第14話 ミリア

「あなたの名前、教えてもらってもいいですか?」

 上目遣いに聞かれる。泣き跡の中にも、かすかに笑顔が浮かんでいる。


「アランだ。こっちのうるさいのがジュドーで、あっちのうるさいのがテレシア。」


「別にうるさくはねーぞ。適当な紹介をするなよ。」


「アランさん、ですね。私はミリアです!」

 満面の笑みで返される。


「っていうか早くルージュの試合行かないと。もう始まっちゃうわよ。」

 テレシアに急かされる。ミリアが残念そうな顔をしているのが目に入る。


「よかったら一緒に来るか?」


「いいんですか……? 」


「これから一緒の学校通う仲だろ。仲良くしようぜ。」

 ミリアも一応中級魔法を打つところは披露してたし数名いるかいないかの不合格者に選ばれることはないだろう。


「はい!!よろしくお願いします!!」


 元気を取り戻した様子にほっと胸をなでおろす。テレシアもやれやれといった感じだ。なんとか受け入れてくれたようで安心した。






 ルージュが試合を行う訓練場Eは学園の東端にある。訓練場は学園内の西端に訓練場A、B、Cが、東端にD、E、Fというように配置されているらしい。俺たちが試合をした訓練場Bから訓練場Eまで行こうとすると人の多い学園の中央を突っ切らないといけない。のだが……


「なぁミリア、少し離れてもらってもいいか?」


「え?」

 え?、じゃない。なんで腕にしがみついてくるんだよ。周りからの視線が痛い。心なしかテレシアとジュドーも俺らと距離を取っているように感じる。関わりないです見たいな空気を醸し出すのはやめてくれ。


「ほら、二人で固まってると、歩きにくいじゃん?」


「大丈夫です!私が歩幅は合わせますから!!」

 キラキラした目で自信満々に返される。そういうことを言いたいわけじゃないんだけど。


 もう少し具体的な文句を言うか。そう思ったがウキウキの横顔を見せられてその気が失せてしまった。楽しそうならそれでいいか。


「そういえばアランって実技試験で0点だったって聞きましたけど、なにかあったんですか? 普通に魔法使えてるように見えましたけど?」


「なんでその話を知ってるんだ?」


「掲示に点数貼りだされてたじゃないですか。噂になってましたよ、『筆記が1位で実技が0点のやつが受かったらしい』って。」

 初耳だな。もしかしてそれで俺らの試合だけ観客が多かったのか。


「私、完敗でしたね。中級魔法を打たせてもらうだけの時間をもらってたのに。最後の動き見てわかりましたけど、簡単に勝てたはずなのに私の見せ場をつくってくれたんだなって。」

 そんなつもりは一切なかったんだけど。この子ちょっと突っ走りがちというか、妄想癖みたいなものがあるんじゃないか?


「ところで魔法ってどのくらいつかえるんですか? 剣技がすごいっていうのはよくわかったんですけど。」

 またしても難しい質問。どこまでがOKでどこからがダメなのか。魔族の常識みたいなものをまだ分かってないから正解もわからない。


 少し離れた位置にいるジュドーに視線を送る。元はといえばこいつがちゃんと教えてくれてればよかった話だからな。ジュドーはこっちの視線に気づいて手を振り返してくる。こいつ煽ってやがるな。


「そんなにできないよ。俺も中級魔法使えるくらいかな。」

 嘘はついていない。


「そうなんですね。でも水属性って稀少ですからそれだけですごいですよ。」

 属性。また聞き覚えのない単語。さながら地雷撤去をしている気分だ。


「ミリアは炎属性なのかな?」


「はい。炎属性の魔法って攻撃魔法が多くて、水属性はサポート系が多いので私たち相性バッチリですね!」


 質問に質問で返す技術。今回は成功したな。恐らく人間界であった『1人1つの系統の魔法しか使えない』っていうのと同じ概念だろう。ってことは俺は魔法使うときは水魔法縛りをしないといけないのか。いい勉強になったな。


 その後もミリアから質問を投げ続けられそのたびにあたふたするのが目的地に着くまで続いた。




 


 訓練場Eではルージュの前の試合がちょうど終わったところだった。試合に向かうルージュを見つけ手を振る。ルージュはこっちに気づき一瞬うれしそうな表情を浮かべるがすぐに険しい顔になる。気のせいだと思うんだけどにらまれたような気がしなくもない。だがそれもつかの間のことでまたいつものルージュに戻る。


「あー、アランやっちゃったね。」

 テレシアがご愁傷様、といった憐みの目を向けてくる。



「試合開始!!」

 審判の合図とともに、訓練場全体が氷漬けになった。たまらず審判は試合終了を宣言する。試験官たちは総出で氷漬けにされた対戦相手の救出を行っている。しかしルージュはそれに一切気を配らずにまっすぐ俺たちのいる場所に向かってくる。


 少しルージュが異様に見えたが近くで見るといつも通りだ。気のせいだったんだろう。

「1回戦突破おめでとう。でも少しやりすぎじゃない?」


 ルージュは満面の笑みを浮かべている。

「ありがとう……、ところで……その腕にくっついてる子は誰……かな……?」




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