11.ゲームは何がお好きですか?



あの後、咲くんはいおりさんの所へ行くと言って、さっき私たちが出てきた扉へと足を向け、未夜くんは私の隣に座ってソファーの上でゲームを始めてしまっていたから、私はその画面を眺めていた。


13時が近付くと、本日で作業を終えたベルギーズがそそくさと退散していく。


そして未夜くんと二人きりになった。




ふたりきり……?


……え、未夜くんと二人きり、だと!!!




ハッと気付いてしまい、ちらりと未夜くんを伺う。


真顔でゲーム機に釘付けになっていて、その画面の中で銃を乱射(?)しながら進んでいく未夜くん。


画面の向こうでは建物の一部が爆発すると共にドゥーン!という爆発音がゲーム機の音声から響いてきた。


今、手榴弾投げてなかった……?




…………可愛い顔してハードなゲームをしてらっしゃる。


もしやこれが殺すゲームか。




とても、イチャ(?)つける雰囲気じゃなかった。


ガチだ、話しかけていいのかわからないくらい真剣だ。


顔は真顔だけど、指先がすごい動いている。




プレイヤーを見つけるや否やすぐさま狙撃しているその姿は、普段の未夜くんからはかけ離れた姿だった。


(と言ってもまだ出会って二日目)




その時、ツンツンと背後から肩をつつかれたので、ビックゥ!!と肩を跳ねさせて後ろを振り向く。


そこにはいおりさんの部屋から戻ってきただろう咲くんが、首を傾げていた。




「未夜、PvPしてる?」


「……???」




ごめん、何言ってるのか全然わからない。


くるりとこちらに回ってきた咲くんは、私の隣に座る。




ハッ!!未夜くんと咲くんに囲まれて、これははーれむ?逆はー?というものなのでは……!!


隣でまたチュチュチュチュという銃声音が響いているけれど。


逆ハーなのに雰囲気が欠片も出ないの不思議すぎない??




未夜くんはめっちゃ激しい戦いを繰り広げている様子。




「PvPは、プレイヤー同士が戦ってるってこと。オンラインで対戦してるとすぐには止められないから」


「未夜くん今オンラインゲームしてるってことです?」


「そう、さっき琥珀ちゃんと話してた時にはもう入ってたみたいで。終わるまでもうちょっと待っててね」




グロいか?といわれると、プレイヤーが打たれてもちょっと倒れるくらいなので思ったよりはグロさはそこまでなく。


銃を使っているからか、キャラクター同士が遠い位置で撃ち合っているのもあって、細かい描写は見えていない。


ただ、撃たれた人が倒れていく。


命中率やばくない??




「未夜くんて、ハードなゲーム好きなの?……あれ、でも将棋も好きって言ってたっけ……」


「バトルものが好きって言うのが近いのかなぁ」


「なるほど」




将棋もバトルっちゃバトルだもんね。


私はほのぼのとしている育成ゲームとかが好きだから、未夜くんと好きな物の系統が真逆かもしれない。


豚を育てて出荷するゲームとかしてたなぁ。




いおりさんは音ゲーをしていたし、モモテツは雨林さんが買ったらしいし、みんなゲーム好きなんだな。




「咲くんはゲームするんです?」


「あー……俺ね、ちょっとイメージとか壊しちゃったら悪いんだけど」


「……??」




口に手を当てて恥ずかしそうにしている姿が、珍しいけれど。


まって、逆に気になるわ、どんなゲームしてるの?




まさか、え?まさか、じ、18禁とかじゃ……?


いやでも18歳行ってるんだろうかこの人……??




艶めいた唇が無駄に色気を醸し出しながら開かれる。




「ギャルゲー?みたいな。学園モノみたいなの、とか」


「え?」


「ストーリーのしっかりしたものとか……あ、ミステリーとかもするんだけどね」


「お話が好きなんです……?」




ギャルゲーって……あれか、女の子に囲まれてウハウハイベントを進めていくような……?




「もちろん乙女ゲーとかもするんだけど」


「するんです??????」




もちろん、なの??


乙女ゲーといえば、女性向けの男の子に囲まれてウハウハイベントを進めていくゲームじゃないか。


この人、幅広く恋愛ゲームに手を出している???




「楽しむというよりは、キャラクターの性格分析とかに使ってるんだけど」


「使ってる……?」




使う?


ゲームを使う……?




