340 そういう事になっている

 地上で鳴る警戒警報が遠くに響く。


「わしに会いたかったじゃろ」

「おぉ、会いたかったぞ、かんちゃん」


 不気味な程に静かなアルガスの最下層に、はつらつとした笑い声が反響した。

 面会は20分までと制限されていて、会話も鉄格子を挟んでするのが決まりだ。なのに大舎卿だいしゃきょうは持参した鍵を取り出し浩一郎へ見せつける。

 アナログな鉄の鍵と電子錠の拘束は、彼の罪の重さだ。まだ何年も残っている獄中生活を断つように、 大舎卿はパチリと鍵の開く音を響かせる。

 「いらっしゃい」と迎えた浩一郎の笑顔が途端に冷めた。


「何してるんだよ」

「お前をここから出してやる。一緒に戦え」

「はぁ?」


 「まことの許可は取ってある」と加えて、大舎卿は淡々と扉の中へ入り込んだ。


「罪人を出すなんて穏やかじゃないな。前に俺が戦ってやろうかって言った時は、そんな気がないって言ってたじゃないか。そんなにアルガスは切羽詰せっぱつまってるのかい?」

「上に松本がおる」

「──ヒデか」


 浩一郎の瞳が鋭く光った。しかしそれは一瞬で戻り、クツクツという笑い声が牢に反響する。


「この間も京子ちゃんがハガちゃんを連れてここに来たけど、まるで同窓会だな」


 京子の記憶の解除を浩一郎に頼んだ時だ。出戻りの颯太そうたを彼女に同行させた。


「浮かれた話ではないわ。できるだけ被害を出したくないだけじゃ」

「そんなんで俺を開放するって? ライオンの檻を開けるつもりかい? バーサーカーならあの眼鏡くんだっているだろう?」

綾斗あやととはもう戦った後じゃ。余力なんて残っていないだろうが、暴走されたら困るんでな」

「壁要員よういんってことか」


 銀環のない能力者の衰弱すいじゃくは暴走を引き起こす。バーサーカーの松本がもしここで暴走を起こせば、被害は相当だろう。

 松本と綾斗は今回の戦いで刃を交えたが、致命傷に近い傷を受けた松本は現場から忽然こつぜんと姿を消したのだ。

 その事をざっくりと話すと、浩一郎は「分かったよ」と興味あり気に眉を上げる。


「優しいな、勘ちゃんは」

「はぁ?」

「まぁいいけどさ。それより、俺は一応トールって事になってるんじゃなかったっけ?」


 試すような浩一郎を、大舎卿はじっと睨んだ。










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