あなたには担保になるものがありますか?

ジャメヴ

大西俊之

「くぉら! お前いくら借りとるか覚えとんか!」

「あの……50万円です」

「ふざけた事ぬかすなよ! 利子がついとるやろがい!」

「すみません……」

「支払期限は昨日やったのに1円も返さんとはどういうつもりや!」

「すみません……」

「約束を守れん人間はなぁ……」


アラサーに見える、背の低い茶髪オールバックの黒スーツの強面こわもて男性は、東京だというのに関西弁の早口でまくし立てた後、ダラダラと説教をたれだした。最近は債務者さいむしゃが法律で守られている為、今時では珍しいタイプだ。先程のセリフは完全にアウトだが、彼なりにギリギリのラインを攻めてきているのだろう。


「今日んとこは帰るけど、ちょっとぐらいは返していけよ。返さんかったらエラい目に会うぞ」


強面こわもて男性は捨て台詞ぜりふを吐いて帰っていった。俺はドアを閉めて、築15年の少し汚れた1Kの部屋に入る。


俺、大西俊之おおにしとしゆきは高校を卒業した後、上京してリフォーム会社の営業マンとして働いていた。営業マンと言っても、飛び込みのアポインターだ。全く知らない人の家のインターホンを押し、話を聞いてくれる人が見つかるのを待つというもの。数を撃てば当たるが、10件に1人ぐらいの割合で話だけ聞いてくれて、100件に1人ぐらいの割合で興味を持ってくれるという、気の遠くなるような仕事。同期で仲の良かった奴がいたので1年程続いたが、ある理由により辞める事となる。その理由は競馬だ。しかも、ノミ屋で購入するという、正式な馬券を買わない犯罪行為。友人の友人から紹介されたノミ屋で趣味程度に遊んでいた。勝ったり負けたりが続く中、ある日、友人と単勝転がしという遊びをした。単勝を1万円買い、それが当たれば、その勝ち分全額を次のレースの単勝に突っ込むというもの。俺は3連勝し、何と50万円も勝ってしまったんだ。それだけに留まらず、その後は連戦連勝。働くのがバカらしくなった俺は会社を辞め、プロ馬券師になろうと決意した。天才だと思い込んでいた俺だったが、直ぐにビギナーズラックだったと思い知る事になる。1ヶ月もしない間に、勝ち分全てを吐き出し、それから間も無く貯金も食い潰し、借金までするようになってしまったんだ。

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