第25話 目覚める蒼き竜

 戦うフェリシティの姿を見ながら、ずっと櫂惺かいせいは自分に苛立ちを感じていた。


 激しい戦闘の中〈アルフェッカ〉の持つレーザーボーガンが破壊されてしまう。櫂惺かいせい疲労困憊ひろうこんぱいながら、もう居ても立ってもいられず、ついに行動を起こす。


〈レ・ディ・ネーミ〉の格納庫に〈アルフェッカ〉の同型機が、もう1機駐機されている。


(……予備機か)


 CRESクレス専用SWGは普通の人間には操縦できない。


(SRNを投与さえすれば自分も、あの機体を動かせるはずだ)


 そう思いずっと気になっていた〝あるもの〟がこの格納庫に置かれているのを見つける。H.E.R.I.Tヘリットメンバーの一人、ジェーン・デイヴィス医師がずっと大事そうに持っていた医療用保冷ケース。


(……あの中に、SRNが入っているに違いない)


 その場にいる人々の目を盗みながら置いてある医療用ケースに手を伸ばす。しかしケースには鍵がかかっていて開ける事が出来ない。


 と、モニター越しに爆発音が響く。その瞬間に、持っていた工具でカギを壊しこじ開ける。


 H.E.R.I.Tヘリットの面々は戦闘の推移を固唾を飲んで見入っている。


(……まだ気づかれていない)


 ケースの中に注射器のついたシリンダー容器が入っている。そのシリンダーの中には、キラキラと煌めく青い粒子が漂う液体で満たされている。


(これが自己複製型ナノマシン、SRN……?)


 これを自分の身体に打てばあの機体を動かせるはずだ。シリンダーを手に取りキャップを外し針を露出させる。


 メカニックの多田倉が後ろの方で怪しく動く人影に気付く。

「おいっ! お前、何している⁉」


 その声に反応し、その場にいた皆が櫂惺かいせいの方へ視線を向ける。


 今まさに櫂惺が注射針を腕に突き刺そうというところだった。


「待ちなさいっ‼ それは――」

 デイヴィス医師が制止するもすでに遅し。シリンダー内の液体が櫂惺の体内に注入されていく。


「「「「「ああああああああああああああああああああああああ ‼」」」」」

 その場にいたH.E.R.I.Tヘリットの面々の叫びともため息ともつかない声が格納庫にこだまする。


 櫂惺かいせいはシリンダー内の内容物すべて注入した。


「特に何も変わった感じがしない。うん、問題ない。これでCRESクレス機を操縦することができる!」

 ぶっつけ本番でCRESクレス専用SWGをまともに操縦できるかわからない。だが今はそんなことどうでもいい、動かすことさえできれば彼女の身代わりぐらいにはなれる。


(フェリシティが逃げるだけの時間が稼げればいい)


 唖然とするH.E.R.I.Tヘリットのメンバーをしり目に櫂惺かいせいは〈アルフェッカ〉2番機の前に立つ。


「待て」マイヤー局長が呼び止める。


「止めても無駄です」


「わかっている。だが、その機体にはフェリシティのSRNが組み込まれている。君には適合せず、機体の性能を十分に発揮できない」


「それでもかまいません。動かせるだけでいいんです! 乗せてくださいっ‼」


「落ち着きたまえ」

 マイヤーは言葉を続ける。

「……君には、もっといいものがある」

 意味深な言葉でそう語り掛けてから、マイヤーは格納庫の奥に視線を向ける。


 その視線の先には、さっき吊り上げられていた巨大なコンテナ。


「はぁ」と多田倉は大きくため息をつき、首にかけていた鍵を取り出す。


「局長! SRNの扱いに関しては私が最終的な権限を持っています。許可はできません!」

 デイヴィス医師が止めに入り、櫂惺かいせいに語り掛ける。

「SRNを打つということがどういうことか、あなたもよくわかっているでしょう。一生に関わることを、あんな簡単に、一時の感情でやってしまうなんて……」


 デイヴィス医師の言葉を聞いて櫂惺は躊躇いながらも自分のことを話す。


「……自分はパニック障害になって、もうしばらく経ちます。薬なしでは日常生活もままならないほどでした。このままでは工科学校も退校せざるを得ません」


 いきなり何を、と皆が思っている中、櫂惺は続ける。


「だからSRN治療を受けるかどうか最近ずっと悩んでいました。それがフェリシティを見ていて決心がついたんです。彼女を見ていて、すごく勇気づけられました。次、コロニーに帰ったら自分もSRN治療を受けるつもりだったんです。だから、気にすることはありません」


