第94話 樹上型ダンジョンに家族チームで挑む件
その話が来栖家の元に舞い込んで来たのは、8月の下旬に差し掛かった残暑の頃だった。今年の台風事情はどうかねぇと、午前中の涼しい時期に護人と姫香が畑仕事を終わらせて。
納屋に道具を戻しながらの会話中に、護人の携帯が着信を知らせて来た。出てみると、珍しい事に協会の支部長の
その用件だが、この後幾らか時間が取れるかとのお伺い。どうやら何かの案件を抱えていて、それを来栖家チームに紹介したそうな雰囲気。
とするとダンジョン関連なのかなと、隣で聞き耳を立てていた姫香の推測に。護人も同じく、嫌な予感が胸中を駆け巡る。
そう言えば、お盆過ぎの家族サービスがまだだよねと、続けざまの少女の呟きに。ダンジョン探索は、家族サービスに含まれるのかと胸中複雑な家長である。
取り敢えず、電話では昼食後に伺いますとの返答を行なう。
「でも実際の所、8月中にもう1個くらい探索したいよね。でないと、9月の青空市に出す商品が微妙かも、護人叔父さん」
「いや、青空市で生計を立ててる訳じゃ無いし、そこは平気だろ……」
そうは返したが、全然納得してくれない娘は果たして反抗期なのか否か。それはともかく、行くと言った手前は厄介ごとの依頼は耳に入って来そう。
そしてその電話について、探索が決定したかの様に姉妹に広げる姫香であった。もちろん香多奈は大喜び、夏休みの宿題もほぼ終わったとアピール中。
つまりは付いて行く権利はあるよと、そんな感じの理屈が発動している模様。お昼の準備をしていた紗良も、探索の準備もしなくちゃと慌て気味。
協会に話を伺いに行くだけなんだけどと、諭すように言っても既に後の祭り。犬達も久々の出動を察知して、ハイテンションで庭を駆け回っている。
ルルンバちゃんまで、飛行モードで出動可能のアピールに余念がない。そんなカオスな状況でも、紗良の作ってくれた素麺とお握りの昼食は美味しかった。
キュウリやら大葉やら、錦糸卵やらナスやら具沢山なのは農家的にもはや定番である。麵を探すのが大変と言う、恒例の食事の騒がしさを経た後で。
探索の準備を完璧にこなして、ミケとルルンバちゃんのパーツまで完璧に揃え。満を持しての、家族揃ってのキャンピングカーでの出動である。
今回は万一に備えて、間食まで紗良は持参する周到さ。
「そっか、ウチのチームは探索スピード速いけど……変な時間にダンジョンに入っちゃうと、途中でお腹が
さすが紗良姉さん、しっかりしてるよ!」
「ほら、広島市での実習訓練でも4時間くらい潜ってたでしょ? どうも他のチームだと、1回の探索でそれ位は普通に潜るみたいだから。
万一のために、途中で食べられる物があった方が良いかなって」
「ハスキー軍団も食いしん坊だからね、私も犬達のおやつは持って来てるよ!」
香多奈もジャーキー的なモノを、しっかり探索着のボッケに忍ばせてあるらしい。お腹が空いたら、たまに自分も食べてしまうのはご愛敬。
とにかく車は家を出発して、麓の協会へ向かってひた走る。
そして10分後には、家族揃って目的地へと辿り着いた。協会の駐車場には、いつものように職員以外の車は1台も停まっていない。
夏の日差しは容赦なく広場に降り注ぎ、周囲の樹々にとまっている蝉の鳴き声がとても
そして挨拶もそこそこに、ダンジョン紹介してと猛アピール。
「いや、それは違うぞ……さっき電話で聞いた、話の内容の確認に来ただけで。えっと、何か依頼したい案件でもあるんですか、仁志さん?」
「はぁ、まぁ……申し訳ないんですが、まさにダンジョン案件でして。ここから3駅ほど海側の隣町に、何と言うか突然“樹上型ダンジョン”が発生しましてね。
鬼が作ったと噂になって、地元の自警団も手出しを恐れる有り様なんですよ」
鬼がダンジョン作れるのかなと、子供たちは不思議そうな表情。護人だって、隣町の事情も鬼が出るなんて話も聞いた事など無い。
そして鬼の情報が流布した結果、その新造ダンジョンの構造は全く出回って無いそう。そんなダンジョンに新人チームを推薦するのもアレだか、事は急を要するかも。
何しろ新造ダンジョンなのだ、オーバーフローの危険は常にある。ってか、普通は地震とオーバーフローのセットは、新造ダンジョンには常に存在する筈。
ところが今回のは、朝起きたら知らない間に生えていたらしい。それに加えて鬼の目撃情報、地元の探索者も敬遠すると言うモノ。
この鬼達だが、以前から同地区で度々目撃されているとの事。遭遇したベテラン探索チームも、返り討ちにあった過去もあるそうな。
そんな地元のアンタッチャブル、紹介されたらどうするべき?
