悪役令嬢は目立つそうです
そうして迎えた、洗礼の儀当日。
晴れの舞台にも関わらず、私の気分は憂鬱だった。
嫌な予感はしていたのだ。スィーピアの質問攻めに適当に答えた私もいけなかったのかもしれない。しかしこれは...
「何...これ!?」
部屋を出た瞬間、陽の光を浴びたような感覚になり目を細め。目が慣れた瞬間そこにあったのは首元や裾には暖かそうなファーがつき、レースをふんだんに使ったスカートには丁寧に細かく花の刺繍がさされている....
(こんなの平民が着る衣装じゃないでしょ!!!)
見た目もさることながら、最悪なのは、ソリアの付与魔法によってか、輝くを通り越し眩しい。
「何って、洗礼の儀の衣装よ。私もスィーピアも頑張ったんだからねっさっ着替えましょ!!」
きっと夜遅くまでやっていたであろうソリアだが、そんなことを感じさせない元気さで、どんどんと私を着替えさせた。
ガチャ
「うわっ眩しいなっ!!」
「っ!?さすが俺の娘だぁー!!」
「うわ〜...」
驚き、感動、哀れみと、家族の反応はそれぞれだった。
エンディーの哀れみの笑みを見て、これをエンディーも体験したのだと感じた。
(仕方ない、これは最後の手段だ。)
「母さん...私目立ちたくないの...だから、せめてこの眩しいやつ消して...」
目立ちたくない一心で、私は渾身の演技をした。少し涙目で上目遣い。そして、
「それとも...こんくらいしなきゃ私ってダ、メ?」
っとクリティカルヒットを打った私。
「だから言ったじゃありませんかぁ…このスィーピアにお任せいただければ十分だとぉ。」
「うっ...でっでも付与魔法消すと私何もしてないことに...」
ソリアにはもう仕分けないが、私は付与魔法を外してもらった。
ドムリが私に抱きつき、ドレスが崩れるとソリアに怒られ、エンディーはソリアの作った魔法式に興味を示し。カリーは普通に祝ってくれ。ようやく家を出る時間となった。
(うわ〜緊張する!!)
これまで何回も洗礼の儀を受けてきた私だったが、平民の洗礼の儀は全く違うものとみていいだろう。
そもそも、貴族たちは季節ごとに洗礼の儀をやらない。彼らは、それぞれの誕生日と共にそれぞれの家で洗礼の儀を執り行う。神官達を呼び寄せ、パーティーをするのだ。
私はわくわくしながら、大神殿へ向かった。
(そういえば、ネネに会わなかった。私もネネに自慢したかったのに...母さんじゃなくてスィーピアが作ったものだけど...)
私はネネがいないか歩きながらキョロキョロしていると、家族が手を振っているのを見つけ振り返した。
(遠くから見守られているだけでも、こんなに嬉しいなんて...)
シャロル・エト・ヴァンビルゼからシャロルになってもう半年ほどになっていた。いつからか私はシャロルと同化していて、昔からずっとここにいるような気がしていた。
改めて今回の書き換えは成功だったと思う内に、大神殿に着いた。
ここには何回か来たことがあった。
私は周りの子たちが入り口の大きさに呆然と見上げているのを懐かしく思いながら、大神殿へと入った。
いつもは4階まで抜かれた天上の広間があるだけなのだが、そこに絨毯がひかれ、奥にはレダ・アラクネの像と祭壇がでかでかと置かれていた。
その威圧感からか、先程までにこやかだった子たちの顔は緊張で強ばっていた。
「神官長イアンツィー・ガべ・ドレッディーン。」
子どもたちが全員入ったのを確認してか、そう壁に張り付いてたっていた神官が呼んだ。すると大きな祭壇の裏から、イアンツィーが出てきた。
(うわ〜なんか全然違うわ...)
イアンツィーは、白い神官服をきており、裾や襟元に凝った金の刺繍がさされていた。首からは大きな琥珀がついたペンダントをつけていた。
それはとても煌びやかだが、洗礼さのある姿だった。これが神々しいということだろう。
微笑を浮かべて祭壇に立ち、子ども達を見る様子は普段とはだいぶ違う姿だった。
「これから、ひとりずつ
(えっ?!)
私は
(まって...
今思い返せば、私とカリーのように壁外でスライムを飼っている子たちは魔法を使っていなかった。そもそも、
(平民の場合はここで受け取るってこと?じゃあ私はエトの名を授かるのかな?)
確証はなかったが、私はそう信じるしか無かった。
「うわー!!」
考え事をしているうちに、一人目の子が
(あぁ〜あれ驚くよね...)
私はもう十二週目なのだ。流石に見慣れてしまった。
一人目の子の目の前には、半透明の大きな女性が立っていた。
あれが一人目の子の加護女神なのだろう。
(あれ?ちょっと待って?私はエトが出てくると予想できるじゃん、じゃあ彼女は?リリアーネは誰が出てくるの?)
私はまたもや不安になった。もし、私の時に出てきたのがエト、レダ・アラクネだと知られると面倒なことになる。
「シャロル。」
そんなことを悩んでいるうちにいよいよ私の番になってきてしまった。
(うわぁぁ....もう行くしかないっ!!)
「はい...。」
イアンツィーの方を向いてそう答え、祭壇に上がった。
「シャロル、汝に新たな名を与えん。
イアンツィーの目の前に置かれた分厚い本がほのかに光、そこに文字が現れた。
(これは初めて見た...綺麗。)
「シャロル、改めて汝はシャロル・エトとなった。....では手を。」
私は言われるがまま、イアンツィーに手を差し出した。イアンツィーが出した手に自分の手をかざすと共に、差し出した手が暖かくなる。
ピカッ
雷のような光が落ちすぐに暗くなった。
ザワザワと何が起きたのか子どもたちがだけでなく、神官たちまで騒いでいた。
ピカッ
また同じような光が起き、全員が祭壇に注目し静かになった。
すると、先程の光などなかったように黒いもやが祭壇に浮かび上がり、やがて一人の女性が浮かび上がった。黒いドレスに、黒いレースを被り顔は見えない。しかし、その真っ白な髪はよく知ったものだった。
「シャロル・エト。汝には運命の加護が備わった。この加護が汝を、神すら分からない結末へと道びくだろう。」
イアンツィーのその言葉は何故だか、イアンツィーのものではない気がしたが、そんなことを聞けるはずもなく私はただ頷いた。
イアンツィーから手を話されると、私は振り返り元の場所へ戻った。
「リリアーネ。」
「はぁ〜い。」
(えっ....)
私は次に呼ばれたこの名前が信じられず、イアンツィーをチラリと見た。
その顔は私をしっかりと見ていた。
(しっかりしなくちゃ...)
イアンツィーにはもう覚悟ができているということだろう。
祭壇を降りる途中、次に呼ばれた子とすれ違う。その顔は紛れもなく、リリアーネだった。その愛らしい顔、薄い紫のスミレのような目。そして白銀の髪...。
すれ違いざま、その目がこちらに微笑んでいるように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます