第47話
***
夜会の会場から抜け出して、庭を歩いて涼んでいたパメラは口元に笑みを浮かべた。
「うふふ……ふふふっ、ははは」
誰もいない庭の隅で、パメラは体を折り曲げて笑い出した。
「あはははっ! 信じられないわ! 王太子殿下とお会いしたのよ! 私が!」
惨めな暮らしを送っていた子爵令嬢が、王都できらびやかなドレスを身にまとい王太子に出会った。
「信じられない……夢のようだわ」
パメラはほうっと呟いた。
「……いいえ、夢なんかじゃないわパメラ。前の暮らしが間違っていたの。今のこの世界が本当のあなたの世界よ」
一人で庭を歩き、パメラは言う。
「全部上手くいくわ。そうよ。あなたには華やかな世界がふさわしいわ」
いつの間にか裏庭の草が深く生い茂る場所までやって来てしまったことに気づいて、パメラは足を止めた。こちらには今は使われいない離れがいくつかあるらしい。
踵を返そうとした時、嗄れた声がした。
「……だれ? 誰かいるの?」
ひび割れて耳障りな、女の声だ。
パメラは辺りを見回した。すぐ側の離れの建物の下から白い指が覗いていた。半地下になっているらしい。窓には鉄格子が嵌まってほんのわずかに地上が見える程度だ。
「誰かいるのね? お願い、助けてっ、閉じ込められてるのっ!」
声には聞き覚えがあった。
「……エリザベス?」
パメラは怪訝な表情を浮かべて窓に近寄った。
「え? パメラ? パメラなの!?」
半地下に閉じ込められているのは義姉のエリザベスだった。
「あなた、こんなところにいたの……」
「……っ何よ! あんたのせいじゃないっ! なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよつ!」
エリザベスは鉄格子を掴んで怒鳴った。
「早く助けなさいよっ! 出して! ここから出してっ!」
パメラはすうっと表情を決して目を細めた。
「私のせい? おかしいわね。我が家にモルガン侯爵を呼んだのはあなたとマデリーンでしょ? それとも、「娘を売りたいがいくらで買う?」と連絡したのはお父様かしらね?」
「そ、それは……っ」
エリザベスがひくっと呻いた。
「あなた達は私がこんな目に遭うと知っていて、私を売ったお金で面白おかしく暮らすつもりだったのでしょう? なんでそんな連中を私が助けなくちゃならないのよ」
「う、うるさいわねっ! いいから出してよ! 早く出せ、このっ」
「……救い難い醜悪さね。あなたにはこの半地下がお似合いよエリザベス。モルガン侯爵と仲良く暮らしてね」
パメラははんっと鼻で笑って踵を返そうとした。
「まっ、待って! 私を置いていくつもり!?」
「当然よ。だって、あなた達が侯爵を呼んだのだもの。自分で責任を取りなさいよ」
「い、嫌よ! 嫌よ! もう嫌! 助けてよ! お願い!」
泣き叫ぶエリザベスをパメラは冷たい表情で見下ろした。
「全部、自業自得よ」
「わかったわよ! 謝るから! 助けてってば!」
「……何が「わかった」よ。母親に似て汚らしい性根をしているわね……誰もあんたなんか助けないわよ……自分が助けてもらえるような人間だと思っているの? とんでもない思い上がりね! あんたみたいな汚らしい屑は苦しみ抜いて死ねばいいのよっ! 死ねっ……死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね!!」
パメラは鉄格子を蹴りつけた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!」
「うふふふふふあははははははあっふふふふふ」
エリザベスの耳には、狂ったように怒鳴り続けるパメラの声に混じるように、耳障りな金属音に似た不気味な女の哄笑が聞こえていた。
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