心に刺さる言葉

 その日はすぐに解散して俺は私室で一人になった。


 一人になりたかったのだ。


 ベットの上で横になり、俺はどうしたら良いのかを考えていた。


「やっぱり分からないや」


 おそらくこの瞬間も周囲には親父の部下たちがいるのだろう。

 俺には気配すら分からない。


 ポピーのやつは良く分かるものだ。


 親父は俺を次の王にしたいのだろうか?

 俺が王様か。


 柄じゃないな。

 不相応だ。


 やれと言われたらどうしよう。

 辞退はできなかったら?


 やらない訳にはいかない。

 王様って何をするんだろう?


 親父は常に執務室で書類と格闘しているが、アレが王様の仕事か。


 俺のイメージとは随分違うな。


 まぁ親父は先代の王を殺して王座を獲得した過去がある。

 親父は実の親を殺したのだ。


 親父はそうせざるを得なかったのだ。

 何故なら先代の王は愚王だった。

 平民を蔑ろにして自分のために国を運営していた。


 王と同じように甘い汁を吸っていた貴族も大勢が取り壊された。


 一族は子供を含めて殺され、土地も没収されてしまった。


 周辺国は親父を『粛清王』と呼び、親父が王になってからは数年で取り壊した貴族は数多く、親父は徹底的に潰した。


 元貴族領土が王国管理となっている。

 他国と内通していた者も含めたら親父はかなりの数の人を粛清したことになる。


 それを聞いても俺は親父が怖い人だとは思えなかった。


 赤ん坊のころに母さんが親父に抱っこをするように言って喧嘩になり母さんを泣かしたことが1度ある。


 あの時の親父は余裕がなかった。

 それぐらい国のために奔走していたんだ。


 俺は国のためにそれほどのことができるだろうか?

 自分の寿命を削るほどの激務を毎日こなせるだろうか?


 俺は自分の子供にあんなことを言えるだろうか?


 不安しかない。

 王族の長子という立場は相当に重い。


《明晰夢を発動いたしますか?》


 あぁどうやら考え事をしていて寝てしまったようだ。


 どうせならポピーにも意見を聞こう。

 発動します。


「お休みなさいませ。マスター」

「ポピー。悩みを聞いてくれよ」

「悩みを聞いてもヒミツ道具は出せませんよ?」

「聞いてくれるだけでも構わないよ。それに君にはポッケは無いでしょ」

「大体は察していますが、どうぞ」

「あぁ」


 サラッと何もない空間にテーブルとイスを出現させて、お茶とお菓子を出せるとか俺よりも明晰夢を操ってるな。


 俺はそんなことを思いながらも、胸の内にある不安をポピーに話した。


「とりあえずできることとできないことを分けましょう」

「紙とペン?」

「では書いてみてください」

「あぁ」


 紙には左右で分かれており、できない派とできる派があった。


 そこに今ある問題や不安を書いていった。


「問題を紙などに書いて確認するだけでもかなり変わります」


 俺の不安は他国の動きや平和の不安定さ。

 俺のことが他国に伝わり命が脅かされる。

 俺の身近な人に危険が迫るのも怖い。

 王位とか考えるだけで胃が痛くなる。

 強くなることの漠然な不安。

 このまま行動して良いのか。

 子供たちの今後や部下の面倒も見なければ。

                       ……etc


「いろいろ出てくるもんだな」

「書けるだけ書いたら確認してみましょう」

「あぁ」


 俺の不安を客観的に見ると俺自身のことで不安になってると言うよりも周りのことで不安を感じているのか。

 これは発見だな。


「できないことはどう足掻あがいてもどうにもできないので放っておきましょう」

「放っておくのか」

「はい。あれこれ考えるのは後で十分です。今考えることは感じてる不安で自身でできることを確認する事です」

「そうか。……そうだな」


 できること。

 強くなること。

 仲間を大切にすること。

 家族を大切にすること。

 仲間を増やすこと。


「やっぱり俺はここに行きつくのか」

「では具体的に強くなるためにはどうしますか?」

「稽古をする?」

「そうですね」


 今からできるのはそれしかないか。


「4才児じゃそれしかないよな」

「お父さまに自由にしても良いって言われましたよね? ダンジョンや魔境の森などで実戦をしてみては?」

「確かに。それもやろうか」

「いろいろな場所に行って奴隷を買いましょう。味方を増やし、戦力を拡大するのです!」

「ちょっと待って。戦争とかする気じゃないよね?」

「甘いですね! 戦争すら起こす気もないくらいの戦力を整えましょう!」

「……なるほど」


 いつもなら怖いとか言って却下するけど、考えるだけの価値はあるな。


「マスター。冗談ですよ?」

「いや、ここは前世の地球でも戦力を持って戦争を回避する戦略があった」

「いや、マスター……」

「力は絶対に必要だ。よし、ポピー!」

「は、はい」

「戦力を集めよう」

「……」


 どうしたのだろう?

 何か悲痛な表情をしている。


「いえ、めんど……大変なことを自分でしまったことに自分を許せそうにありません」

「ごめん。少し何を言ってるか分からない」

「いえ、お気になさらず」

「そう?」


 よし!

 ポピーに相談して良かった!


