第16話 争うことの虚しさを知る男と自分の愚かさを知った少年

 カオス的な様相を呈しているエクストリームスポーツ。その中でも特に競技者たちが過激な行動に走ることで有名だというエクストリーム・カワラワリ。


 ただカワラを割れば良いというわけではなく、いかに派手に痛々しく割るかが重要なのだという。


 行われる会場へやって来てみると、そこは宇宙港の片隅で、辺りは薄暗く怪しい雰囲気が漂う。


(あ、これ、完全に非公式なやつだ……しかも会場は、あの宇宙船ドックの中か……)


 会場の中に入り周りを見渡すと、観客たちの風貌も何だかいかつい。櫂惺かいせいは何か嫌な予感を察知し前には行かず、一番後ろの席で見ることにした。会場の至る所に黒づくめの強面の男たちが目を光らせ立っている。スキンヘッドや顔に傷がある人間も少なくない。隣にいるフェリシティも少し不安そうにしている。


(アウトローなにおいがプンプンしてきたな……フェリシティをまずいところに連れてきてしまったかもしれない)

  


『さあっ、始まりました! エクストリーム・カワラワリ ㏌ オリンピア・グランドフェスティバルウウウウウウウウウッイヤァァァァァオッ‼』


 会場の照明が落ちた瞬間、実況者が高らかに大会開始を宣言し、エクストリーム・カワラワリとやらは唐突に始まった。


『今大会のコンセプトはズバリ、伝統芸。各代表チームは、まさに出身コロニーの威信をかけて戦います』と解説者が今大会の趣旨を説明する。


 競技が始まって最初の30分程度は、手刀や拳、頭突きでカワラを割っていた競技参加者ばかりだったが、だんだんと毛色が変わり始める。


『ニューグレートプレーンズ代表チャッキー&ジャッキーーーーーー‼』

 実況者が競技者の名を叫ぶと、二人組が入場してきた。赤毛で顔が傷だらけの背がかなり低めな人間と東アジア系の柔和にゅうわな顔の男が会場に入ってきた。


(二人でやるのも、ありなの……)


 積み上げられたカワラの前で赤毛のチャッキーが床にうつ伏せに寝そべると、柔和な顔のジャッキーがその両足を脇に抱え、ジャッキーが回転軸となってグルグルと回り始める。


 チャッキーは顔を床に擦らないよう必死に背中をそらせる。


 エビ反りの状態でグルグルと回りながら顔面傷だらけのチャッキーに、目が笑っていない満面の笑みを向けられ、櫂惺かいせいは戦慄を覚える。


 ジャッキーも入場してきたときから笑顔を一切崩さず今も高笑いしながらチャッキーを回し続ける。そんな対照的な二人だが、その笑う顔はどちらも何を考えてるのかよくわからない。


(あれはたしかジャイアントスイングという技、寮でもやってるやついたな。でもまさか、あれでカワラを……)


『投げたあああああああ‼』実況が叫ぶ。 


 積み上げられたカワラに向かってチャッキーが放物線を描き、顔面から突っ込んでゆく。


 ガシャーーーーーーーーーーーン! 


 快音を響かせ、カワラが盛大に割れる。


『ただ今の記録、8枚』


 解説者が記録をアナウンスすると、不気味にゆっくりと立ち上がるチャッキー。その顔には新しい傷ができ、血がしたたっている。


 そして割れていないカワラを手に取り、血だらけの満面の笑顔で観客たちに襲い掛かる。最前列の観客たちが恐怖で逃げ回り、ちょっとしたパニックに陥る会場。ジャッキーはそんなチャッキーを止めもせず、相変わらずよく通る声で高笑いをしている。


(よかった。最前列行かなくて、やっぱり正解だった……)


『続きましてぇぇぇっ! 第九ディジォー星辰城シィンチェンチァン代表吊朋友ディアオパンヨオオオオオオオオオ!』

 頭を丸め痩身で上半身裸の拳法家ふうの二人組が現れた。一人は大槌を肩に担いでいる。


得物えもの持ち込みも、ありなの……)