「そうだったの。でも……」


「このままではみんな助かりません。ですから自分を行かせてください」


「彼の言うとおりだ。このままでは応援が到着する前に全滅する。どうやら敵に『蒼竜』の存在を悟られたようだ。見逃してはくれまい」


「しかし」


「仕方がないだろう、もう彼は、あのSRNを打ってしまった。

 どうせいつ臨床実験ができるかどうかも、まったく目途がたっていなかった代物しろものだ。全滅する前に試してみる価値はある。我々が生き残るためには、彼に懸けるしかない。

 君の気持はわかるが、ここは緊急時の局長権限でやらせてもらう」

 マイヤーは、ジェーンにそう告げてから、多田倉に目で合図を送る。


 やれやれといった感じで多田倉がコンテナに鍵を差し込む。コンテナに電源が入り扉が開かれる。


 そして、1機の黒いSWGが姿を現す。


 今まで見たどんなSWGよりも異質な機体。そもそもこれはSWGなのかもわからない。


「大きい……」

 高さ14mの〈ドラグーン〉よりも遥かに大きい。


(でかい……この機体、20mはあるんじゃないのか)


 近くで見ると、光沢のない岩のような装甲表面。トカゲや恐竜のような顔、太い脚部、腰のあたりから尻尾のようなものが生えている。首も人型SWGのそれに比べてやや長く前へ突き出し、背にはシールドと思われる2つの巨大な翼が生えている。


 SWGは人が自分の手足のように感覚的に動かせるよう人型を模している。しかし目の前のこの機体は2足で立ってはいるが、人の形には似ても似つかない。


 まさにファンタジーに登場するドラゴンや悪魔を彷彿させるSWG。


「これ、SWG……なのか?」


 その異様な姿に一瞬躊躇するがすぐに乗り込む。


(今こうしている間もフェリシティの身が危ない)


 胸のハッチが開放されコックピットの中にもぐりこむ。


「座席シートの他に操作系は最小限か。CRESクレス専用SWG、ほぼ思考だけ動かすことができる。機体と一体になった感覚で操縦できるはず、だけど)


 しかし起動方法がわからない。一般のSWGとは操作系が全く違う。


 ジェーン・デイヴィス医師から通信が入る。


霧笛きりふえ君だったかしら、よく聞いて。SRNつまり自己複製型ナノマシンは本来、投与される患者本人から採取した細胞で作成するものなの。あなたが投与したものは当然ながらそうじゃない。それにそのナノマシンはまだ研究段階中のものだったの。今のところ何も異常は見られないようだけど、いつどんな拒否反応が起こるかわからないわ。今すぐ処置しないと命に関わる。もう一度確認するわ、それでも本当にやるの?』


「はい! 自分のことは構いません。お願いします!」


 聞く耳を持たない櫂惺かいせいにため息をつきジェーンはマイヤーの方を見て首を縦に振る。


 マイヤーはジェーンの肩を軽く叩いて命令を下す。

「起動プロセス開始」


 皆が一斉に動き出す。

「サンベック、プログラム」

「問題なし」

「多田倉」

 外側から異常ないか最終チェックを急ぐ多田倉。

「はいはーい、今やってまーっす。ちょっと待ってくださいねー。えーとっ……はいOKOK! はいOKすべて異常なし」

「蒼竜、起動」

 マイヤーが命令するとサンベックがシステムを起動させる。


〈蒼竜〉起動。しかしモニターが映らない。


(……? 何も作動しない)


 櫂惺かいせいが疑問に思っていると、体中に微弱な電流が走った瞬間、視界が暗転、目の前が真っ暗になる。コックピットの中が真っ暗になったのではない。自分の目が見えなくなっている。


「見えない……何も見えない⁉」


『落ち着いて、機体とリンクしたの。その機体は視覚だけでなく共感覚も取り入れて操作するの』

 ジェーンから無線ごしに話しかけられる。


 そして、おびただしい量の情報が、頭に直接流れ込んでくる。


(脳が溶ける⁉ 全身の神経が焼ける……)


