第38話

「ダンジョンボスを倒した?

 都市部のダンジョンはとても強いモンスターがボスをしているせいで倒すことのできないと言われているほどの強さを持つと聞き及んでいますが……。

 涼奈さんが倒したわけではないということは先輩の乳化スキルで倒したということですか。」


にわかには信じがたい事実なのだろう。

実花後輩は俺のスキルの検証もしている。


「大学にいた当時は肌の汚れを乳化させるのがせいぜいだった先輩のスキルがダンジョンボスを倒すまでに覚醒した?

 ダンジョンの長期間滞在の影響でスキル覚醒する確率は1%は確認されている。

 頻度や期間は人によってまちまちである。

 死神乙女(ヴァルキリー)・挑戦士(ウルズ)のギルドマスターのように呪いをかけることによってスキルを永続的な強化することも論文としては珍しいものではない。

 よって2つ目が最も可能性として有力であると考えられるがそれは涼菜さんの呪いが葵先輩にまで反映した場合に限る。

 しかし不確定要素が多過ぎるので確定できる考察は無し、最も確率は低いがダンジョン長期間滞在におけるスキル覚醒がもっとも正しい順序を踏んでいる。

 第三要因として挙げるのならダンジョンエネルギー抽出作業による擬似スキル覚醒が考えられる。

 ダンジョン抽出作業員はスキル覚醒をした事例は皆無だがダンジョンに入った者も皆無である。

 先輩は精密検査は既に受けていますか?」


思考するにも独り言が多く大学でも浮きやすい存在だった。

しかしそのキリリとした目つきをすれば女子は寄ってくるし研究と考察にさえ走らなければ男子にもモテていたかもしれないとつくづく思う残念女子。

彼女らしいと言えば彼女らしいのだが大学にいるときは常にブツブツと口にしていないと落ち着かない体質だったらしい。


「まあお察しのとおりだけどみんなドン引きしているからね。」

「これはこれは失礼いたしました。」


深々と頭を下げるが周囲はドン引きだ。

独りで勝手に考察やら予想やらを声に出して話しているのだから普通にどんな神経をしている人か疑うだろうし何か障害を抱えているのかもしれないと心配にもなる。

実花後輩はこれで正常運転なのだ。

大学病院の先生もお墨付きをもらうくらいには至って正常。

孤独を紛らわすわけでもなく覚えるために声を発しているというのがこの独り言の正体だ。


「実花後輩は音の刺激を受けたモノに関しては100%覚える天才だからな。」

「よく言いますよ。先輩は大学院まで行っている間にバーテンダーのバイトでバーテンダーの技能資格や調理師免許まで取っちゃってしかもダンジョンエネルギー抽出師の資格まで取るんですから全く違う技術系の資格を取っていますし家電アドバイザーだって無駄に資格ばっかり取っていますよこの人。」

「それってどうやってやったの?」

「昼は大学の講義夜はオールでバーテンダーで働いていたらそうなりますよ。

 バーテンダーは正社員で雇われていましたし大学も勉強で成績を出せば文句を言わないところでしたからね。」

「まああの時は金が欲しかったしなんなら72時間働けますかってくらいには色々手を付けていたしな。」


根っからのブラック労働っぷりに今度は葵に対して涼奈とみずきはドン引きしていた。


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スライム道

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