無傷と念話とド正論
水溜まりに突っ込んでいく彗星の様な火龍は、その進路を変える事も、急停止する事もなかった……爆音が身体を打つ。
地面が大きく揺れて宙に少し浮いた俺は、後の爆風(?)に吹っ飛ばされた。レベルやステータスが高くなっても、こういうのへの耐性は付かないようだ。
自身の進行方向に、形を固定した水の壁を生成して強引に動きを止める。かなりの速度でぶつかったはずだが、身体は痛くも痒くもない。
火龍がいるはずの方向を見たが、その姿が見えない。あまりの衝撃で地面にクレーターみたいなのを作ったのだろうか? そうだとしたら、中央の辺りにいるか?
土埃を水魔法で払いのけながら、水溜まりに突っ込んだ火龍の状態を確認するために、そこへ向かうと、水がなくなった穴と中央に佇む火龍がいた。
火龍は穴の淵に立つ俺に気付いたのか、感情の読み取れない顔をこちらへゆっくりと向ける。超高速で飛来してきたにも関わらず、その巨体には傷一つ付いていない。まあドラゴンだし、自分から凸ってるし、そりゃそうか……。
苦しんでいる様子もないあたり、俺が喉に生成した水は抜けているのだろう。
奴は攻撃もせず、俺をただじっと見ているだけ……あまりにも中途半端過ぎる。殺意が満タンなら、間隔なんて空けずに火球撃ちまくってるだろうし、戦う気が無いのなら秒で去っていくはずだ。それなのに、奴は俺をじっと見ているだけだ。
俺とコミュニケーションを取ろうとしてるのか? でも、どっかの映画やアニメみたいに喋りかけても来ないしな……お前、龍の王なんだろ? 喋るくらい出来ないの?
『──あなた頭悪いですね~十年ぽっちしか生きてない人生の経験則を生かそうとしてるあたり不治の馬鹿ですねw──』
なんだろう……頭の中に直接男の声が響いているような感覚がする。そしてなんか凄く腹立ってきた……
(──お前誰? 俺の前にいるドラゴン? 応答願うぞ──)
さっきの発言に対する少々の怒りは置いといて、こいつの正体を考える……といってもどう考えても火龍だよな……。
龍の王といったら、『我に跪け』みたいな絶対的な存在で威厳のある感じがするんだがな……イメージぶち壊しだ。現実は非情だ。こんな龍の王に威厳もクソもない。
『ああ、我は龍の王ですよ~というか心の声こっちに聞こえてるんで……ネチネチ語るのやめてもらっていいですか?』
火龍……やっぱりお前か……。心の声が聞こえるんならわざわざ念じなくてもいいな。てか、表情が全然変わってないぞ? わざとやってるのか? 普通にしたらどうだ?
『えーと……人間の尺度でドラゴンを語るのやめてもらっていいですか? 自分の価値観を他の同種にでもなく、全く違う種の生物に当てはめるのは相当頭悪いと思うんですよね~。あと〔普通〕って言葉についてきちんと考えた方がいいですよ?』
うぜぇ……けどド正論だな。悪かった。俺が悪かった。俺が悪うございました。ところで、なんで俺達を襲ってきたんだ?
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