 聞こえてくる声に色がついて見える。見えないはずの場所が見えているような感覚。


 広がっていく感覚に頭がついていけない。


霧笛きりふえ君聞こえてる? 落ち着いて』


 何が起きているかわからない。H.E.R.I.Tヘリットのメンバーにとっても初めての試み。ただ成り行きを見守ることしかできない。


 櫂惺かいせいはパニック発作が起きた時のように深呼吸することに集中し余計なことを考えないように努める。


 苦痛が全身を襲うなか、櫂惺かいせいは呼吸をすることに意識を集中させる。そんな中、フェリシティへの思いがよみがえってくる。


――フェリシティを救いたい。自分はどうなろうと構わない。もう恐怖は無い。


 櫂惺かいせいは平静さを取り戻す。


 だんだんと意識が苦痛から離れ、目的だけに集中する。


 視界が開ける。今自分の体に起きていること、余計なことを考えずありのまま受け入れ、彼女を救うこと、それだけを一心に考える。


 そうして、目を開くと音や匂いに色がついて見えるようになっている。


 拡張された感覚。別の次元をも認識できているような気がする。別の空間が見えているような、そんな感覚が目覚めていることに気づく。


 モニターに映る櫂惺と医療計器データを注視していたデイヴィス医師が再び呼びかける。

「脳波は異常だらけだけど……バイタルは安定。霧笛きりふえ君、気分はどう?」

「問題ありません。行けます」

「蒼竜起動プロセスすべて完了。システムすべて正常」サンベックがマイヤーに伝える。

「よし、発進」マイヤーがゴーサインを出す。


「了解!」


『少年、フェリちゃんを頼むよ』

『坊主、ぶっ壊したら弁償だかんな』

 サンベックと多田倉が呼びかける。


「はい!」


〈蒼竜〉がゆっくり歩きだす。


「動かせる」


 多田倉が搬入用の大型機密扉を解放させていく。


 H.E.R.I.Tヘリットの人間達が退避したのを確認すると、〈蒼竜〉はすぐに発進体勢に入る。背部の翼が変形を始める。翼の一部が両腕に装着されシールドとなる。


 背中中央のスラスターを噴かすと、ノズルに青い光が灯る。


(まるで自分の背中にとてつもないパワーが宿ったかのように感じる)


 背中に収束したエネルギーを解放する。イメージ通り機体が空中に浮く。


「これがCRESクレス専用SWG……イメージした通りに動かせる」


 櫂惺かいせいは背中に感じるエネルギーを一気に解放するようにスラスターを噴射させ、〈レ・ディ・ネーミ〉から飛び立つ。


 急激な加速で、とてつもないGが身体全体にのしかかる。


「うぅぅっ⁉」歯を食いしばりながら尚も加速を続ける。


(自分の身体が壊れてもかまわない。0.01秒でも早くっ‼)


 櫂惺かいせいは〈蒼竜〉を駆り全速力で真っすぐフェリシティの元へ向かう。



 交戦エリア一帯は濃い煙幕によって視界は非常に悪くなっている。


 しかし、〈蒼竜〉を通して櫂惺には煙幕の中の様子がはっきりと見えていた。拡張された感覚で戦場全体が手に取るようにわかる。〈灰神楽はいかぐら〉を捕捉、と同時に〈アルフェッカ〉も発見。


 フェリシティの乗る〈アルフェッカ〉が敵に見つかり、今まさに止めを刺されそうになっている。


 櫂惺かいせいは全速力のまま〈灰神楽〉目掛け突進してゆく。両腕のシールドを前方に構え機体ごと敵の中央砲口付近に突っ込み、〈蒼竜〉の20倍以上もある巨体を大きくのけぞらせる。


〈アルフェッカ〉に放たれた岩漿マグマ砲をそらせ、間一髪で阻止する。


〈蒼竜〉は敵の流動性砂塵装甲とその表面を走る稲妻に接触しても、まったく損傷を受けることなく空中を浮遊している。


「フェリシティ‼ 無事⁉」


 櫂惺かいせいは〈アルフェッカ〉に呼びかける。


櫂惺かいせい……くん」


 態勢を整えた〈灰神楽はいかぐら〉が〈蒼竜〉にレーザー光線を収束させ放つ。〈蒼竜〉は両腕に装備した自機の背丈ほどもあるシールドを前面に構える。無数のレーザー光線の照射を受けながらも〈蒼竜〉に大きなダメージはない。


