確定

 最終日の翌朝、俺とアキラは屋敷を出た。その足取りは重いものの、顔にはきっと自信が浮かんでいるだろう。


「あの先生、めっちゃ厳しかったな……」


「ああ。あんなスパルタ教師は久しぶりに見た。だが、効果は本当に凄いな……。」


 俺達の背は特に意識していないにも関わらずピンと伸びていて、顎は若干引いている。ゾボロが『効果は期待しとけ。』って言ってたのは嘘では無かったようだ。


「たしかこの辺りにギルマスがいるはずだ。……でも、いねぇな。遅刻か?」


 アキラが周りを見ながら言った。


「まあ、待っていたらいずれ来るさ。まあ、来なかったら来なかったで、通行人にギルドまでの道を聞けば良いし……って、この辺りに通行人ってそんなにいないよな……。」


 俺達がいる道は幅こそ広く、タイルが敷き詰められているものの、閑散としている。肌を打ち付けるかのような冷たく強い風が吹いているが、厚着をした俺達にはかなわない。


「これってもしかして詰んだ系男子?」


「いや、ゾボロが来れば全てが解決するんだから、彼が来るまで待てばいい。」


「まあ、そうだな。じゃあ、来るまで待つとするか……。」


────

──「ギルマスが全く来る気配ないんだが、これって俺達本格的に詰んだ系男子?」


「詰んだかもな……だが、今の俺達に出来る事と言えば、真上に高く飛んで上から冒険者ギルドを見つけて、その方向に歩くくらいの事しか無いからな……。」


「それすれば良くね?」


──ん? 今向こうの屋根の上で何か動いたような…………


「どうした? ソウタ?」


「いや、何でもない。さっきの質問に答えよう。正規のルートじゃないから遠回りになる可能性があるし、多分ここ貴族とかそれなりに裕福な奴等が集まる所だから、下手に進んで不法侵入とか言われるのは避けたい。」


「なるほど……じゃあ結局待つしか無いじゃねぇか! ってソウタ、あれってもしかしてギルマスじゃね?」


 アキラが指差した所を見ると、確かに赤髪マッチョのおっさんが、遠くにいるのが見えた。彼は俺達の視線に気付くと、一瞬前に体を傾けて、こちらに駆けてきた。


「すまなかった! 国王陛下の使者の応対が予想以上に時間が掛かったんだ。連絡に部下を向かわせようとも思ったが、ここ貴族街に入れる身分の者が居なかった。すまない!」


 開口一番に、彼は頭を下げて謝ってきた。いきなりこんな近くで大声を出されたので、こちらが圧されてしまった。


「まあ、理由が理由だし、仕方ないな。こうやって頭下げてまで謝ったんだから、俺からは別に責めたり罵ったりはしない。」


「俺も同じくっス。じゃあ、早速ギルドまで戻るスか!」


「ありがたい。俺が全力でギルドまで案内する。」


「いや全力出す必要無いぞ?」


────

──「そういえば国王陛下の使者って、一体どんな用件で来たんだ? 護衛の依頼についてか?」


「そうだ。ソウタ、アキラ、君達二人の城内護衛、更に会議中の護衛が正式に決まった。ここまでは予想通りだったんだが、ここからが予想外だったんだ。それのせいで、来るのが遅れてしまった。」


 正式に決まったか……これで勇者達と面を合わせるのはほぼ確定した。まあ、その事は前からなんとなく予想できていたが、予想外の事だって……?


「なんだ?」


「お前ら二人と、勇者パーティーの中の二人が、御前試合をすることが決まった……。」

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