第292話 誇れる奴
受け取った外信を渡し詰所へ戻る、間もなく上がりの時間になる。
「お先に失礼します!」
「気をつけて帰れよ。」
声を掛け、見送られて駐機場へ降りてきた、乗務を終え此れからは一個人に戻る時間。
平成初日だ<Γ>で帰る事にした。
「さてと、仕舞うか。」
誰かに伝える訳でも無いのに何時も呟いてしまう。
フロントに片膝でしゃがみ込む、此れは一人のライダーに戻る為の儀式みたいなものだ。
社旗の固定されない下端を持ち社旗棒の上端に合わせ三角に折る、其の侭同じく上端を持ち社旗棒の下端側へ合わせる、丁度鶴を折る時の最初の折り方だ、其の三角に為った社旗の頂点を持ち巻き付けていく、巻き終わり其処をクリップで止めた…。
此れで一般人へ戻れた、少なくとも自分の中ではだが。
社旗を出す其れはプレスの一人として、会社の代表として走る意味に為る、乗務を終える=一般のライダーに戻る、自分の中で気持ちを切り替える、社旗を仕舞うとはそう言う事だ。
此れは其の為の儀式みたいな物だから。
<さて帰りますかね>キーを差しONに回す、其処で聴き憶えのある音がする。
「空冷2st?、嘘だろ!、此れは<GR>の音だぞ?」
近づいてくる音、少しずつ大きく為って来る此れは!、只違いも現れてきた。
少し排気音は少し太く原付じゃない事は判る…、でもこんなに似てる音の正体は?、嘘だろ?、此処に入って来るのか!。
意外な車輌が、意外な方と現れた…、アイツが向こうで相棒にする<RD50>其の出で立ちの侭の<RD90>だった。
「どうされたんですか?、休み番ですよね?」
休みの社員さんがタンデムで現れた。
「いや、此れのパーツを仕入にバイク街にな、まだ早いから寄って見た。」
「ピリオンにいらっしゃるのは奥様ですか?」
勿論ご結婚されて子供さんもお二人いらっしゃる。
「何時も主人がお世話になってます。」
「いや、此方が教えて頂いてばかりです、私森田と申します。」
「まあ!、貴方が?」
驚かれた目をされてしまう。
「どうかされましたか?」
クスクス笑われて居られる?。
「会社にキチガイが居るって教えて有るんだ!」
「なっ!…。」
続く言葉が出でこなかった、何てこと教えてるんですか!。
「明けだよね?、此れから帰りかい、気を付けてな。」
「そう何ですが、伺ってもいいですか?」
「何だい改まって?」
「其のRDは何時から乗られてらっしゃるのですか?」
「コイツか?、新車からずっと、長い付き合いだよ。」
「YAMAHAだから素直に走ってくれますよね?」
「気になるのか、乗って見るか?」
「いえ、妹が高校の通学に使うんですよ、その妹分の<RD50>を。」
「本当か?、かなりの年季もんだぞ此奴?」
「写真も見せて貰いました、スポークで、ディスク、90と違ってリベット止のシート、カラーは同じレッドです、唯近付いて来る音は<GR>かと思いましたけど。」
「GR?、あの一回り小さい奴か?」
「そうです、俺、彼奴<GR>にバイクの事全部教えて貰ったんです。」
「じゃあ女の子なら小さい<GR>の方が良いじゃ無いか?」
「残念ながらアイツは此の世に居ません、自分と引き換えに若い子の命守って旅立ちました。」
そうだよな、アイツらしい最期だったんだろうな…。
「聞いても良いか?」
「気に為りますよね、全開の侭レブ気にしなかったんでしょうね、其の状態で回し続けてエンジンロック、ピストンは叩いてもシリンダーから抜けなかったと聞きました、でも転倒せずに自然に速度落して止まったって聞いてます、俺が整備してたんでクラッチも変えて有ります…。」
「其れでも転倒せずに自然に止まったのか…。」
「対向車も居た様です、其れでも怪我一つさせずに止まって天寿を全うした様です。」
「そうか良い奴だったんだな…、でも心配じゃ無いのかお前が見て遣れなくて?」
「そうなんですが、俺にメカの事を一から教えて呉れた親父さんの店何で心配無いです。」
「お前のRZも良い音してるもんな、其なら安心だ。」とだけ返って来た。
「お前、まだ元気に走ってる姉妹が居るんだとよ…、良かったな…。」
そう申され俺がするようにタンクを撫でて居られた。
「単車に乗って通うんですか、スクーターじゃ無くて?」
女の子だからそう思うのも無理はないか、俺だって思ったんだから。
「残念ですが、私が何時も楽しそうに乗ってた影響ですね。」
「それじゃ仕方ないですね、引き留めて悪かったですね。」
「それでは妹が待ってるんで帰ります。」
「えっ?、其れって?」
「俺が説明しとくから、帰ってやんな、引き留めて悪かったな。」
「いえ、良い物見せて貰ったし、相棒の事思い出せて良かったです、有難う御座いましたそれでは失礼いたします。」
そう言い残し本社を後にし走り出す、<GR>の事少し思い出せて、そして良い奴だったんだと言って貰えて本当に嬉しかった、今の俺は<GR>と出会わなければ居なかった筈だから。
元号が変ったので感傷的に為って居るのだろうか…、上京しての原点、そして俺がバイクに魅せられた原点、其々を思い出すような出来事が起きた二日間だった、此の先何処迄行けるのか?、何処迄彼等に、伝説と呼ばれた彼らに何処迄近づけるのだろうか…。
少しでも早く帰りたかった、本社を出て<鎌倉橋>左折、続けて<神田橋>左折し其の侭<神田橋>から都心環状線に上がる、向島線、小松川線と抜けて行く、そして京葉道路へ、<花輪>で降り成田街道へ、<馬込十字路>を過ぎたもう直ぐ我が家だ…。
「お帰りなさ~い💗」
「お帰りなさい💗」
声は殆ど被って居た、続いての行動も…。
「変な匂いしませんね?、安心しました!」
「うん!、他の匂いしない!、あたしも安心した!」
此奴等動物なのか?、入るなり匂いチェックが始まっていた。
「何か忘れて無い?」
「そうです忘れてますよ!」
「お前等がそんな事するからだ!」
此れって若しかして、ハーレムルート?。
「ハイッ!、忘れてる事!」
完全に被って居た…・。
「ただいま!」
「お帰りなさい💗」
此れも完全に被って居た…。
二日間の乗務が無事に完了した瞬間だった…。
少しばかりの補足して置きます、<GR>はクラッチスプリングが4本供折れていたそうです、書き忘れて居りました、勿論ディスクと一緒に新品に…、本当に誇れる奴だったんです…。
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