琥珀ちゃんの頭の中は混乱してきて、宙をフラフラと視線が彷徨う。


くすくすと笑っている咲くんは、私の反応を見て遊んでいるようだ。むっ。


私がなにも理解出来ていないのをわかってて振り回しているようだ。




「琥珀」




咲くんとは反対側から声がかけられる。


そこにいるのは、どうやらゲームを終えたらしい未夜くん。


ゲームをする前とも変わりない表情をしているので、勝ったか負けたかもわからなかった。




「咲のこと、聞いてないの?」


「うん?」




そう聞いて未夜くんは首を傾げる。


首筋から肩にかけてのラインがエr(自主規制)


鎖骨見えちゃってますよ!!!




とか煩悩を胸の中の金庫に隠しつつ、平静を装い未夜くんに笑いかける。


金庫のパスワードは3839で決定である。




「咲くんの隠し事のこと?」


「咲、隠してるの?」




くりりとした未夜くんの瞳が、プルシアンブルーの前髪の隙間から覗き、じっと咲くんを眺めている。


咲くんもふわりと笑って首を傾げるから、両手に花……いやいや、琥珀ちゃん、自重しよう、自重。


金庫の鍵が秒で破壊されそうではないか。




深呼吸をするべきだ、ひっひっふぅ。


ダメだこれ産まれちゃうやつだわ。




ダメだ今日の未夜くんは刺激が強い。


なので気を取り直して咲くんへとグリンッと首を回す。




「咲くんは色々と謎めいている」


「琥珀ちゃんがあまりにもいいリアクションしてくれるから、打ち明けがいがあるんだよ」


「意地悪」


「咲は結構、腹黒いから」




……!!!


やっぱり、咲くんて意地悪でお腹真っ黒なんだっ!!


どうもたまに強引に話を進めちゃうところがあると思ってたんだっ!!

(琥珀ちゃんがチョロいのもある)




はわわわわっと口に手を当てて眉を顰めれば、また咲くんが綺麗にくすくすと笑う。


そんなあどけない顔には騙されないんだぞっ……!!




「まぁ、ずいぶんと引っ張れたから、そろそろ教えてもいいかなぁ」




そう言って、プクッと頬を膨らませている私の頬を指でツンと押し込む咲くん。


プスッと空気が口から抜ける。




「俺ね、お話が好きなんだよ」


「……さっき聞いた気がします」




お話、好きなのはわかったけれど、それがなんだろう?


私もお話はすきでよく魔法の〇らんどとかのweb小説を読み漁っている。


恋バナが好きっていう話だろうか?


もしかして実は話が合ったりする??




なんて思っていたけれど、どうやら違うらしく。




「えぇと、創る方が好きなんだよね」


「創る……」




創る方?


ん?とその『お話が好き』という固定された概念にメスを入れられる。


お話が好き。


お話を創る、のが好き?




うん?




「お話、書くんですか……?」


「うん、ていうかほら、漫画描いてるじゃない」


「…………あれ」




漫画って……そもそも作画だけでは成り立たない。


絵が描けるからと連れてこられて、なにも考えずに描いていたけれど、そもそも漫画とはストーリーありきなものである。


むしろ、軸にあるもの。




「え」


「原作つくってるの、俺なんだよね」




えへへ、と、そう楽しそうに笑う咲くんに、琥珀ちゃんの顔は驚いたまま固まる。




よくここまで気付けなかったねぇ〜なんてのんびり言うけど、気付かないよ!?原作と作画は同じ人が創ってるもんだと思うじゃん!!!


ギギギと首を動かし、未夜くんの方へ向けるも、頷いて返される。




え、マジなん……?




「今描いてるお話は『金は地球を救う』っていう学園モノなんだけど。略してカネタマ」


「情報が渋滞している」




まってまって、酷いタイトルだな……っていうのはそうなんだけど、咲くんが原作者?


黒曜のいっちばん偉い人…………原作者なん????




え、じゃあいつもふらりと消えたり戻ってきたりしてるのは作画出来ないから……とかだけではなく??


ネタ収集とか……?




ていうかカネタマってなんか聞いた事あるぞ、少年誌で連載してなかったっけ。


クラスの男子が腹抱えてゲラゲラ笑いながら話していた気がする。




「学生だし、今は隔月連載でね。別の雑誌でも短編載せたりとか」


「ガッツリ作家様でないですか」




やべぇ、プロの現場入ってたの私???


咲くんの創ってるお話に絵を入れてたの??




原稿に手入れたものがそのまま雑誌に載ったり単行本載ったりするの??怖くない???


それでお金稼げるの怖くない???




ゾワリと背筋が凍えた。


変な描き方していなかっただろうか?


でも私が描いていたのは下描きであって、ペン入れは雨林さんがしてくれているだろうから……大丈夫だと信じてる。




「咲はなにも話さずに連れてきたの?」


「うん」




にこりと爽やかないい笑みを未夜くんに向けていた。


うん、じゃねぇですわ。


ここに来た時、なんの情報もなかったぞ。


そんな咲くんにチョロチョロっと付いてきちゃったのは、誰でもない琥珀ちゃんですけどねっ!!!