同じく協会の事務員の能見さんが言うには、新造ダンジョンなのでドロップ率は非情に良いのではとの話。未確認情報だが、今までの傾向ではありそうな気も。
それに見事に釣られる子供たち、探索の準備はバッチリだよと食いつきも半端ない。受けるなら依頼の形で報奨金が出ますと、仁志支部長がさり気なくプッシュ。
前後を固められた護人は、
つまり唯一の情報は、『鬼が一夜で造った』と言う信じられないモノのみ。そんな触れ込みのダンジョンに、今から潜らなければいけないらしい。
護人のやる気はダダ落ちだが、反対に子供たちはドンと来いと気力は充分っぽい。帰りが遅くなったら、途中の町で外食しようよとか呑気に攻略後の計画を立てている始末。
たまにはラーメンとかいいなと、香多奈もその話には乗り気である。
そんな訳で、護人は再びキャンピングカーを運転して隣町へ。助手席で姫香が、貰った地図で目的地までのナビ役をこなす構え。
もっとも途中までは、隣町への買い物ルートなので問題無し。そこから更に県道を進んで、3つ目の駅を超えて山に入る道を進めば良いらしい。
そうすれば遠目からでも、目的の“樹上型ダンジョン”は確認出来るそう。やたらと巨大な樹木は、どこからでも見える筈と仁志支部長は言っていた。
その言葉に間違いは無く、駅の手前で既にその樹木は視界に入って来た。
「うわぁ、大きいねぇ……ひょっとして、アレが一夜で生えて来たの?」
「それは凄いね、それじゃ間違っても普通の樹とは別物だよね、護人叔父さん」
「そうだなぁ、鬼の目撃情報ってのが気になるが……取り敢えずは中の調査に集中しようか、さあ着いたぞ。
みんな準備出来たら、車を降りて探索を始めるぞ」
は~いと元気な返事と共に、キャンピングカーは路肩の木陰にゆっくりと停車する。その日影だが、実は例の大樹が作ったモノだったり。
周囲にあるのはありふれた田舎道のみで、人影も車の行き交いも全く無し。例の大樹は、廃墟となった民家の奥にどっしりと存在していた。
近付くとその大きさが良く分かる、大人が10人手を繋いでやっと1周出来る程の幹幅だ。そこに何故か、
それがぐるっと続いていて、地上から5メートル程度の場所にダンジョンの入り口が垣間見えた。木板の回廊は、残念ながらあまり丈夫そうには見えず。
これでは、乗用草刈り機モードのルルンバちゃんはちょっと進めなさそう。そんな訳で、ルルンバちゃんは飛行モードに自らチェンジ。
両方持って来て良かったねと、香多奈は彼の面倒もしっかりと見ているようで何より。例え実年齢では、ルルンバちゃんと大した差が無いとしても。
今回は、ダンジョン内の情報が全く無いから充分に気を付けるべし。そう子供たちに言い含めて、いざ突入するチーム『日馬割』である。
そしてゲート型の入り口を潜って、中の仕様に皆で驚きの声を上げる一行。
何しろ樹木内部を切り抜いた様な円形の室内は、広々とした空間で全て木材使用。そして見渡す限り、行く手を阻むようなアスレチック機材が
つまりは初めて見る、アスレチックエリアのダンジョンに一同
「ええっ、こんなダンジョンって本当にあるんだ……これってアスレチックを楽しめばいいのかな。どうなんだろうね、護人叔父さん?」
「いや、敵もちゃんといるみたいだな……しかし困ったな、武器で両手を
「わ、私は運動系が苦手なんですけど……」
尻込みする紗良に対して、大丈夫だよと根拠のない後押しをする末妹。当の少女は運動神経は抜群で、見渡す限り拡がるアスレチックコースに楽しそうな笑み。
ハスキー軍団は、見知らぬ構造のエリアに不審そうな表情であちこちを嗅ぎ回っている。そして近付いて来た大カナブンとパペットに、早速ちょっかいを掛けている。
じゃれつかれた敵たちは、1分も経たずに割と悲惨な目に。それを尻目に、護人たちはエリアを眺めてルート確定に
どうも赤い旗が立っている箇所に、次の層へのゲートが湧いているっぽい。そう解説する姫香に、末妹の香多奈は感心した表情を浮かべている。
研修旅行で色々と学んだからねと、姫香は意味不明な自信に満ちている。とにかくこのダンジョンの攻略は、姫香が先導する事になりそう。
そして直感で、奥のゲートへのルートを割り出す姫香。右回りや左回りの道順がある中で、彼女が選択したのは左回りのコースだった。
そちらは段差付きの木株を、飛び移っての移動するコースっぽい。ちょっと危険だが、これなら手が塞がっていてもある程度は大丈夫な筈。
