第21話
重たい体を勢いよく起こすと体を起こした振動で寝ているセツナが痛がる
俺も体全体が痛い
そのせいか、親父に復讐をしに行く夢を見た
怒りに身を任せて暴れ回り、たくさん殺した夢
「ごめんな」
そう言って寝ているセツナの頭を撫でようとしてやめる
この手で撫でる権利なんてない
俺は自分の胸に汚れた手を収める
復讐なんて。
何人もこの手で殺した
その事実は誰も知らないが、確かにやってしまったのだ
「俺は生きてていいのか」
そう呟くと、部屋のドアがノックされる
俺は即座に切り替える
入っていいぞと言おうと大きな声を出そうとすると腹筋に力が入ってしまい、悶える
すると、シズカがドアからしれっと入ってきた
「おはようございます」
「回復、魔術をくれ」
「筋肉痛は回復魔術じゃ治りませんし、逆に痛みますよ?」
くっ
「朝食取ってきたのでここに置いておきますね」
栄養がありそうなものが並べられる
ありがたい
「今日も学校ありますので。急いでください」
「休む」
「だめです」
鬼畜がいる
「義賊の件もありますので、早急に支度を終えさせてください。セツナ様も起きてください」
義賊?
シズカはセツナが痛そうにするのもお構いなしに引っ張り着替えさせる
俺は、昨日と同じようにトイレに入り制服に着替える
シャツに腕を回すだけで痛みが走る
「ぐっ」
なんとか制服を身につけて外に出ると
着替えたセツナがベットに撃沈していた
眠いアンド痛いだろうな
「支度が終わったら声かけてください」
そう言ってシズカは、外に出る
俺とセツナは、椅子に座り朝食を口に運ぶ
「大丈夫か?」
「兄さん。私、昨日の記憶がほとんどない。あとなんか胸が大きくなってた」
「俺もだ。ついでに腹筋バキバキだった」
俺らは寝ぼけていたがそれ以上何も話さず、黙々と朝食食べた
歯磨きや顔洗いと一通り終わると、俺らは部屋のドアを潜る
すると、シズカがしれっとした顔でお辞儀してきた
「おはようございます。若。セツナ様」
「・・・おはよう」
「・・・おはよう」
俺らは外に出て転移門の前に立つ
「私はセツナ様を送りますので先に行っててください」
「わかった。じゃあな、セツナ」
「うん。行ってきます」
シズカ達は転移門の座標を設定して、転移門に消えて行く
当然、俺は転移門の設定の仕方がわからないので普通に歩いて行く
「身体中が痛え」
歩く振動だけで、痛みが走る
今日ぐらい休ませてくれよ
「よっ、マサ」
そう言ってケンタロウはいつも通り俺の首に肩を回してきた
それが俺に取って致命的な一撃になった
「かはっ」
俺は筋肉の叫びに耐えられず地面に突っ伏し、震える
「マサーーーー!!」
俺はケンタロウに支えられて歩く
「お前、は、なんで、いるんだ?、こっち、方面、じゃ、ないだろ」
御三家の家は、互いが接触しないように街の端っこに三角を描くように配置されているはず
「いや、ここら辺にスラムに金をばら撒く義賊が現れたって言う目撃情報があって野次馬しにきたんだ」
義賊か。なんか前回もそんなやついたな
「その、義賊、は、どういう、見た目、なんだ?」
「マジで大丈夫か?お前」
痛いんだよ腹筋やら諸々
「見た目か?証言はなんかバラバラだったぞ?大人の色っぽい女性とか小さい女の子だとかヨボヨボの老人とか大男とか眼鏡をかけた細男とか」
「一人、じゃ、ない、のか?」
「あぁ、証言はたくさんある。もしかしたら、姿を変える魔道具でも使ってるんじゃないか?そんなたくさんいて一人も捕まらないってほど、ジャッチメントは役に立たないってことはないだろ」
魔道具ねぇ
魔術があるってことはそういうのもあるのか
「じゃあ、今、言った、姿、は、ない、ってこ、とか?」
「おそらくな、俺の予想じゃアルセーヌルパンみたいな怪盗紳士だと思ってる。」
予想じゃなくて理想だろ
「その義賊がな、今度は御三家の家を襲撃するって言ってたんだよ」
「は?」
そんなものに構ってる暇はないぞ?
