第13話:孤児院

「いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん」


 子供たちが嬉しそうに高らかに九九を口ずさんでいる。

 初めて学校に行かせてもらえて、とてもうれしかった事を思い出す。

 母の祖父も、流石に学校に行かせない訳にはいかなかったようだ。

 暴行の傷が目立つ時には長く休まされたけれど。

 それでもできるだけ学校には行かせるようにと母と母の愛人に行っていた。

 周りの連中も、虐待の事は隠蔽していたが、学校には行かせるように言っていた。


 母の両親や祖父も、あのクソ教師も新聞記者も、母と母の愛人に死なせると流石に隠蔽できないと言っていたからな。

 だが結局は虐待がエスカレートして俺を殺したのだろうな。

 今頃は全てが露見して、全員が罰を受けているだろう、いい気味だ。

 それとも、俺の遺体をどこかに埋めて証拠を消すかな。

 もしそうだとしたら、俺は殺され損だな、ここから報復する方法はないかな。


「イーライ様、何かお考え事ですか」


 俺が余計な事を考えていると、セバスチャン穏やかな声で話しかけてくれた。

 セバスチャンは俺が恨みに囚われそうになっているのに気が付いたのかな。


「前世の事を考えていた」


「わたくしもですが、なかなか前世の事は吹っ切れませんね。

 ですが、この世界にはイーライ様の救いの手を待っている者がたくさんおります。

 大人たちを救う事はできませんが、子供たちは違います。

 まだ心が弱ったりねじ曲がったりする前に、教え導くことができます。

 イーライ様が狩り蓄えられた素材を使って、こうして孤児院を作ったのです。

 前世の事は、この世界でやるべき事をやり尽くしてから考えてください」


「そうだな、そうするしかないんだよな」


「はい、もし前世に介入するとしても、イーライ様がこの世界にこられてからの事になるでしょう。

 この世界にこられる前に介入してしまっては、全てがなかった事になります。

 魔力も魔術も伸ばせるだけ伸ばしてから、目にもの見せてやればいいのです」


「分かったよ、セバスチャンの言う通りにするよ。

 ただ、孤児院の子たちに教科書くらい与えてもいいのではないか」


「イーライ様、この世界では紙がとても貴重なのですよ」


「貴重とはいっても、子供たちの教育には欠かせないだろう」


「イーライ様、子供たちに乞食根性をつける訳にはいかないのですよ。

 本当に困ったのなら、乞食になる覚悟は必要です。

 ですがそれが通用するのは、公爵領だけなのですよ。

 王領地や他の貴族領では、奴隷に逆戻りになるのです。

 こんな事を言いたくはありませんが、公爵家が王家や他国に滅びぼされた時にも、孤児たちが自分の脚で立ち、生きて行けるようにしておかればいけないのです。

 だから孤児院で使った費用は、全て孤児たちに返してもらわなければいけません。

 孤児たちの借金は少なければ少ないほどいいのです」


 セバスチャンの言いたいことはなんとなくわかる。

 だけど、本があるのとないのでは、覚えやすさが全く違うと思う。

 それに、自分のモノだと言う教科書をもらえた時の嬉しさは今でも覚えている。

 同時に、教科書を破られ焼かれた時の怒りと哀しみも覚えている。

 ああ、またあいつの事を思い出してしまう。

 あの時はあいつが教科書を貸してくれたんだよな。


「セバスチャンは、セバスチャンなら何か方法が思う浮かぶのではないか。

 孤児たちに教科書を与えつつ、借金にしない方法を考えてくれ」

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