第17話
これまでの僕は、彼女の目的が果たされるよう、自分で出来る範囲で政府にたてついてきた。それは彼女と一緒に逃げる、という簡単な意思表示に過ぎなかったが、これからは違う。
僕は彼女を背負って政府とアルベルト大公という新勢力と闘っていかなくてはならないんだ。不意にはっぱをかけられた僕には、とてもじゃないが身に余る使命。たとえ彼女に求められた唯一の男だ、という自負で鼓舞しようとも、時空を歪ませることも、上帝の『天命』を覆す能力もない。まさしく、この能力主義社会で僕は『准特等生』ではなかったのだから。
今も彼女は僕のベッドですやすやと眠っている。別段、発熱もなければうなされてもいない。ただずっと眠っているのだ。
原因をいろいろと考えている内に、一つの仮説を思いついた。ハウリング現象だ。
本体と子機が近づくとノイズが出る例の現象。もしかすると、ドッペルゲンガーみたいな感じで、本来、この世に一つしかないものが近づくと、僕の持ち得る科学知識的に説明できないが、きっとオウムアムアと佳奈の思念とやらが干渉して、
これを基に僕がしなくてはならないことを整理すると、オウムアムアを地球にぶつけさせないこと、これがまずは第一。
そしてオウムアムアを潰そうとしている政府を止める。考えるだけで頭が痛いけど、簡潔に言って、そういうことだ。
「いでよ!オウムアムア!!」
……やはり無理。
もちろん、オウムアムアを浮沈艦にして戦う、などとは考えていない。
だが、彼女は倒れる前に、僕にも思念体としての素質があるみたいな話をした。それはつまり、僕には彼女の予備としての才能がある、ということでもあるはずだ。
でも、彼女の代わりに思念体に志願する方法は伝授さえてないし、未だに実は思念体という概念も正確につかめてはいない。
<ここで臨時ニュースです。昨日、元近衛寮政府中将で、現在は『アルベルト大公』と名乗っている
[わたくしはこれより、政府が隠匿している重大なる国家的、いや、文明的危機を臣民に告ぐ。政府が今日只今において、ミサイルや悪しき兵器たる原子核を宇宙空間へ向けて配備しているのは、察しの良い諸君であれば既知のことだろう。
しかし、その理由をメディアや官報によって誤解している。
彼らの目的は、我らが上帝陛下が動座なさった『
その遥か向こう、再び少しずつ近づきつつある小惑星の破壊、それこそが対象なのだ!
その小惑星の名は『オウムアムア』。かつて遠方より来たりし初めての使者とされた隕石である。
政府のすることは一見正しい。このままでは直撃し、人類にかつてない未曾有の壊滅を余儀なくされるから。
だが、オウムアムアがもし、もし仮に思念を持つ存在であったとすれば、この哲学倫理に秀でた諸君は、ミサイル発射スイッチを押させても良しとするだろうか!
今一度告ぐ、臣民よ、政府は腐敗した!再び上帝陛下の
オウムアムアの到来は、新たなる銀河帝国時代の序章である!]
<
僕は何歩も遅れて、ようやく行動できる。そしてその行動も、完璧なリカバリーには程遠い。独りだともう、無理かもしれない。
「上帝に…………会う!」
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