第21話 それぞれのプール。
温水プールには浅瀬のプールと流れるプール、ウォータースライダーなどなど。
色々なプールがある。
俺たちは散り散りになり、それぞれしたいことをすることにした。
そんな中、麻里奈は持ってきた日焼け止めを手に、ビーチサイドで寝転ぶ。
「稲荷さん。私に塗ってくれないかしら?」
「ええっと。ここ屋内だけど?」
「いいじゃない。ラノベの世界では当たり前でしょう?」
「いやいや! ラノベの世界でももう見かけないって!」
俺はぶんぶんと頭を振るが、やめる気はないらしい麻里奈。
「わ、分かったよ。少しだけな」
俺は日焼け止めクリームを受け取ると、手につけ、麻里奈の柔肌に触れる。
「やんっ!」
「変な声を上げるな。やめるぞ」
「そう言わずに」
なんだか麻里奈に乗せられているような気がする。
俺はそのままクリームを塗り続ける。
だいたい終わったが、その度に変な声をあげるもんだから、ドキドキする。
「さあ、終わりかな」
「まだよ。前がのこっているわ」
「へっ!?」
今度は俺が変な声を上げる番だった。
前って? 前か? 前なのか?
それって……。
ごくりと喉を鳴らす俺。
「い、いや、やっぱり私、自分でやるわ」
麻里奈はクリームをとり、そそくさと逃げていく。
そのあとから明理がやってくる。
「もう、何をやっているのよ? 二人でウォータースライダーしましょ!」
「ああ。いいが、クリームはなくていいのか?」
はてなマークを浮かべる明理。
「日焼け止めはいいのか、って話」
「あー。それなら更衣室で塗ってきたわよ。変なことを言わないでよね」
明理は塗ってきたらしい。
でも、さっきみたいなことがあと三人も続くとなると、大変だろう。
これで良かったのだ。
そう言い聞かせ、俺はウォータースライダーのある高台へ来ていた。
その高台にきて、俺はふと後ろを振り返る。
すごい高さだ。家の三階くらいに位置するだろうか。
間違って落ちたら、骨折じゃすまないだろう。
「俺、降りていい?」
「何よ、だらしない。このくらいジェットコースターに比べれば、楽勝でしょ?」
「あー。まあ」
でも肌着一枚で、このスライダーに乗るのは勇気いるよな。
俺は二人乗りの浮き輪を手にし、スライダーの入り口に立つ。
前には俺が座り、後ろには明理が座る。
「いっくよ――!」
明理のかけ声とともに、俺は浮き輪を走らせる。
「きゃ――――――――っ!」
叫び声とともに、滑り落ちていく。
むにゅっと暖かく柔らかな二つの膨らみが背に触れる。
え。なにこの感触は。
いや、分かる。分かるけど、分かりたくない。
叫び声を上げながら落ちていく。
ぐねりと曲がったと思ったら、目の前が深いプールになっている。
水柱をあげて、俺と明理は落ちるのだった。
「明理、大丈夫か?」
俺が振り返ると、そこには前を隠している明理がいた。
「? どうした?」
「水着、とって」
か細い声で、指さす明理。
そっちの方に水着が流れていた。
「!?」
ということは、明理は今、半裸!?
