第44話:開戦準備

「父上、どう言う事でございますか」


「うむ、よく戻っていてくれた、イーライ。

 ベネディクト王が陰で色々と動いていたようでな、こちらが知らない内にファイフ王国と軍事同盟を結んでいたようなのだ。

 ファイフ王国軍五万が電光石火の速さで国境を越えた。

 その知らせを受けた国王は、王都に常駐させていた軍勢一万を使って、我らに属した王都近くにある貴族の領地に攻め込んだので」


「その貴族領の人々は大丈夫なのですか」


「うむ、セバスチャンが王都と国境に密偵を放ってくれていた。

 そのお陰でファイフ王国軍の侵攻を即座に知ることができた。

 イーライの従魔を貸し与えられた者たちが、王の軍を迎撃した。

 王の軍はイーライの従魔を恐れて領地内には入って来ていないようだ。

 そのお陰で領民が城に逃げ込むことができたと領主からお礼の伝書魔術が届いた」


「それはようございました。

 それで、今後どうするおつもりなのですか、父上。

 私を呼び戻したという事は、直ぐに援軍に行けと言う事なのでしょうか」


「私としては、まだお幼いイーライを戦争の現場に送り出したくはない。

 父としては絶対に嫌なのだが、大公としてはそうも言っておられないのだ。

 実際にイーライを戦わせる気はない、これは最初に断言しておく。

 だが、イーライの従魔が必要なのは確かだ。

 イーライが家臣に貸し与えた従魔のお陰で戦いにはならず睨み合いですんでいる。

 だがファイフ王国軍五万が援軍に現れたら、今の従魔の数だと、戦力の均衡が崩れてしまって、戦いが始まってしまうだろう。

 だがイーライが十倍の数の従魔を現場に送ってくれれば、ファイフ王国軍も恐れをなして無理に戦おうとはしないだろう。

 私に臣従してくれた貴族とその領民の為にも、王の命令で無理矢理他国に送り込まれたファイフ王国の兵士とその家族の為にも、戦いにはしたくないのだ。

 イーライが送れる従魔を全て送ってくれないだろうか」


 俺は万全の体制を整えて、セバスチャンだけでなく、従魔たちも引き連れて、転移魔術を使って急いで大公城に戻った。

 深夜にもかかわらず、城の中は騒然としていた。

 寝耳に水の事態であったことは、父上の執務室に出入りする、重心たちの青ざめた顔を見れば分かる。

 だがそんな中でも、父上から話を聞いたセバスチャンだけは平気な顔をしている。


 幼い頃から養育係をしてくれていたので、その表情を見れば直ぐに分かる。

 本当に平気なのか、周りを安心させるために表情を取り繕っているのか。

 いや、周りを安心させるためではなく、父上を安心させるためだ。

 最近ようやく分かってきたのだが、父上は頼りがいのある男らしい性格じゃない。

 頼りがいのある領主に見せるために、相当無理をされているのだ。

 そんな父上を安心させる事が、セバスチャンの一番大切な役目なのだと。


 だが今回のセバスチャンは、表情を取り繕っているわけではない。

 本当に心から大丈夫だと思っているのだ。

 この程度の事は、騒ぐほどの事ではないと本気で思っているのだ。

 俺が転移してきてもその表情に変わりはなかった。

 それを確認したからだろうか、父上から感じられた不安が感じられなくなった。

 それとも、俺が来た事で安心されたのだろうか。

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