 レーザーが通用しないと悟ると次は〈灰神楽〉は身体中央の砲口部から岩漿砲を撃ち放つ。


 両腕のシールドを構えたまま〈蒼竜〉は、敵の砲火受ける。


「っ⁉」


 質量を持った熱線兵器、その高熱と圧力に耐え、後ろにいるフェリシティを身を挺して守る。


 敵の強力な岩漿マグマ砲を受けきると、地面に降り立つ。


 櫂惺かいせいは無意識に〈蒼竜〉を操り、その手を地面に突き刺す。


〈蒼竜〉を中心に放射状に地割れが起き、ひび割れから青いマグマが噴き出す。そして、さらに放たれる敵の凝縮されたマグマの砲撃を拡散させ防ぐ。


 青いマグマは、さらに天高く舞い上がり意志を持った生き物のように敵に襲いかかる。


灰神楽はいかぐら〉がレーザーを撃つ前に、青いマグマが大蛇のようにうねり、その目を潰していく。〈灰神楽〉が動き出し、上空へと逃げる。


 追撃する〈蒼竜〉を阻止せんと〝亡霊〟たちが襲い掛かる。


〈蒼竜〉は襲い来る敵を両腕のシールドで薙ぎ払い一撃で粉砕していく。


〈灰神楽〉は〝傘〟の頭頂部にある開口部から岩漿マグマ砲を撃ちアムレート市の天蓋を破壊、そのまま外の真空空間に這い出す。


灰神楽はいかぐら〉は、体勢を反転させ〝傘〟の頭頂部を下に向ける。そして下に広がるアムレート市もろとも〈蒼竜〉目掛け、最大火力の岩漿マグマ砲を放つ。


 フェリシティと眼下に広がるアムレート市を守るため、〈蒼竜〉はけることなく盾を前面に展開させる。さらにスティクスの地面から噴き上がった青いマグマを自身のシールドに滞留させ防御姿勢をとる。


 真っ赤に燃える炎熱の濁流が〈蒼竜〉に襲い掛かる。


「ぐうぅっっ!」


〈蒼竜〉は濁流のように降り注ぐ膨大な質量を持つ熱線に耐え抜く。煌々と赤く光り、まっすぐに繋がった流線が〈蒼竜〉を起点に放射状にはじかれていく。


「あの、一番やべぇマグマビームを防ぎやがった……」

 モニターで見ていた多田倉が驚きを口にする。


 敵は第二波を撃つ構えを見せる。


 と、〈アルフェッカ〉の中で戦闘の推移を見つめていたフェリシティは突然地面が揺れるのを感じる。

「地震⁉」


 惑星ヘレネーの月であるスティクスの大地に地割れが起こる。そこから再び青いマグマが噴きだし、〈蒼竜〉を包み込む。


 無数の青いマグマがスティクスの空に舞い上がり、〈灰神楽はいかぐら〉が放つ光の砲火をすべて掻き消していく。


〈蒼竜〉と連動しているかのようにスティクスの大地がうごめく。


 無尽蔵のエネルギーにより〈灰神楽はいかぐら〉はなおも攻撃を仕掛けてくる。


 しかしスティクスから噴き上げる青いマグマが〈蒼竜〉の周囲に滞留し防御壁となり、もはや〈蒼竜〉に敵の攻撃は通用しない。


 敵と戦いながら櫂惺かいせいは不思議な感覚を感じとる。〈灰神楽はいかぐら〉の後ろに時折かすかに見える青く輝く恒星。


「……ネメシス?」


 実際に敵の後ろに恒星ネメシスが映っているわけでも、直接目で見えてるわけでもない。しかし、確かにそう知覚できる。そこから高次元を通してエネルギーの流れを感じ取る。


 敵である礁核体しょうかくたいの無限とも言えるエネルギー、それはこの惑星系の主星であるネメシスから送られているだと、はっきり理解できる。


 しかし、先ほどから高次元共感覚で〈灰神楽はいかぐら〉の体内を見通しても、動力源らしきものがまったく発見できずにいた。


「なんなんだコイツ⁉ 動力源がない。それに……機械的機構も、生物的な器官も、何もない。本当に亡霊かよ」


 地割れから青いマグマが噴き上がり大蛇のようにのた打ち回りながら〈灰神楽〉目掛け襲い掛かる。敵の放つ岩漿マグマ砲にも打ち消されることなく、敵の巨体を鞭で叩きつけるように装甲を切り裂いていく。その衝撃で〈灰神楽〉は狙いを定めることができず、放たれる攻撃はことごとく外れスティクス地表に当たる。