 またも一人が床に寝そべる。だが、今度は仰向けだ。そしてもう一人の男が、その腹の上にカワラを一つ一つ乗せていく。


 そして大槌を持っていた大男が得物を振り上げる。寝そべっている男の呼吸で腹が上下に動くのと連動して積み上げられたカワラもゆらゆら揺れる。


『これは狙いをつけるのが難しいですね。二人の息の合ったプレーが要求されます。非常に高度なテクニックですね』と淡々と注釈を加える解説者。


 狙いを定め大槌を一気に振り下ろす。が、しかし大槌がカワラをかすめ、寝そべっていた男の股間に直撃してしまう。


 床に寝ていた男が形容しがたい衝撃で身もだえ、そのあおりで積み上げられていたカワラが倒れ、男の顔面に直撃して割れる。


『痛ああああああああいっ! これは二重にイターーーーーっい‼』実況者が股間を手で押さえ自分のことのように叫ぶ。


 さらに野太い悲鳴が会場中から湧きあがる。


 会場にいた男たちは皆、悲痛な表情。目の前で起きた惨劇に両手で口を覆い凍り付く人々。早く覚めてほしい悪夢に耐えきれず頭を抱える人々。あまりにもむごたらしい不慮の事故に天を仰ぎ神に救いを求める人々。


 直撃を受けた男はその後も悶え苦しみ続け、倒れたまま相方に引きずられ退場して行く。


『ただ今の記録、6枚』


『続いてイーハトーブ代表さわやか3組いいいいいい‼』


(お! うちのコロニーからも出てるんだ)


『さあ、今回初参加のイーハトーブ代表チーム。実力は未知数だ!』


『イーハトーブ代表、そもそも今大会の趣旨である〝伝統芸〟を根本的に勘違いしているふしがありますね~。はたしてどれほどの記録を出せるのでしょうか』


 屈強な三人組が現れた。アゴが二つに割れた男が一人、二の腕の太さが丸太ほどもある筋骨隆々の口髭生やした男が二人。


(全然爽やかじゃない3人組が出てきたな……) 


 バンジージャンプで使用するというロープを取り出し、二人の男がその強力な伸縮性をアピールするため数十メートルも引っ張っている。そしてそのロープをカワラに括り付けていく。


(カワラにしこむのも、ありなの……)


 男二人がカワラを押さえ、アゴが割れた男がそのゴムロープの一端を口で加え、引っ張り始める。


(まさか……)


 どんどん伸びていくゴムロープ。アゴの割れた代表選手が汗を滴(したた)らせながら必死に歯を食いしばりゴムロープを引っ張ていく。


(やめろ! やめるんだ! ホントにやめろっ⁉)


 ゴムの張力が限界に達したところでカワラを押さえていた二人が同時に手を離す。

『行ったあああああああああああ‼』実況が叫ぶ。


 カワラは〈アゴ〉目掛けまっすぐ直進していく。次の瞬間、ドスンッという鈍い音とともに〈アゴ〉の顔が大きくのけぞる。


 会場に鳴り響いた音は、カワラが気持ちよく割れる「パリン」という音ではなく、「メキッ」という鈍く嫌な音だった気がする。 


 イーハトーブ代表の〈アゴ〉は流血した顔面を押さえ悶絶している。 


 会場にスロウ再生された映像が流される。カワラはたいらな部分ではなくかどから顔面に直撃していた――当然カワラは割れていない。


『……競技続行は無理のようですね。えー、ただいまの記録0枚。暫定最下位。大会ワースト記録、更新です……』


 苦しむ代表選手のアゴの割れ目がさらに深さを増し、変形している。


 会場から大ブーイングが起こり、物を投げつけられながらアゴの割れた代表選手は取り巻き二人に担がれ退場していった。 


『つづきまして~、ロマーシカ代表、マロースとゆかいな仲間たち~』実況者の声のトーンが、なぜかいきなりほのぼのした雰囲気になる。


 白い立派な お髭を生やした おじいさんが 白熊を連れて 会場に やってきました~。


 白熊の首輪には 「スネグーラチカ」と 書かれた プレートがつけられていました。


(ほんわかしたチーム名と雰囲気だな。今度は安心して見れそうだ。それにしても、さっきまで叫び声を上げていた実況者の語り口が絵本を読み聞かせる幼稚園の先生のような感じになったのが、逆に不気味さを感じるけど……)


 ステージ中央に着くと スネグーラチカはリンゴを与えられ むしゃむしゃと 食べ始めました。


 ロボットではなく 本物の白熊のようです。


(動物の連れ込みも、ありなの……)