俺は慌てて水着を取りに行く。
こんな大衆の面前で明理の半裸はさらせない。
その思いから、すぐに水着をとり明理に渡す。
俺の後ろでこそこそと着直している明理。
と、俺は菜乃に手を引かれ、プールの端に行く。
「ありがと。……て、あれ?」
明理がお礼を言い、稲荷祐介に向き直るのはその後だった。
俺はプールの端で菜乃と相対する。
「我は泳げないのかな。どうすればいいのかな?」
「ようは泳げるようにしてほしい、と?」
「そういうことになるかな。泳げないのはさびしい」
さびしい、か。
「分かった。少し付き合うよ」
「やったかな! 嬉しい」
菜乃はそう言い、泳ぎの練習を
嬉しいのか? まあ、好きな人と一緒にいられるのは嬉しいんだろう。
俺は菜乃の指導に入る。
まずはバタ足から。
プールの端で壁に捕まりながらの訓練だ。
自信がないのか、足が下がり、腕は縮む。
それを矯正しないと、泳ぎは良くならない。つまりは自信を持たせるべきなのだ。
とはいえ、泳ぎはあんまりしてこなかった菜乃だ。
いきなり自信がつくわけもない。
でも自信をつける方法はある。目標を決めてそれをこなすことだ。
俺はまずバタ足で5m泳ぐことを目標とした。もちろんビート板ありだ。
それまで、足と腕の矯正をし、少しでも泳げるようにする。
それを続けること、一時間。
「つ、疲れたかな」
息も絶え絶えと言った様子の菜乃。
「少し休むか」
プールサイドにあるベンチで横になる俺と菜乃。
と、俺の手を引く手が。
次は誰だ。
「あたしにも付き合いなさい。稲荷」
釘宮だ。
「流れるプールに行くぞ!」
釘宮がふくれっ面をしながら、そう言う。
「もしかして――嫉妬している?」
「なっ――――!」
だよな。そんなわけないよな。
あの釘宮がそうわかりやすい顔をするものか。
「そ、そうですけど? なにか文句ある?」
「え。あ、いや……」
ばつの悪い顔になる。
頬を掻いて、困ったように呟く。
「可愛いところあるんじゃん」
その言葉に耳までまっ赤にする釘宮。
そんな彼女の背中を追いかけて、流れるプールにたどり着く。
浮き輪を借り、その上でのんびりと過ごす、俺と釘宮。ちなみに浮き輪は一人用を二個使っているので、離れる可能性はあった。
「こうして落ち着けるのもいいでしょ? 稲荷」
「ああ。まあな。疲れていたし」
流れるプールには二つのルートがある。その片方に俺が、もう一方に釘宮が流れていく。
「い、稲荷!」
「く、釘宮!」
二人は離ればなれになる。
と途中で拾われる俺。
「捕まえた♡」
そう言って目の前に現れるのは麻里奈だった。
「さあ、私と一緒に遊びましょう?」
「まじか。でも俺、疲れているんだ」
「なら、少しご休憩を」
麻里奈が指さした先には、クレープ屋さんがあるではないか。
その手前にはテーブルと椅子も用意してある。
「まあ、いいっか」
俺はそのクレープ屋に行くと、二人分のクレープを頼む。
麻里奈がイチゴで、俺がチョコ。
ぱくっと一口。
「おいしい」
「ですね」
俺が感想を言うと、麻里奈が嬉しそうに微笑む。
「これも稲荷くんのお陰です」
改まって言う麻里奈。
「お陰で友達もできたし、楽しい思い出もできました。もう思い残すこともありません」
「なんだよ。今生の別れみたいないいかた」
「でも、稲荷くんが彼女を好きになったら、私はお役御免。私の入る隙はないと思うのです」
その彼女は誰を思い浮かべたのか。
俺と一致しているのか、あるいは……。
「俺には分からないが、彼女ができたからと言って、友達をやめる理由になるのか?」
「あら。分からないのですね。男女での友情は存在しないのですよ」
「そうなのか?」
「科学的にも証明されています」
そうなのか。知らなかった。
「でも俺はお前とならずっと友達でいられる自信あるけどな」
「…………そうですか」
なんだか間が開いたけど、なんだったんだ?
「やはり私には……」
「いいんじゃないの。気にしなくて」
横合いからたけるの声が届く。
「こいつそうとうな鈍感だからな。今、お前がふったのも気がついていないみたいだし」
たけるが、そう言うが、俺にはふったつもりはない。
「……? 俺がふったのか? 分からない」
分からないぞ。恋愛脳は!
難しいな。
「お前、ずっと友達でいられる――なんて言ったら勘違いするぞ」
たけるの叱咤が入ると、納得する。
「あー。恋人にはなれない、って受け止められるんだな? 難しいな」
「お前は言葉使いに注意しろ。そして、高坂さんも落ち込まない。こんなことで落ち込んでいたら、本当にとられてしまうぞ」
「しょ、承知いたしました!」
麻里奈が敬礼をして、たけるにお礼を言う。
たけるよ。フォローありがとう。
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