ちなみに出て来る敵は、ほとんどハスキー達が片付けてしまっていた。残ってるのは魔植物の動く
それも先行する姫香やレイジーが、退治して魔石に変えている。そして転がった魔石は、飛行型のルルンバちゃんがしっかり回収してくれると言う。
何とも優秀なスタッフ陣営、その中でも際立つのはどこでも歩行が可能なレイジーだろうか。ツグミとコロ助も、香多奈の後ろを木株ジャンプしながらついて来ている。
そして紗良も頑張って、苦手なアスレチックに単独で挑戦中。ちなみにミケは、今は香多奈が抱っこして移動している。
先頭集団の姫香は、もう少しで大きな木板の舞台に到着しそう。そこにレイジーが、何か発見したよと告げて来た。
それに素早く反応する少女、強化済みの武器を抱えて木株の間に身体を滑り込ませる。そこにあったのは、平凡なサイズの木箱だった。
発見を大声で後衛に告げるが、最後尾の香多奈はそれを覗きに行けない。取り敢えず回収するねと、姫香は飽くまでマイペース。
その中身だが、小物が結構な数入っていて割と賑やか。まずは鑑定の書が4枚に木の実が3個、それから何かの種が20粒程度に金色のコインが3枚ほど。
コインは鬼の顔の刻印がされていて、なにか
そしてようやく、フロアの端っこでチーム全員が合流を果たした。
「ふうっ、最後に蔦の網を登らされるって、本格的なアスレチックコースじゃん! 端から端まで行くのに、結構時間が掛かっちゃったね、護人叔父さん。
って言っても、だいたい15分くらい?」
「そうだな、他のダンジョンとは大変さの軸が違うけど……まぁ、敵の横槍が無ければ何とか行けそうかな?
この後も進むのは平気そうかな、紗良に香多奈?」
「私は全然平気だよっ、紗良お姉ちゃんのサポートも私がしてあげるねっ! いざとなったら『応援』で、運動能力上げれば行けるでしょ!?」
「そ、そうね……ありがとう、香多奈ちゃん」
そして休憩を挟んで、次の層へと行こうかと相談する来栖家チーム。その時、姫香が思い出したように、運動能力の上がる木の実もあったよねと呟いた。
その言葉に紗良は鞄を
次の層からこれ食べるねと、紗良の問題は次から木の実で対応する事に。そうして全員でゲートに飛び込んで、次なる層へと潜って行く。
2層も丸い囲いの木のフロアで、あちこちに丸太や蔦の遊具が散見していた。それを遊具と呼ぶには、モンスターの
次はあのルートを通ろうよと、姉に語り掛ける末妹はとっても楽しそう。香多奈からしたら、恐らく本当に遊具にしか見えないのだろう。
そして決まった進行ルートは、荒縄と丸太で出来た揺れる橋だった。その
犬達も勝手に先行して、遠くに見えたパペット兵士を蹴散らしてくれている。そして飛んで来た大カナブンは、ミケの『雷槌』で一撃で撃ち落とされて行く始末。
厄介な事に、横に落下防止のロープの無い吊り橋も半分あったりして。木の実で器用度を上げた紗良も、これには恐怖で動けずな状況に。
とんだ弱点の発覚だが、それを笑う者は家族チームの中には誰一人として存在しない。香多奈がすぐ前を歩いて、肩に手を置いていいよと姉をサポートしている。
その間に前衛陣は、飛んで来た大クワガタと戦いを繰り広げていた。足場の悪さに多少は肝を冷やしたが、姫香の『圧縮』はそんな場所でも足場を提供してくれる。
2匹目以降は、コロ助が『牙突』で撃墜に成功。
「紗良姉さん、大丈夫……? いっその事、コロ助に巨大化して貰って、その背中に乗って移動してみたら?」
「そこまでしなくても平気、何とか頑張るよ……ちょっと、足場から下の見える高い場所が怖かっただけだから。
香多奈ちゃんのお陰で、下を見ないで済む方法も編み出せたし」
「そうそう、女は度胸だよ紗良お姉ちゃん……あれっ、あそこにあるの宝箱じゃないかな、姫香お姉ちゃんっ!?」
末妹の視線の先、外壁の壁際の高い場所の
紗良が休んでいる間に、2個目の宝箱の中身の確認作業。中にはMP回復ポーションが600mlに、緑色の魔玉が2個とビー玉サイズの魔石が3個入っていた。
未開拓の新造ダンジョンだけあって、確かにアイテム回収率は高いかも。
――ただし、難関アスレチックコースのエリアはまだまだ続きそう。
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