 その隙をついて〈蒼竜〉は両腕のシールドで敵の砲口部を殴りつけ粉砕していく。が、しかし櫂惺かいせいもまた〈灰神楽はいかぐら〉を撃破するための決定打を欠いていた。


「ダメだ、敵の装甲を切り裂いてもすぐに復元される。どうすれば……とにかく敵の動きを止めなければ」


 青いマグマが〈灰神楽〉に巻き付いていく。動きを封じるとともに特殊なフィールドを発生させる。


「あの青いマグマが巻き付いていくと、敵のエネルギー供給が衰えていく。敵の高次元を介した恒星ネメシスからのエネルギー供給を、このまま完全に遮断できるか」


 櫂惺かいせいは、無意識に青いマグマの流れを操り、必死に敵を締め上げていく。


〝亡霊〟たちが〈蒼竜〉に一斉に襲い掛かるが、大蛇のごとくスティクスから噴き上がる青いマグマに薙ぎ払われ粉砕されていく。


〈灰神楽〉が恒星ネメシスとのエナジーフロウを遮断され、徐々に火力が衰え始める。


「敵が弱ってきている。でも……動力源の存在しない、こんな巨体をどうやったら倒せる? エネルギー供給を絶ったとはいえ、あのデカブツの中にはまだ膨大なエネルギーが。すべて出し尽くすまでアムレート市にどれだけ被害が出るか……」


 と、櫂惺かいせいに何者かからのささやきが聞こえたように、頭に直接情報が送られてくる。


 その声に従い〈蒼竜〉の武装を調べる。


幻月虹げんげつこうシステム……?」


 モニターに映しだされた説明を読んではみても、

「セレクトロン荷電粒子砲……?」


 その名前を見ても、それが一体何なのかまったくわからない。しかし、どうすればいいかが何故かわかる。〈蒼竜〉を介して〝何者〟かから知識が頭に直接降りてくる。


〈蒼竜〉は両腕に装備しているシールドを前方に展開、さらに機体を前傾姿勢にさせる。


 そして、機体が変形を始める。口が裂けるように大きく開き、〈蒼竜〉の機体、それ自体を砲身とする荷電粒子ビーム砲が形成される。


 スティクスから噴き出すマグマから発生する稲妻が〈蒼竜〉を伝う。膨大なエネルギーを得て、〈蒼竜〉の口の奥が光輝く。


 エネルギーが充填されたのを感じ、櫂惺かいせいは引き金を引く。〈蒼竜〉から〈灰神楽〉向けて一直線に燐光を纏った青い光が放たれる。


 同時に〈灰神楽〉も最大火力の岩漿砲マグマを撃つ。アムレート市上空で二つの火線がぶつかり一帯を昼間のように明るく照らす。


 まっすぐな青い光の流線が、赤く光るマグマの濁流を吹き飛ばしながら、敵の〝傘〟直上から突き刺さり貫通、威力を減衰させることなく宇宙空間へと伸びていく。


灰神楽はいかぐら〉が内部から粉砕され、高さ400mを超える巨体がゆっくり傾き、ついにスティクスの大地に大きな土煙を上げ倒れ伏す。

 

『敵の動きが完全に停止。敵礁核体しょうかくたい、エネルギー反応なし。完全に沈黙。灰神楽はいかぐらの破壊に成功』

〈レ・ディ・ネーミ〉からポリーナ・グリンスカヤ中尉が通信で皆に知らせる。


「倒した、礁核体しょうかくたいを⁉」

「倒せたのか、あんな巨大な奴を……」

「やりやがった、アイツ」

 状況を固唾を飲んで見ていた〈レ・ディ・ネーミ〉の乗組員とH.E.R.I.Tヘリットのスタッフたちが歓声を上げる。

 

 櫂惺かいせいは安堵すると同時に、集中が切れて体の異変に気づく。


 とてつもない倦怠感、鉛のように体全体が重い。発熱と頭痛、体中がひどく熱くて痛い。自分の体に意識を向けると体がぼろぼろになっていることがわかる。 


 意識が薄れていく。


(死ぬのかな……でもいいや、フェリシティを守ることができたから……もう……)


 好きな女の子を守ることができた。たとえこれで死んだとしても悔いは無い。薄れてゆく意識の中、フェリシティの乗る〈アルフェッカ〉の無事な姿を見ながら〈蒼竜〉はゆっくりスティクスの大地に落下していく。


櫂惺かいせいくん⁉ 櫂惺君、大丈夫? ねえ!」


 フェリシティが呼ぶ声を聞きながら櫂惺はついに意識を失い、深い闇に落ちる。

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星紲のアーミラリスフィア 須藤 朋大 @ichisuke0608

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