 少しだけ光が見えた気がする。

 胸の不安が少しだけ晴れた。


「ありがとう、ポピー。君がいてくれて助かったよ」

「で、ですから褒めても何もでませんよ」


 褒められ馴れていないのか、毎回照れるな。


『ここがお主の精神世界か? ちと変わっているな』

「なにやつ!?」


 ポピーは一瞬で俺を守るように前に出て、防御魔法のシールドを幾重も発動させて俺を囲んだ。


『ちょいと待て。接続が難い……』


 声のする方を見るが光の球がフヨフヨと浮かんでいた。


『まぁこれで良かろう』

「お前は何だ。何故この空間に入ることができた」

『あぁ? お前の方がおかしな存在だろう』

「黙れ! 答えないのなら消すまでだ!」


 そう言うとポピーの周囲の空間が大きく歪み始めた。


『待て待て!? マジでお前何なの!? 分かった! 言うから! 自己紹介するから!!』


 光の球は本気でビビッてるのか慌てている。


「良いだろう」

『怖い嬢ちゃんだぜ……。ゴホン。俺はアーティファクトだ』

「え? あの指輪の?」

『そうだぜ』


 マジかよ。

 意思があるって言ってたけど、意思っていうか人格を有していらっしゃるじゃないの!?


「この世界によく来れたましたね」

『いや、マジで大変だったわ。硬いしめんどくさいし分かり辛い』

「当然です。それでもここまでこれたのは流石はアーティファクトですね」

『いやいや。嬢ちゃん何者だよって話だよ。君の存在ってあり得ないでしょ』

「私は私です。私が私である以上私であり、私には私と言う私があり私を形成しています」

『ややこしい嬢ちゃんだ』

「私の名前はポピーです。ポピー様と呼びなさい」

『怖い嬢ちゃんなのは理解したぜ。それよりも少年』


 ん?

 俺かな?


『俺はお前には使われなくない。それを伝えにきた』

「はぁ!?」

「壊しましょう」

『壊して良いさ。女に守られてるようなガキに俺が使われるなんてまっぴらだ』

「……」

「貴様、マスターを侮辱するのは許さんぞ!」

「ポピー。少し黙って」

「しかし!!」

「ポピー。頼む」

「……分かりました」


 ポピーに魔法も解除してもらって光に近づく。


『何だ? 言い訳でもするのか?』

「言い訳はしない。君が言ったことは事実だ」

『認めるのか! ダッサイガキだな!』

「き、貴様……」


 ポピーがマジギレしそうだ。


「俺は弱い。それは事実だ。でも弱いままでもいられないんだ」

『それで?』

「強くなるよ。強くならないといけない」

『お前にとって強さとは何だ?』

「俺にとっての強さ……」

『お前は自分にとっての強さを想像できないのか』

「……ッ!?」

『お前は何をもって強さとする? どうなったらお前は強くなったと言える?』

「そ、それは……」

『まさか周りが強いと言ったら強いとか言わないよな? お前はどこまで周りに委ねれば気が済むんだ』

「俺は何も……」

『お前、なんで強くなろうとしてるんだ?』

「それは……」


 守りたい人たちがいるから。


『何でその先を口に出して言えないんだ!!』

「……」

『お前には本当に残念だよ。自分はどこにいるんだ?』

「……」

『失望したよ。お前には覚悟も意思も志も己すら何もないんだ』

「……」

『まだ自分の欲望をさらけ出してるヤツの方がマシってもんだ』

「……」

『もう会うことも無いだろう。厚みのない空っぽな人形よ。お前のようなヤツは死ぬときになっても自分を理解できないのだろうな』


 光はそう言って消えた。


「マスター! あの光が言った事を真に受けることはありません!」

「……」

「マスターは頑張っています!」

「……」

「毎日この世界で稽古してるじゃないですか!」

「……」

「マスターは努力できる人です! あの光は何も分かってないんです!」

「ポピー……」

「マスターは! マスターは! す、すごい……頑張って……努力して……」

「ありがとう。ポピー」

「マスターは悔しくないんですか!?」

「俺は……」

「私は悔しいです! マスターにあんなことを……。何も分かっていないのに……」

「泣いてくれてありがとう。ポピー」

「マスターは何でなにも言い返さなかったんですか!」

「……言い返せなかったんだ。あの光が言っていたのは本当のことだと思ったから」

「嘘です! マスターがそれを言っては今までの努力を自分で否定するようなものです!」

「……俺は自分をごまかすために努力していたんだと思ってしまった」

「違います! マスターの努力は本物です」

「俺は……」

「内容は伴っています。現にスキルレベルだって上がっているじゃないですか!」


 あの光……アーティファクト俺に問うたのは覚悟だ。


 努力するのは当たり前で褒めてもらえると思うな。

 戦う覚悟も無いのに何の努力をしている?


 その手に持った武器は誰に振り下ろす?

 覚悟も無く殺されるモノが浮かばれないな。


 相手は死ぬ覚悟もしているのに、お前は殺す覚悟も死ぬ覚悟もできていない。


 お前は何のために力を得ようとしている?

 誰のために使い、何のために武器を振るう?


 何の覚悟もないお前がアーティファクトを使っても守りたい者や大切な者を傷つけるだけだと。


 あのアーティファクトは言っていた。

 俺にはそう聞こえた。


 俺は空っぽなんだ。

 戦いに意思がないんだ。


 目標がないんだ。

 ただ守りたい心や大切な人に対する想いが先行してしまって……。


 違うか。

 それを言いわけにしていたんだな。


 意識しないといけない。

 戦いとは殺し合いだと。


 力を手に入れた先にあるのは生きるか死ぬかしかないのだと。

 

 やってやろうじゃねーか!

 あの光をギャフンと言わせてやる!!


「マスター! 聞いてますか!!」

「ポピー! 俺はあの光に負けないから!!」

「マス……え? そ、そうです、ね。え? あ……頑張りましょう!」

「頑張るぞ!!」


 認めてもらうとかどうでもいい。

 あの光は俺の大切な人を泣かせたんだ。


 きちんと詫びを入れさせるんだ!

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