セカンドアカウント ~坂本竜馬第二の人生~

ponzi

第1話坂本竜馬は生きていた

1867年、京都近江屋。暗殺の刃が竜馬を襲うも、奇跡的に一命を取り留めた。瀕死の竜馬に西郷隆盛は囁く。


「坂本さん、あんたはもう名前が大きくなり過ぎた。一度、アカウントを変えた方がいい」


竜馬はハッとする。確かに、今の自分は幕府側からも討幕派からも命を狙われている。一度死んだことにして、全く新しい人生を歩む…それしか道は残されていないのかもしれない。


竜馬は静かに頷き、二度目の人生を歩む決意を固めた。


江戸に戻った竜馬は、ある日の早朝、江戸城の前で三味線を弾き、哀愁漂う唄を口ずさんでいた。ふと気づくと、一人の女性が立ち尽くしている。21歳、尼になったばかりの和宮だった。


「そこで歌っているのはだれですか?」

「ありゃ、早朝から迷惑じゃったかの。起こしてしまったみたいじゃの」

「いえいえ。素敵な音色と歌声ですね」

「おいの名前は坂本竜馬、いや、坂本竜馬は死んだんじゃった。今は名もなき脱藩浪人です」


竜馬の奏でる音色、そしてその歌声に、和宮は心を奪われた。二人は言葉を交わし、互いの境遇に共感する。竜馬は激動の時代を駆け抜ける中で、和宮は政略結婚という運命に翻弄され、それぞれ孤独を抱えていた。


「さて、お姫様もそろそろ朝ごはんじゃろ。おいはこれでおいとまするかの」

「本物の坂本竜馬さまですか!?」

「内緒じゃけどの(笑)」

竜馬はいたずらっぽくわらう。


二人の間に、秘めたる恋が芽生える。竜馬は自らの性指向に気づかぬまま、和宮への想いを募らせていく。和宮もまた、竜馬との出会いに安らぎを見出していた。しかし、二人の恋は決して世間に公表されることはなかった。


31歳で和宮が病に倒れるまで、二人の関係は続いた。和宮は生涯、子供を授かることはなかった。


竜馬は勝海舟にだけ、密かに別れの挨拶をした。


「勝先生、おいはアメリカに行こうと思います」


「竜馬、アメリカでは英語を使えないと苦労するぞ」


「ジョン万次郎さんや福沢諭吉さんに少しは教わりましたが、まだまだです。でも、向こうで勉強します」


「Goodbye!竜馬。I hope that you would succeed in your second life !(お前さんの2度目の人生の成功を祈っているよ)」


勝は竜馬の手に握りしめられた小さな辞書に目をやり、静かに微笑んだ。


「Thank you very much ! My Master !(ありがとうございます!おいの先生!)」


竜馬は深々と頭を下げ、アメリカへの船へと乗り込んだ。


アメリカに渡った竜馬は、「林間(リンカーン)」と名乗り、フリーメイソンに加入する。持ち前の行動力と好奇心で、様々なことに挑戦していく。


大相撲力士として土俵に上がり、熱狂する観客を沸かせる。草創期の野球チームに参加し、白球を追いかける。華やかな芸者遊びに興じ、夜の街を闊歩する。貿易会社やイベント企画会社を立ち上げ、ビジネスの世界でも手腕を発揮する。


東京帝国大学で経済学を学び、やがて哲学書を執筆する。小説や戯曲を書き、ドラマや映画、芝居の世界にも進出する。美食への探求心からレストランを開業し、舌の肥えた客を唸らせる。幸徳秋水らとジャーナリズム活動に身を投じ、言論の力で社会を変えようとする。


竜馬、いや林間は、教育、医療、福祉、音楽、芝居、文学、哲学、野球、相撲、食、法律、経済、物理、情報学…ありとあらゆる分野に情熱を注ぎ、マルチな才能を開花させていく。


明治から昭和初期にかけて、日米を股にかけて国際的に活躍する林間。その名は、次第に人々の知るところとなり、伝説となっていく。

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