第22話 妨害工作

 取引最終日。

 既に期近の取引はされていなかったが、翌月物ではほそぼそと商いが出来ていた。

 マクシミリアンとブリュンヒルデの双方に提灯をつける者が出てきたのである。

 取引価格は50万マルクであり、そこから動くことはなく大引けをむかえた。


 翌日の清算価格についてもきっちり50万マルクの値がついた。

 しかし、マクシミリアン、ブリュンヒルデ双方が差金決済を望んでおらず、勝負は三日後の引き渡し日となった。


 ブリュンヒルデは宿の部屋にハーバーを呼んで、どのような策を打ったのかを確認した。


「簡単な事ですよ。まず、街中の荷馬車をおさえました。ヨーナス商会にある現物を運ぼうにも、彼の手持ちの荷馬車だけでは数が足りません。それと、輸入を出来ないように、街道を封鎖しました」


「荷馬車はわかるとして、街道の封鎖はどのように?まさか賊を使って、荷を奪ったりしているのですか?」


 ブリュンヒルデはハーバーがそこまでやっているのであれば、これ以上付き合うのは危険だと考えていた。

 露見したときのリスクが大きすぎる。


「いや、流石にそんな事はいたしませんよ」


「じゃあどうやって?」


「借金で首の回らない貴族がいましてね。土属性の魔法が使えるので、街道に土壁を作ってもらったんですよ。一日二日物流が止まればいいだけなんで」


 ブリュンヒルデはそれでも眉をひそめる。

 やっていることは褒められたものではない。

 しかし、これは形を変えた戦争であり、掛かっている金額を考えれば仕方ないかと割り切った。

 貴族すらも借金で縛って意のままに扱うハーバーは、今回の仕手戦にはうってつけであった。

 綺麗事だけの商人であれば、そもそも自分の商会がある場所の領主に弓をひくような相場は仕掛けない。

 ハーバーだからこそ今の価格があるのだ。


 そのハーバーが自信たっぷりに言う。


「荷馬車もなければ、外からの輸入もない。これで万が一どこかに塩があっても受け渡しは不可能でしょうな。勿論気を抜かずに、塩の流通には目を光らせます。相手がこちらの倉庫破りをしないとも限りませんし」


「倉庫破りをされたところで、400トンの塩は手に入らないでしょうけどね」


「ただ、混ぜ物をされる可能性はありますが、それも金融商品取引所のマジックアイテムで対策できます」


「そんなマジックアイテムが?」


「ええ。受け渡しの量が多いと人の手では確認に時間がかかりますからな。今回はそれを使うように働きかけてあります」


「そう、それでは対策は万全ということね」


「はい」


 ブリュンヒルデはそれを聞いて安心した。

 なお、受渡日に現引きするだけの金額は既にハーバー商会に預けてある。

 こちらは現金を用意したのに、マクシミリアンが商品を用意出来なかったと批難するためだ。

 ブリュンヒルデは一度罠にはめられたマクシミリアンに、何としても恥をかかせたかったのである。


「受け渡し日当日まで気を抜かないでちょうだい」


「承知いたしました」


 ハーバーが下がると、ブリュンヒルデは窓の外を見た。

 そこからマクシミリアンたちが塩を配っている場所が見えた。


「どんなに住民たちを苦しめようとも、ローエンシュタイン家の力は削いでおかなくては。アルノルトが力を持てばもっと多くの人々が苦しむことになるから。私はさぞかし恨まれて、後の歴史書では酷く書かれるのでしょうけど」


 そう独りごちて、大きなため息をついた。




 一方、マクシミリアンはというと、受け渡し日の前日になってヨーナスのところに来ていた。


「マクシミリアン様、未だに荷馬車の空きがありません」


 とヨーナスが僕に教えてくれる。


「そんなに物流が忙しいの?」


 と答えたら、ヨーナスが呆れた顔をした。


「そんなわけないでしょう。ハーバーが全部押さえたんですよ」


「無駄なことをするねえ」


「まったくです。それに、いつの間にか街道をふさぐ土壁が出来て、外からの物流も止まりました。今日になってやっと開通ですよ」


「無駄なことをするねえ」


「はい。マクシミリアン様を狙うのが一番効率が良いのに」


「僕もてっきりそうしてくるかと思ってたけど、意外と平和主義者だったね」


 金額が金額だけに、僕は襲われるんじゃないかと思っていたけど、全くそんな気配が無かった。

 相手は荷馬車を押さえたことと、街道を封鎖したことで満足したらしい。

 確かに普通ならそれで十分だろうから、領主の息子に手を出そうなんて事はしないだろう。

 今僕に何かあれば、真っ先に疑われるのはブリュンヒルデだ。

 状況証拠からローエンシュタイン家の戦争に大義名分ができてしまう。

 そんな事態を避けたかったのかもしれないな。


 結果、それが自分の敗北を招くとも知らないで。

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