「夕立」と「涙」と「塔」
うちの学校には、旧校舎側に小さな塔がある。
何に使われていたものなのかは、今となっては分からない。
不思議な雰囲気を醸し出す旧校舎の小さな塔はなんとなく避けられがちなスポットだった。
それを良いことに、私は昼休みになるとよく塔の近くに入り浸っていた。
そこは猫の溜まり場にもなっていて、昼休みには私専用の猫カフェと化していた。
人懐っこい猫たちはゴロゴロと擦り寄ってくる。
それを撫でながらいつも心地よい時を過ごしていた。
そんなある日、いつものように猫を撫でながらゆっくり過ごしていると、一人の女生徒がやってきた。
その女生徒は、何気なく校内を散歩しているうちにここまで来てしまったらしい。
私の状況を見て最初は驚いた彼女だったが、不思議とすぐその場に馴染んだ。
それから、彼女も毎日のようにこの塔の近くに来るようになった。
人見知りな私に心を自然と開かせた彼女は驚くほど急速に仲良くなった。
まるで旧知の友人のようにお互いのことをなんでも話せる仲になった。
穏やかな日常がいつまでも続くのだと思っていた。
しかしある日を境に、彼女は急に現れなくなった。
原因はわからなかった。
彼女が来ない。その事実だけが私の胸を締め付けた。
そして私は勇気を振り絞り、彼女のクラスへと足を運んだ。
彼女のクラスへと足を運んだのは初めての事だった。
なにせ、あの塔の近くでしか私たちは会ってこなかったのだ。
クラスでの彼女は別人だった。
他を寄せ付けない圧倒的な存在感と支配感を感じた。
彼女は、仲間と共に他を蔑み、特定の人を貶めていた。
他を嘲笑うその声に私は酷く混乱した。
こんな彼女は知らない。
何でも話せる仲になったと思っていたのは私だけだったのか。
混乱した私は、彼女に声を掛けるのをやめてその場を立ち去った。
どういうことかわからなかった。
ただ、もう私が好きだった彼女にはもう会えないのだということだけが確かにわかった。
ふと窓の外を見ると、激しい夕立が降っていた。
その激しい夕立は、私の代わりに空が涙を流してくれているようだった。
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