17*散りばめて



 特捜室に戻って来た永瀬は、コートを掛け、茜のデスクの上に車のキーを置いた。 茜が戻った形跡は見当たらなかった。

 永瀬はふと、部屋の奥にある黒木のデスクへと歩み寄った。 机の上は、無造作に積み重ねられた書類で埋め尽くされており、唯一の空間に残されたノートパソコンとからの缶コーヒーが目に留まった。


 ────どうして、相棒の俺にも隠すんですか?


 黒木に不満をぶつけた あの時には既に、黒木はこんな状況になる事を知っていたのだろうか。 三嶋が次の被害者となり、自分に疑いが掛けられる、と。

 いや、もしかしたら黒木自身が手を下そうと────


「ヨルー! 帰って来てるかー!?」


 いきなり部屋のドアが開いたかと思うと、肩で息をしながら茜がズカズカと入って来た。 少し充血した瞳と、赤く腫れた両頬、乱れた衣服は、只事じゃない雰囲気を醸し出している。


「ちょっと……どうしたんですか、茜さん」

「どうもこうも言ってる時間はないわ! あたしたちで、早く黒木さんを自由にするのよ!」

「それは分かりますけど、その『どうもこうも』の部分を言ってくれないと、こっちは何にも分かんないです!」

「いつからそんな役立たずな平社員みたいな風になったのよ!」

「は!? 茜さんが言ってくれないから────」


〈プルルルル────〉


 タイミングが良いのか悪いのか、どこからか電話の着信音が聞こえた。茜の方が先に 自身のスマートフォンを確認するが、音は鳴っていない。

 「もしや」と思い、先程脱いだ上着のポケットから永瀬のスマートフォンを取り出すと、そこには着信を知らせる画面と、空の番号が表示されていた。

 チラリと茜の様子を窺うと、手をひらっと振って見せながら自分の席に戻った。 それを確認した永瀬は、電話に出た。


「もしもし?」

〈っあ! もしもし? あ……えっと……〉

「空さん、ですね? 永瀬です」

〈永瀬さん……。 そうです。 立花です。 突然すみません〉

「いえ。 どうかしましたか?」

〈あの……変なことを聞いてもいいですか?〉

「? ええ、大丈夫ですよ」


 空の声からは、若干焦りのような昂りが感じられた。 永瀬は不思議に思いながらも、机に常備しているメモ帳とペンを手元に引き寄せた。


〈あの……今、永瀬さんは黒木さんと一緒にいらっしゃいますか?〉

「いえ……黒木さんは、今ちょっと…席を外してて…」


 まさか「事件の重要参考人として捕まっています」などと言える訳もなく、咄嗟に言葉を濁した。 上手く誤魔化せた自信はなかったが、空は「そうですか……」とすんなりと受け入れてくれた。

 だが、次に発せられた空の言葉に、瞬時にして緊張が走った。


〈もしかして、何か別の事件に巻き込まれたりしていませんか……?〉


 あまりの驚きに、喉がヒュッと詰まった。


 明言はしていないが、空は黒木の身に何らかのアクシデントがあった事を察知している。

 黒木が捕まったという事実は、公には出ていない情報だ。 もちろん永瀬は、そういった話を空にしていない。 現時点で、黒木本人が空と連絡を取り合う事も不可能だろう。


 このタイミングでの空の発言────彼女はまだ何か、この事件に関りを持っているのだろうか?






 ・・・******・・・


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