でも今は、作業が楽しいし黒曜の人も優しく接してくれるから、楽しく描けているから文句はない……。




「いやぁ、琥珀ちゃんが来てくれて、いつもより仕上がりが多少早く済みそうで安心したよ」


「私、作業遅いしちょっと小物描いてたくらいですけど」


「それでもすごく助かったんだよ。だからね」


「?」


「ペンテクも削りも頑張って習得して欲しいな」




そうだわ、私これからペンテクと削りの指導が入るということは、この先原稿に直接手を入れることになるってことでもあるじゃない!!


なにそれこっわ!!!




「これからもよろしくね」




一見爽やかに見えるけれど瞳の奥は真っ黒に鋭くて。




創作する人はやっぱり、ちょっとどこか変なんだな、この人も含めて、と。


そう実感してしまうような出来事であった。




絶対まだなにか隠してることあるでしょう、これ?











午後の作業が始まると、いつもより人の少ない三人の空間の中、トーンの削りの音が響き渡る。


なんならもう、雨林さんまでトーン作業に入っていた……ということはもう背景は全て入ったのだろうか。


少年誌だと少女誌に比べてトーンの割合が少ない。


けれど細かい作業が無くなるわけでもなく、ちまちまと無言でトーンを貼っていく。


モアレが出ないように気を付けながら。


削りは2人がしてくれているようなので、私は貼って細かいところを切り抜いている。




髪の毛の毛先が切れないようにと慎重な作業が続いていた。




と、その時、なんの前触れもなく扉の開かれる音がドカリとして、ビリッとトーンが髪を引き裂いた。


あ、やっべ、勢い余った。


アミの位置合わせて圧着させればバレないだろうか……?




なんてそぉ……っと位置を正していると、ドカドカとした足音がこちらに向かってくる。


気になるけれど今目を離したらあみの位置のズレがわからなくなると思って原稿用紙から目を離せなかった。




と、直後、私の机の上に影がさす。


なんだ?だれだ?私に用なのか?と思い、トーンの違和感がないことを確認してからそちらを見上げる。




と、そこには眉間にシワを寄せたガチヤンキーが、私の後ろに立っていたのだ。


ヒェッ!!!




「なんっ…………!!?」




私、なにか粗相をしたのだろうか?


まさか時間差で締め上げられでもするのだろうか?と思っていたら、そのゴツい左手が机をドンする。


机ドンだ。


なんのキュンもない恐怖の机ドンである。




「…………お前」


「ひぁ……」




琥珀ちゃんの瞳は徐々に潤んでくる。


怖くないとか嘘だよやっぱりこの人怖いよベルギーズ!!!


そりゃ震えるよね!!えぇ!!震えますとも!!!


雪山で熊さんに壁ドンされているようだよ!!!


熊さん冬眠するから雪山にいないだろうけどな!!!




「なん……ですかっ……?」




机ドンされて見下ろされているその視界の中には、私しかいない。


どう足掻いたって用があるのは私でしかない。




「名前」


「は……?」


「お前の名前言え」




…………それはそろそろ覚えて欲しかったな!!!!


ついさっき三回は『琥珀ちゃんです!!!』って名乗ってたよ!!?


ちなみに昨日も名乗りましたっ!!!


琥珀ちゃんは主張が強いのですっ!!!




「琥珀ちゃんですっ……!!」


「琥珀」


「……あ、はい」


「お前次来んの水曜だっつってたか」




私が話した記憶はなく……恐らく咲くんから聞いたんだろう。


私も咲くんから聞いた話だし、こくりとそれに頷く。


するとさらに眉間にシワを寄せるいおりさんに、『ヒェッ』とまた心の中で悲鳴を上げた。




一体何がお気に召さなかったのか?


作業時間が短いことだろうか?


なにか作業にお粗相があっただろうか?




「……火曜日、放課後空けとけ」


「…………え?」


「咲に迎え行かせる」




………………おん????


それを言うと顔を上げ、「テメェらもだ」と未夜くんと雨林さんにも視線を向ける。




おん??????


何が何だかわからない琥珀ちゃんは目が点である。




「打ち上げ?」


「あぁ。琥珀と未夜が入ったことも下の奴らに広める」




打ち上げ……っていうと、〆切明けの打ち上げということだろうか?




「つーことで。お前らは絶対参加」




私と未夜くんを指さしてそう伝えられる。






琥珀ちゃんは、どうやら次にここへ来る日が早まったようです。




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