こっちはパーティメンバーを探さなきゃいけないってのに
「しかも、実行日は1週間後なんだと」
「随分、と、急、だな」
「盗みに入られるなら、どの御三家だろうなと思ってさ。考えてみたんだよ。まず、マサん家はセキュリティ強固すぎて入れない。次に、あのアーニャちゃんだったよな。うん。その子の家は暗号資産に全移行しているから金をスラムにばら撒けないから盗みに入るわけがない。つまり・・・」
「お前ん家、ってか?」
俺が乗ってやると、ケンタロウは嬉しそうにそうだよそうだよと強く頷いている
「だからさ、一緒に捕まえに行かないか?」
「面倒、臭い」
「そう言わずにさ」
ケンタロウが腹筋をツンっと刺してくる
「殺、殺、殺、殺」
「すまん。ごめんって」
俺が殺意たっぷりの拳を握るとケンタロウは、慌てて謝ってくる
「お前、の家、罠、だらけ、じゃねぇ、か」
小さい頃、御三家の付き合いで遊びに行った時
落ちるわ滑るわ転がるわ
何回死にかけたか
「そうだけど、お前ん家。塔の最上階にあるスイッチを全部押さなきゃいけないだろ?泥棒なんて入ったのがバレたら時間との勝負じゃん?しかも、出口は塔につき一つしかない。入れるわけないだろ」
うちは、こういう泥棒の心を折るためにスイッチの存在は公表している
確かに入るわけもないし
そもそも、財産のある場所なんて俺でも知らないのに犯人が知るわけないか
「みてくれよ。今日のためにこんなに手錠買ったんだぜ?」
学ランの下には、色々な種類の手錠があった
◎形警部かっての
「なぁ、ケンタロウ、俺に、手錠、一つ、貸して、くれ」
「ん?欲しいのか?」
「そうじゃ、ない、保険、だ」
「まぁ、いいけど。必要ないと思うぞ?まぁ、変なことに使うなよ」
変なことってなんだ。変なことって
一瞬、手錠で繋がれたらシズカがベットに横たわっている姿が頭によぎるが
すぐに頭を起こす
ケンタロウは手錠を俺に渡した
俺は震える手で制服の内側に、手錠を引っ掛ける
「助、かる」
「ほら着いたぞ。あっシズカー!早く代わってくれー」
シズカは転移門でそのまま来たのか、歩いていた
「ケンタロウ様?あっ、若」
シズカが小走りでこっちにくる
「ほれ、お前のご主人様だ。受け取れ」
グハッ
俺はケンタロウに押し投げられて、シズカにキャッチされる
その衝撃で全身に痛みが走った
「じゃあなー」
ケンタロウが俺を置いて行く
あの野郎
まぁ、手錠くれたのとここまで運んでくれたことに免じて今回は許してやろう
「シズカ?早く、行こうぜ?」
「いえ、若をどう動かせばいいのかと思いまして」
「あ、そうだな。ゆっくりと横向きになるように動かしてくれ」
俺は、シズカに体重を預けて教室まで運んでもらう
「若。義賊の件ですが」
「ああ、ケンタロウ、から、聞いた」
「そうですか。なら話は早いです。私はその日の夜、ケンタロウ様の家に用心棒として派遣されるので、お世話できません」
シズカまで行くのか
過剰戦力じゃねぇか?
シズカが行くとなると他の従業員も殆ど行くことになるよな
最低限は残るだろうけど
「わかっ、た」
「ほら、着きましたよ。もう少しです。頑張ってください」
シズカに寄りかかっている俺はクラスメイトの視線を集める
そんな中、一人の少女が駆け寄ってくれた
「マサト君、大丈夫?」
ミドリか
正直大丈夫じゃない
「大丈夫です。若に近づかないでください」
「私、シズカさんに聞いた覚えはないなー?」
バチバチしてやがる
とりあえず、座らせてくれよ
キツいんだって
「そこのお三方、座ってくださいな。」
ふわっとしたような教師が入ってくる
「はい」
「わかりましたー」
二人は、席に戻り俺はようやく席につけた
やっと楽になれた
「はい、じゃあ、ホームルームを始めます。まずは自己紹介から、メイレと申します。ここのクラスの担任です。よろしくお願いします」
来た。
うちの担任、ホワホワとした印象を受ける
それにしても久しぶりに見るな
「連絡事項は特にありません。強いて言うなら、義賊が現れるようになったため、気をつけてください」
強いて言うなら?
普通に言っても良くないか
とこんな感じで中々どこか抜けている先生である
「じゃあ、午前の授業を始める前に座学のテストします。皆さん机の上を筆記用具だけにして下さい」
俺はシズカから、筆記用具を受け取り
前から回ってくるテストをもらう
そこには、おそらく昨日やった範囲が書かれている
英語、数学、理科
その三教科が入り乱れて問題が作られている
俺は余裕だなと思いながら、全ての問題を解き
筋肉痛を癒すために机に突っ伏した
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