 マロースおじいさんは カワラを指さし スネグーラチカに 指示を 出しました。

 どうやら 彼女(?)に 割らせるようです。


 しかし スネグーラチカは リンゴを食べることに 夢中で ぜんぜん 指示にしたがいません。


 カワラ割り そっちのけで リンゴを 食べています。


 リンゴを 食べ終わって その場に 横になって 寝てしまう スネちゃま。


 マロースおじいさんは 腰から コサックウィップを 取り出し 床を叩いて スネちゃまに 指示を出します。


 それでも動かない スネちゃま。


 マロースおじいさんは 業を煮やし コサックウィップで スネちゃまの お尻を 思いっきり ひっぱたきました。


 スネちゃまが 怒り狂って 立ち上がります。


 ブオオオォォォッ と雄叫びを上げて マロースおじいさんを 左手で 殴りつけました。 


 マロースおじいさんは そのまま体ごと スネちゃまの 前に置かれていた カワラの束に 顔面から つっこみました。


 大きな音を立てて はじけ飛ぶカワラたち。


 顔面を押さえながら よろよろと 立ち上がる マロースおじいさん。


 その顔は、血まみれです。


『ただいまのきろく~ 10まい』


 マロースおじいさんが立ち上がったとき櫂惺かいせいは見逃さなかった。


(いま、顔の皮が半分剥がれてたよな……カワラは割れてるけど、もう痛いとかいうレベルじゃないだろこれ⁉ 恐えぇ、ロマーシカ人、恐えぇ……)


 やって来た時は 真っ白だった マロースおじいさんのおひげと スネグーラチカの左腕は 終わるころには 真っ赤に染まっていました。


 マロースおじいさんは 顔を押さえながら スネグラーチカを連れて よろよろと 退場していきました。


 こうして マロースおじいさんと スネグーラチカは いつまでも 二人仲良く 幸せに暮らしました。


 めでたし めでたし。


『続きまして! ラ・マノ・デ・ディオス代表、学生と体操クラブゥゥゥゥ‼』


(健全な名前のチーム名だな、今度こそ安心して見れそうだ。学生が体操でもしながらカワラを割るのかな、まぁそれはそれでイタいけど) 


 各チーム11人ずつ計22人の選手がエスコートキッズに連れられ入場。 


 赤と白のストライプのユニフォームを着たチームと、白地に1本の黒いボーダーが入ったユニフォームを着たチーム。


(ん? サッカー? で、しかも大人数。他代表チームとの競技の中、同じチームの中で対戦? どういうこと? もう訳が分からない……)


 どうやらボールではなくカワラを使ってサッカーをするらしい。


 審判が笛を鳴らしキックオフ。


『カワラをまるでサッカーボールのように見事に操っています! 素晴らしいプレー!』


『実に見事な技術ですね~』


(たしかにすごい! すごいのは、わかるんだけど……で?)


 このままカワラでサッカーをして終わるのかと思っていたら。


(ん! 何か選手たちの動きが荒くなってきたような……)


 両チームとも相手選手に対し、あからさまにプレーを妨害し始める。手で押したり、肩で当たったり、両チームどんどん相手選手への当たりが強くなっていく。


 そして、カワラを保持していた体操クラブ選手に、学生選手が後ろから、足目掛けてスライディングをかける。喰らった選手が派手にこける。


 すかさず審判が笛を鳴らし試合を止める。


『ファーーール! これは危険なスライディングだ!』


(痛そうだけど……これだけ? カワラ割れてないし、今までのものに比べればが、足りない気がする)


 と、ファウルをかけられた選手が怒って審判の制止を振り切り、相手選手に詰め寄る。両チームの選手たちが揉めはじめる。


(すっごい不穏な空気になってきたな……)


 複数の審判が割って入り、両チームを引き離す。


 フリーキックでゴール前に学生チーム選手たちが壁を作る。ファウルをかけられた体操クラブチーム選手がシュートを放つ。


 カワラは、壁を形成していた学生チーム選手のみぞおちにかどから直撃。喰らった選手がその場に倒れこみ、もだえ苦しむ。


『悶絶うううううううう! いったああああああああいっ‼ しかしカワラは割れていなーーーい!』


(いまゴールじゃなくて、明らかにあの選手を狙ってたよな……やり返した感じ……)


『さあ、両チーム、まだカワラを1枚も割っていませんっ』


(得点じゃなくてカワラ割れた枚数? そういう問題なのか……?)


