第11話 手口
僕がドテンした翌日、ヨーナスの事務所に行って手口を確認した。
一番でかいのはハーバー商会で、昨日新たに買いポジションを500枚追加していた。
現物もどうやら買っているようだ。
他の商会はそれ程でもなく、寧ろヨーナス商会がローエンシュタイン家の注文を受けて、かなりの出来高を作っていた。
基本的には父と兄の売りポジションなのだが、三男の自分が向かい玉を建てている。
ヨーナスは喋らないと思うが、家族にバレたらどうなるかわからないくらいの背信行為だよなあ。
そして本日もヨーナスの事務所で塩の価格を見て時間を過ごす。
昨日と打って変わって、60,000マルクを挟んでの狭い値幅での攻防だ。
本日もローエンシュタイン家の備蓄倉庫から塩が領内に運び出されている。
塩を入れる瓶が足りないのか、革袋や布袋なども使われていると聞いている。
本尊の規模がどの程度かわからないが、辺境伯領が備蓄していた量を一気に放出したら、支えきれないのではないだろうか。
それが出来るのは国家とか大貴族くらいのもんだ。
しかし、昼を過ぎても価格は値崩れしなかった。
寧ろ上を伺うような値動きを見せている。
日中足は59,200でダブルボトムを作り、上値の水平レジスタンスラインである61,300に三度目のアタックを開始した。
ここで叩き落とす事ができればトリプルトップで、売り方はかなり有利になるのだが、突破されると今度はサポートラインに変わってくる。
あいにくと、この世界ではまだそういったテクニカルを解説する本に出会ったことが無いので、みんなそういう事を知らずに相場を張っているのかもしれない。
テクニカルとは繰り返し再現性のあるトレードの手法で、こんな値動きをしたら将来はこういう値動きになるというものだ。
それをオカルトと言う人もいれば、こういうテクニカルが有効と広まればみんなが同じ行動をするから当然そうなると言う人もいる。
ただ、過去の値動きを検証して有効だからこそ、今でも使われているのだろうけど。
因みに、本になったテクニカルは陳腐化する。
だから、自分も本には載ってないテクニカルをいくつか開発していた。
それらは10年経ってもドローダウンしなかったのだ。
現在ではAIが過去の値動きで似ているものを瞬時に探し出し、自動で注文を出すので人間は到底かなわない。
それは、将棋のAIが過去の棋譜全てから最良の一手を導き出すようなものだ。
まあ、そうなると尚の事教科書通りの値動きになるんだけどね。
「さて、今日の手口はどんなもんかな」
大引けを迎えて引値が確定した。
本日の先物は61,900マルクで引けている。
現物は62,100と少し高い。
感覚的には大口が丁寧に拾っていたとわかる。
さて、今日もハーバー商会からの注文が一番多かったのかな?
次の精算日まで24日。
こんなところじゃ終わらないと思うが。
「ねえ、ヨーナス」
「何でしょう?」
「まだ買いの本尊は見つからないの?」
僕の問にヨーナスは首を横に振った。
「はい。しかし、価格もかなり戻ってきましたし、本尊も売り抜けたんじゃないでしょうかねえ」
「やり手商人のヨーナスらしくもない答えだね」
「どうしてですか?」
ヨーナスがわかっていないようなので、まだ異常な状態が継続していることを説明する。
「だって、本尊は何ヶ月にも渡ってひっそりと塩を買い集めていたんでしょ。それも現物を。それを全部売ったのなら、流通量はもっと増えて価格は例年よりも安くなるはずだよ。ローエンシュタイン家の備蓄在庫を放出しても、例年よりも高い価格なのだから、流通量は増えていないはずだ。つまり、本尊はまだ売り抜けていないんだよ」
そう言うとヨーナスは納得した。
「言われてみればそうですね。私としたことが、お恥ずかしい」
「で、本尊が今まだ余力があって支えているのか、売り抜けに失敗して在庫を抱えているのかが重要なんだよね。だからこそ、本尊の正体を掴んで資金量を知りたいんだ」
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