きすぎて言動が制御できないようです。いや、本当にお恥ずかしい」


「あ、あぅあぅ」

「うぅ……」


 その言葉に赤面して恥ずかしがる高潔こうけつな姫であるハズのエセ双子。

 まるで、『穴があったら入りたい』とでも言わんばかりの態度である。


「何かあってもアフターケアはするから。頼むから、自害はせんでくれよ……」


 その様子を見て、セージは思わず『羞恥心……普通にあるんじゃん』と漏らすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る