367 ごめんね
「京子と居たらさ、最初に会った頃が懐かしいなと思ったんだ」
戦いを終わらせようという提案に京子が戸惑うと、
一方的な彼に警戒を解く事も出来ないまま耳を傾ける。
彼と初めて会ったのは、ちょうど一年前の秋だ。あの時の事はよく覚えている。
──『ねぇ君、フラれたの?』
電車に乗る彼を追い掛けようと意気込んだものの、実行に移すことが出来ないまま見送った東京駅で声を掛けられた。
「俺があの時駅に居たのは偶然だったんだよ。やたらに乱れた気配を感じて、バスクかと思って探してみたらキーダーだった。恋人にフラれそうになってオドオドしてるのが可愛かったし、異性なんて気にした事もなかったのに興味が湧いたんだ」
相手の様子を伺いながら、京子は自分の記憶を重ねていく。最初は彼の事をノーマルだと思っていて、正体を知ったのは少し後だった。
「
そして三度目は京子の隣に
「私はホルスにはなりませんよ?」
「分かってるから、ハッキリ言わないでよ。胸が痛むだろ?」
「────」
ポンと自分の胸を叩く忍に掛ける言葉が見つからない。
怒りでも同情でもなく、戸惑ったまま京子は「忍さん」と問いかけた。
「これからどうするつもりですか?」
「どうする、って。終わりはもう見えてるだろ? 俺一人じゃどうにもならない。だからとりあえずやることはやらないとと思ってね」
「……やること?」
どういう意味か分からずに首を傾げると、忍はにっこりと笑んだまま話を続ける。
「さっきも言っただろ? この廃墟を使わせて貰う条件が
「忍さん──?」
途端に頭が冷静になった。
ここを更地に──その言葉が表す手段が一つしか思い浮かばない。
そんな京子を察して、忍が唐突に「ごめんね」と謝った。
「さっき空間隔離の中に居たのは、休んでた訳じゃないんだ。体力を減らすためだよ」
「駄目ですよ、忍さん!」
白いハレーションがチラチラと光る──暴走だ。
必死の叫びは彼に届かない。
背後の三人が気配を発したのは分かった。
笑顔に寂しげな表情を垣間見せた忍が、強い光に飲み込まれた。
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