第68話:求婚

「大公殿下、我が国のベンジャミン王子はとても優秀な方でございます」


 リンスター王国の特使が必死で王子のいい所をアピールしている。

 最初は、以前のわずかな恩を盾に、有利に婚約を進めようとしていた。

 だが我が国に対する政略結婚話の多さに危機感を覚えたようで、慌てて全権大使を送ってきたが、もう時すでに遅いのだ。

 あの時のリンスター王国は、危険な状況に陥ったこちらから婚約を申し込ませて、あわよくば俺を廃嫡させて、ベンジャミン王子を次期大公にしたかったのだろう。


「特使殿、ベンジャミン王子が優秀なのは私も知っている。

 知っているからこそ、あまりに年の離れた王子と我が娘の婚約はお断わりしたい。

 オードリーはまだ三歳、サバンナなど一歳に過ぎないのだ。

 適齢期になるまで王子に独身でいろとは言えない。

 独身生活に耐えられなかったベンジャミン王子が、先に子供を作っていたら、後継者争いが起こるのは目に見ている。

 そのような婚約を結ぶことは、我が娘にも王子にも不幸な事だからな」


「その心配はございません、大公殿下。

 王子はとても品行方正な方で、結婚前に他の女性を妊娠させるような事は、絶対にありません」


「特使殿、これ以上不毛な会話を続ける訳にはいかないのだ。

 大陸中の国々から、王侯貴族が子供たちとの婚約を求めてやって来ている。

 貴君だけのために、これ以上時間を創るわけにはいかないのだ。

 以前お世話になった事があるから、一番最初に時間を作ったのだが、具体的な条件を提示してくれないと、これ以上の時間は作れない」


「特使殿のお帰りである、次の特使殿に入って頂け」


 セバスチャンが冷酷に言い放つが、リンスター王国の特使は逆らわない。

 普通なら母国の威を借りて居丈高にするのだが、今の我が国が相手ではできない。

 何かあれば俺の従魔従竜が母国に攻め込んで来るのだから。

 いや、俺の従魔従竜の侵攻に合わせて、国境を接している全ての国が攻め込んでくるから、わずかでも不平不満を表に出す事はできない。

 国力、戦闘力があると言うのはとても大きい事なのだな。


「大公殿下、お久しぶりでございます。

 この度は格別のはからいをしていただき、感謝の言葉もございません」


 ハミルトン王家の特使か、父上はともかく、よく母上が謁見を認められたな。

 もう王都以外は寸土も無くなってしまった、ほぼ亡国となった王家だ。

 その王都の住人もほとんどが逃げ去ってしまい、廃墟に近いありさまだと噂されているが、実際には、そこまでは荒廃していない。

 王国内に張り巡らされた街道網の中心にあるのが王都だから、商人の出入りが多く、それなりの入城税が入っていると報告を受けている。


「ああ、そうだな、特別な待遇だな、だが貴卿には公爵時代に世話になった。

 その世話になった代償に、最後の願いを聞いて謁見を認めてやった。

 だが婚約話を受ける事はないぞ、分かっているな」


「はい、これだけ多くの王侯貴族が来られているのに、最も条件の悪いハミルトン王家が政略結婚の相手に認められるとは思っておりません。

 正式な使者として公都に入れていただけた事を、大陸中に広められるだけで、私の役目は果たせたものと考えております」


 ハミルトン王家にもまだ忠臣がいるのだな。

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