第33話 開戦

 僕はルベルトさんとアッシュに成長魔法の話をした。


 最初は俄には信じられないようだったが、僕が一回、ローマジック・アップを使用して、獲得した魔法を使ってもらったら、流石に信じるしかなかったようだ。


 さらに、僕がセルフの成長魔法で強くなったところを見せたら、再び驚愕していた。


 それもそうだろう。

 正直人間離れしているので、親しい人にしか僕が本気で動いているところなどは見せていない。


 知っているのは、ハクシュトアでも数人だけだ。


 ルベルトさんとアッシュに見せるときも、ハクシュトアから少し離れて、人のいない場所に行ってから見せた。


「いや……知らん間に、とんでもないことになっておったようじゃのう……」

「まさか、人間辞めてるとは思わなかったぜ」

「や、やめてないからね。うん、たぶん」


 10mくらいは軽くジャンプできる僕を、人間と言って良いのかわからなかった。


「しかし、それで、お主は昔みたいに魔法も使えるようになっておるんじゃろ?」

「うん。まあ、昔ほど大量の魔法は使えないけどね。精々、合計で千回くらいだけど」

「千を精々と表現するのはお主くらいじゃ」

「だな。俺なんて最初使えたのが、二百くらいだったからな。それでも、魔法がかなり多く使えることが生まれたって、一族総出で大騒ぎだったらしいんだぜ」


 アッシュとルベルトさんは、僕の言葉に呆れていた。まあ、確かに僕の魔法に関する感覚は、少しずれてしまっているかもしれない。


「しかし、それほどの力があれば、帝国を打倒することも可能かもしれんのう」


 ルベルトさんは、感心したように呟いた。


「二人には、成長魔法で魔法を付けたいと思います」

「それは……いいのかのう?」

「うん。帝国から亡命してくれるって言うのに、僕から何もお返ししないってことにはいきませんから。ただ、絶対に裏切らないと約束してください」

「それは約束する」

「まあ、仮に裏切ったとしても、今のライルからは逃げ切れる自信はねーしな」


 確かに今の僕なら、誰かが脱走した場合、追いかけて捕まえることは出来ると思う。

 上がったのは身体能力だけでなく、賢さ、器用さ、それから各技能だ。身体能力だけなら、確実に追いつけるとも限らないけど、どこに行ったのかある程度計算できるので、捕まえるのはおそらく可能だろう。

 でも、仮に追いつくのが不可能だったとしても、僕は二人に成長魔法を使っていたと思う。


 帝国から来て僕を信じるという言葉が、純粋に嬉しかったからだ。

 僕としては二人が裏切るとは思っていない。

 信頼できると思っている。


「じゃあ、使います」


 残り数回しかないオールマジックアップを、アッシュとルベルトさんに一回ずつ。

 それから、ハイマジックアップとローマジックアップをそれぞれに30回ずつ使用した。


 二人は元々現役で魔法兵として戦っていた。

 数多くの魔法を使用しているので、戦場でどう魔法を使えば良いのかも熟知している。


 さらに、ルベルトさんは、魔法戦術の研究家なので、魔法兵たちに指示を飛ばしたりもできるだろう。

 アッシュもルベルトさんの下で働いていたと言うので、もちろんある程度魔法戦術には精通しているはずだ。


 旧知の仲である二人と出会えて嬉しかったし、その上大きな戦力を僕は手に入れることが出来た。



 ○



 それから、ルベルトさんはアッシュと一緒に、魔法兵たちに魔法戦術論などを教え込んでいった。

 僕はルベルトさんほど詳しくなかったので、大助かりだ。元々僕の場合は、魔法戦術なんて学ぶ必要がないほど、大量に魔法を使えたので、あまり学ぶ意味はなかったのだ。


 そして、数日経過し、シンシアから書状が届いた。


 各領主に出陣を促す檄文であった。


 ついに戦が始まる時が来たようだ。


 僕は兵士たちを至急集めた。


 数は一千人前後と正直それほど多くはない。

 しかし、全員成長魔法で大幅に強化した兵士ばかり。魔法も使える者も多い。


 万の軍勢すらも凌駕する強さを持っていると、僕は思っていた。


「親帝国派を打倒するための戦いに我々は参加する! 出陣するぞ!」


 僕はハクシュトアの兵を従え、檄文が指定している集合場所まで向かった。



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