342 気に食わない事
アルガス本部の屋上から一斉に放たれた銃弾は、ただの一つも松本に当たる事はなかった。
けれど、ノーマルの攻撃がバーサーカーに効くとは思えない。
背中に庇うように前へ出て、松本と
美弦と交代で休憩に入った所で、外の異変に気付いた。廊下は慌ただしい空気に包まれ、階段を駆け上がってきた田中から詳細を聞く。そこから急いで窓辺へ向かい、飛び降りた次第だ。
美弦は怪我を負っていて、普通に戦闘ができる状況じゃない。
松本も相当出血しているようだが、どうにか持ち
「この男は松本
「はい」
「分かった。なら嬢ちゃんは俺が不能になるまで休んでな」
「……すみません、お願いします」
平野は制服のタイを首元で緩め、「気にするな」とにんまりと笑う。
美弦は追って来た施設員が下ろした
流石に足手まといになると思ったのか、自分も戦うとは言い出さない。
「アルガスはいつからこんなに血の気が多い奴の集まりになったんだよ」
「昔の事は知らねぇが、やる気のあるのは良い事だろ。お前は一度出て行った癖に、泣き言でも言いに来たのか?」
「──馬鹿な事言うなよ」
淡々とした口調で
「アンタいい歳して
「あぁそうだ。文句あるか? そっちはキーダー上がりのバスクだろう?」
「確かにそうだな」
はっはと響かせた松本の笑い声が、途端に冷めた。
「居たのかよ」
ずっと生気のなかった松本の目に、鋭く光が宿る。変化の理由に平野はすぐに気付いた。そこに二つの気配が湧いたからだ。
大舎卿が居るのは聞いていたが、もう一つは想像つかない。
答えが出ないままダンと正面の扉が開いて、バタバタという足音と共に緊張感のない声が聞こえてきた。
「若い奴が戦ってるって言うから期待したのに、ジイサンしか居ないじゃないか」
大舎卿の前を歩く不満気な男の顔に、平野は驚愕する。
その顔を忘れる訳はない。かつてトールとして地下牢送りにした筈の男が、左手に
男はそんな平野を横目に、今度は松本へ「やぁ」と声を掛ける。
「ヒデちゃんは何しに来たんだよ」
「おい!」
和気あいあいな空気が流れて、平野は強めに声を上げた。
元は同士と言え、今は戦いの最中だ。敵味方の関係はハッキリしている。
この奇妙な情況を流れのままに受け入れることはできない。
「なぁジイサンよ、これがアルガスのやり方か?」
「ジジイにジイサンなどと言われたくないわ」
平野は「ふざけるなよ」と大舎卿を睨んだ。
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