 コーナーキックから絶妙なタイミングでゴール前にいた学生チーム選手のところにカワラが落ちてくる、頭で合わせヘディングシュートすると思いきや。


 カワラを手で掴み取り、そのままゴールキーパーの頭目掛け振り下ろす。パリンッという快音とともにカワラが見事に割れる。


『ゴオオオオオオオオオオオォォォォォルッ‼ ゴール‼ 学生チーム先制ゴオオオオオオルッ!』


『完全にゴールキーパーの虚を突いた見事なゴールですね。あれは痛いですよ~。先制点が神の手ゴール、実に見事です』


(ゴール⁉ え、ゴールに入ってないでしょ? カワラが割れる方がゴールなの……てか、今のハンドなんじゃ? そもそも殴ること自体反則なのでは……)


 両チームの選手たちが詰め寄る。


(すごいヤバい雰囲気……)


『カワラボーイがいいタイミングで入って来ましたよ~』

 カワラボーイと呼ばれた中学生くらいの少年たち4人が、大量にカワラの入ったカートを押してピッチに入ってきた。


 そして両チーム選手たちがそこからカワラを手に取ると、ついに乱闘が始まる。


『始まったあああああああああああっ‼』


 カワラはまた見事に快音を響かせ割れてゆく。カワラを叩きつけられた選手もまた派手に大げさに痛がる。そして両チーム選手たちの間で、それを機についに火が付く。互いに用意していたカワラで殴り合う。パリーーーンッという快音響く凄惨な殴り合いがキックオフ。


 カワラを使った殴り合いの応酬がさらにヒートアップ。


『おーーっとかどで殴るのは反則だああっ! すかさず審判が駆け寄ります』


ひらたい部分で殴るのはいいのかよっ⁉) 


『出ましたあああっ‼ レッドカード! レッドカードです‼』


『審判、かどで殴った選手にレッドカードを突き付けた! 一発退場!』


『いや~しかし、両チームお構いなしに乱闘続けていますね~』


『審判が止めに入るが――。おーーーーーーっと審判流血! 審判殴られたあああああ! 痛あああい! 審判両チーム全員にレッドカード突き付ける! 両チーム全員退場おおおおおっ! しかし止まらなーーーいっ! 乱闘おさまりませんんんっ!』


『一向におさまる気配がありませんね~。逆に激しさを増してます』


 ますます激しさを増す大乱闘。両チーム選手たちは皆流血。流血の嵐。血を血で洗う凄惨な殴り合いに発展。


 観客たちも盛り上がる。両チームお互いをののしり合いながらカワラでボッコボッコに殴り合う。


『割れるーーーっカワラがどんどん割れていきますっ! 素晴らしい! 枚数がどんどん加算されて行きます!』


『神の手ゴールのオンパレードですね~。痛い、痛いこれは痛い』


(ただの殴り合いじゃねえかっ……)


『いや~しかし、彼らにはもう他の代表チームとメダルをかけた闘いなんてどうでもよいのでしょうね~。やはり因縁は深いようです』


 何やら同じコロニー内での因縁がこの競技に持ち込まれているらしい。


(もう……何が何だか…………)


 会場にいた、恐い関係者たちですら収拾させることができず、警察が出動する騒ぎに発展。このエクストリーム・カワラワリは中止になるだろうと思っていたら、そのまま何事も無かったように続行される。


 ラ・マノ・デ・ディオス代表、記録132枚。


『さあ、最後の出場者はもちろんこの人‼ グロッタ・デッロ・ヴィオーラ代表ヴィィィトォォォリオッ・マスタンドレアアアアァァァァッ』


 これまで以上の大歓声が沸き起こる。いよいよ最後の出場者。先ほど駆けつけた警官たちも、ちゃっかり最前列に座りビール片手に盛り上がっている。


『さあ、いよいよ前大会金メダリストの登場です!』


 馬型ロボット2頭に引かれた古代の戦車チャリオットに乗り、悠然と姿を現したのは、古代ローマの軍団長を思わせる豪華で威厳のある甲冑に身を包んだ50代前後と思われる男性。 


『歴戦の猛者の風格。しかしながら、争うことの虚しさを知る、その眼差しには哀愁が漂よっております』


『ワリシュラン3つ星獲得。ベストカワラワリスト5年連続受賞、殿堂入り。割られたい男5年連続1位。コミュニティクラッシャー・オブ・ザ・イヤー7年連続受賞』


(………………)


 櫂惺かいせいはもはや突っ込む気力も失っていた。


 そしてチャリオットの後ろから、やはり古代ローマの兵士に仮装したアシスタントに引かれ木造の物体が姿を見せる。古代の投石機「カタパルト」。 


(ああ……もう何でもありなんだ……)


