第7話 清算日
さて、本日は清算日だ。
清算値は清算日の寄り付き価格で決定するので、金融商品取引所が開けばすぐに決定する。
もう取引が始まっている時刻なので、値決めされているはずだ。
因みに、日経平均先物は225銘柄の始値で算出されるが、取引が日中成立しない場合は引けの寄り付いた価格で算出される。
だから、取引所が停止しない限りは価格が決定するのだが、引けまで決定しないことがあるのだ。
それに対してニューヨーク証券取引所では清算日の引け値となっている。
1週間前に建てた玉はいくらになっているだろうか。
いや、流石に放置していた訳ではない。
毎日足しげくヨーナスの事務所に通い、値動きを確認していたのだ。
こういう時、ネットで直ぐに取引価格を確認できたことがよかったと認識する。
昔はラジオ日経か対面証券に電話して確認をしたものだが、21世紀にネット証券会社が登場して、パソコンや携帯電話、スマートフォン向けのツールをリリースしてからは、リアルタイムで世界中の金融商品の価格が把握できるようになったのだ。
デイトレードが出来るようになったのは、手数料が安くなったのと情報がリアルタイムになったことが大きい。
「ようこそマクシミリアン様」
「こんにちは」
今日も日課のようにヨーナスの事務所に来たが、今日は清算日なのでお金の受け取りに来たのだ。
支払いの可能性もあると思うだろうが、そこは昨日までの取引価格を確認してあるので大丈夫だ。
よっぽどの暴落でもない限りは問題ない。
いつものように応接室に案内されると、直ぐにヨーナスがやってきた。
「清算価格は61,000となっております」
「7,000マルクの値上がりかあ」
「1週間でこの値動きは異常ですね。証拠金が不足して破産する商人も出たんじゃないでしょうか?」
ヨーナスは他人事のように言う。
事実他人事だけど。
レバレッジが100倍なので、7,000マルクの値幅は、70万マルクの利益となる。
その建玉が5枚あるので350万マルクの利益だ。
証拠金として500万マルク預けてあるのはそのままにして、手数料と日歩を引いた金額を受け取る。
「これならまた期近を5枚買いでいけるかなあ」
「まあそうでしょうねえ。値上がりが期待できるので商人たちも塩の確保を急いでいるみたいですね。これから例年なら上がっていきますし」
ヨーナスの話を聞くと、もっと建玉を増やしたくなるなあ。
単に金を稼ぐだけなら、黒コショウや塩を魔法で作り出せば良いのだが、それと相場で稼ぐのは別の話だ。
「ところで、ヨーナスは自分のポジションは持たないの?」
「手張りもいたしますよ。仕入れ価格が変動して思わぬ損を出したりしたくないので」
「そうか。本尊に提灯つけたりしているのかなと思ったんだけど」
「そういうことなら、まだ値上がりすると見ているので、提灯をつけているとも言えますね」
「本尊はわかったの?」
「いえ、わかりませんねえ。なにせ、塩の値上がりに商人たちが反応して、何処の商会も現物と先物の取り扱い量が増えていますから」
「そろそろ社会問題になりそうだね」
「そうなる前に動くのが商人ですから」
アメリカのケネディ大統領の父親である、ジョセフ・パトリック・“ジョー”・ケネディ・シニアも規制が掛かりそうなことは、規制がかかる前にやれば儲かるって言っていたな。
彼は靴磨きの少年が株の話をしたからそろそろ天井っていう逸話のほうが有名だが、相場師としての本質は前者の方がよく表していると思う。
まあ、そんな理由でインサイダー取引をしていた彼が初代SEC委員長っていうのは、なんの冗談だってなるよね。
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