第30話

 北西の砂浜が見えてきた。

 竜宮城の城下町の空を腹で覆った数多の龍の頭が見える。

 それぞれ海水を飲んでいた。 

「じゃ、またね! 武様!」

 女性は避難のため竜宮城方面へと向かったようだ。


 あんな派手な人には似合わないこの小枝は? 一体なんだろう?

 俺はどうしても気になって、走りながら小枝をチラチラと見てしまう。その時また、人にぶつかってしまった。今度は短めの赤い髪のチャイナドレスの女性だ。


 城下町はもう過ぎて、砂浜の砂粒が所々に見え隠れする道を走っていた。逃げ惑う人々はもういない。


「うーん……。躱し損ねたわね」

 ぶつかった時にドンっという音がしたけど。

 妙な感覚だった。ぶつかったようで、ぶつかっていないような感じだ。

「うっ……」

 俺は女性に当たってしまった肩を摩った。

 少し痛くて腫れているみたいだ。

「私は姉と一緒にクンフーの道場を営んでいるから、ぶつかったことは気にしないでね。ごめんなさい寸でのところで当身をしたの」

 当身を瞬間的にしていたなんて、気がつかなかった。

 俺の師範の一人。麻生 弥生の父親みたいな人だった。

 相手がぶつかる時に、寸でで膝、肘を軽く当てて衝撃を抑えたんだ。

 この人は強い。

 俺の直観がそう告げている。

「あなた。山門 武でしょ。これを……? あら? もう持ってるの? それじゃあバイバイ! 頑張ってね!」

 赤色の髪の女性は竜宮城方面へと走った。


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