 10段重ねのカワラの束が縦横5列ずつ計250枚が並べられる。


『カワラが250枚並べられました。これがすべて割れれば新記録達成ですっ‼』 


(何をしようとしているのか想像できたけど……いくら1/5Gでも、さすがにそれは死ぬだろ⁉) 


 投石機の装置に取り付けられた縄をアシスタントたちが張力の限界まで巻いていく。じりじりと音を立て縄が締まる。 


 テコの先端、スプーン状の台にアラフィフのおっさんが体育座りで位置に着く。準備万端と言わんばかりに、おっさんがアシスタントに親指でサムズアップのジェスチャーをして敬礼する。


「投射‼」

 と同時に飛んでいくおっさん。


 空中で回転しながら弾着点を調整している。アラフィフ(推定)とは思えない見事なアクロバットを見せ、空中で体を丸め回転しながら並べられたカワラに突っ込んでいく。


『いったああああああああっ!』


 ドガシャッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン‼   


 耳をつんざくほどの衝撃音が会場に響き、もうもうと土煙が上がる。 


(おっさんは? 大丈夫か⁉)


 土煙がおさまると、割れたカワラの残骸の上に、倒れたおっさんの姿があった。そして見事に250枚ものカワラ、すべて割れていた。


『でたああああああああああああああ‼ 宇宙新記録うううううう‼ やってくれました! やはりこの男がやってくれたあああああああああっ‼』


 スタンディングオベーション、喝采に包まれる会場。 


 観客たちが会場になだれ込み、おっさんを抱え上げその栄誉を讃える。おっさんはふらつきながらも観客たちの歓声に右手を上げ応える。 


 額からダラダラと血を滴らせながら渋い顔でドヤ顔を決める。


 アウトローな恐い関係者たちと警官たちも肩を抱き合い、喜びを分かちあっている。


 あのおっさんを中心に会場が今、一つになっている。


 会場の空気に当てられて、櫂惺も目頭をぬぐい拍手を送る。


 鳴りやまない会場の拍手。誰もがこの会場の空気に呑まれ、感動に包まれていると思っていたら、思いこんでいたら、一か所だけ完全に冷たく真っ白になっていることに、今更ながら気づく愚かな少年。


(しまった…………………………)


 恐る恐る、左にいるフェリシティをほうへ顔を向けると、案の定……。


 ド   ン   引   き


 目が点になり、思考が停止している可憐な少女。


(せっかく今まで、いい雰囲気だったのに……僕はいったい……何やってんだ……)


 少年はもはや、少女に何と言葉をかけたらいいかわからず、ただただ笑顔を取り繕うしかなかった。 


刀島とうじま隊長、申し訳ありません……人生初デート、自分はどうやら、やらかしてしまったようです)


 櫂惺かいせい咄嗟とっさにフェリシティの手を取り、まだまだ熱狂冷めない会場を足早に立ち去ることにした。櫂惺に手を引かれながらフェリシティは微笑む。


(すごくショッキングな内容だったけど……櫂惺かいせい君楽しそうにしてたから、良かった。やっぱり男の子はああいうのが好きなんだ)



 いよいよ今日のメインイベント「フェリーク女子フリー」に二人は向かう。


「さっきのカワラワリ……すごかったねぇ……」


「う、うん。ていうか、ほんとごめん。とんでもないもの見せちゃったね……」


「謝らなくていいよ、平気だから……」


 なんだかぎこちない会話になっている。櫂惺かいせいはまたやらかした感で、げっそりへこんでいる。そんな櫂惺にフェリシティはなんとかフォローしようといろいろと話しかけてきてくれる。


(またフェリシティに気を使わせてしまった……)


「いや……正直言うと、あの競技のこと全然知らなかったんだ」


「え⁉ そうだったの。私てっきり櫂惺かいせい君が見たいものだと思ってた」


「いや全然、とりあえず目に留まったものを選んだだけで」


「なーんだ、そうだったんだー」

 と、クスクス笑いだすフェリシティ。


「あ、でも私、あの最後に出てきた人、どこかで見た気がするんだよね」


「へぇ~そうなんだ。知り合い?」


「うーん、それがよく思い出せないんだよね、兜被ってたから顔よく見えなくて……誰だったかなぁ……?」



 とある多次元統合戦力投射艦の医務室。

「メディック、メディーーーーック! 緊急! 緊急! 至急手当てをっ、艦長が、艦長がああああああああああああっ‼」


 ヘレネー連盟軍が誇る最新鋭艦の艦長が、頭から血を流し重体となって医務室に運ばれてきた。なぜか古代ローマ軍団長の仮装をした状態で。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る