第28話 台本は完成したけど嵐の予感!?

 7月の最初の週末、私たち演劇部は配役を決める為に家庭科室に集まっていると見知らぬ人が入ってきた。

 細身に長身の見た事ない爽やか系男子高校生。


「やぁ、皆お待たせ。これから配役を決めるよ」


 その男子高校生を見るなり隣に座る美咲が口を開く。


「あの……誰ですか?」


 私を含めて皆が美咲と同じ事を思っただろう。

 すると男子高校生は頭を掻きながら言ったのです。


「やだな~、皆忘れちゃった? 俺だよ俺、部長の金丸勝俊」

「「「えええ!?」」」


 皆が驚きの声を上げ、私の前に座っていた茜は椅子から転げ落ちてしまう。


「いや~、悟り部屋刑務所に入れられて毎日遅くまで台本仕上げてたら痩せちゃたよ。家にいるとつい間食しちゃうからね。人間、若い内はノリと勢いで何とかなるもんだね、あはは」


 見る影もなく見事にパンダ体型から細身に生まれ変わった金丸部長。

 恐るべし悟り部屋刑務所ダイエット!


「よし、沙織先生は職員会議で欠席するから進行は俺が担当していくね」


 そう言うと金丸部長は黒板に演目と配役を書いていき、演目の台本を手前の部員達に渡して後ろの部員に配らせた。

 私の所にも台本が回ってきては表紙に視線を落とす。


「シンデレラ? ……時代劇じゃない」


 思わずボソッと呟いてしまった。

 確か当初の台本には時代劇物の台本だった筈だから。


「部長! これ最初と台本が違いますよ! シンデレラって、時代劇じゃなかったんですか!?」


 茜が立ち上がって叫んだ。そりゃそうだと。話が全く違うからだ。


「悪いけど、そっちはボツで――」

「ふざけないで下さいよ! どれだけ時間が掛かると思っているんですか!? 今までの……今までの私達の苦労を何だと思ってるの! このメダボ部長!!」

「め、メダボ部長!?」


 メダボ部長の方に衣装作りをやってる部員や、大道具、小道具作りをやっている部員達から物を投げられてしまった。

 家庭科室にある大皿に小皿、中には包丁まで投げつける。


「ひー落ち着いてくれ、みんな! 現代人っぽく話せば分かる! 争いからは何も生まれないぞ!」


 教壇の下に隠れながら訴える金丸部長。

 そんな金丸部長を擁護するようにヒロミくんが皆を制止した。


「落ち着けよ、みんな! 部長の言い分を聞いてやろうぜ」

「ひ、ヒロミ……お前、意外と良い奴だったんだな」


 教壇から顔を出し、体を張って守ってくれたヒロミくんを潤んだ瞳で見る金丸部長。

 するととんでもない事をヒロミくんは言い出した。


「みんな。部長の言い分を聞いて納得しなかったら、部長の受験勉強は悟り部屋刑務所でやってもらうか、責任取って留年してもらうってのはどうだ?」

「ちょっと!? ヒロミ、お前! やっぱり悪い奴だな!!」


 笑いながら自分の座っていた席に戻るヒロミくんにみんなは一応に納得したのか、席に座って金丸部長を見た。

 金丸部長も決心を決めたのか、軽く咳払いして話し始める。


「まず演目が急遽変わったのは申し訳ない。だけど前の台本だと皆にスポットライトを当てる事が出来ないんだ」


 頭を下げる金丸部長に茜が立ち上がった。


「前置きはいいです! どうやって皆にスポットライトを当てるんですか? シンデレラってドレス作りだけでも大変なんですよ? おまけに城に似せたパネルや、小道具まで作り直しだし」


 茜から出た言葉は最もで、皆が無言で頷いている。

 私も演劇部初心者ながらそう思った。今からドレス作りやお城の背景パネルや小道具作りは大変だと。


「皆にスポットライトを当てる件だが、今年は午前午後の二部構成でいく。もちろん午前の部で演じた部員は午後の部で裏方に、午前で裏方をやってもらった部員は午後の部で演じてもらう」


 なる程。それなら全員に配役がいくと思っていたら茜が更に質問を重ねた。


「確かにそれだと全員にスポットライトが当たりますよ。でもそれだと1つの役に対して衣装を2つ用意する事になる。体型だって皆違うし、男子ならまだしも女子となると話が難しくなりますよ、部長」


 確かに男子なら身長を合わせた組み合わせをすれば何とか解決出来るが、女子は身長は合わせられても、何より年頃なので胸囲が違うと茜は暗に言いたいんだ。

 茜や女子部員が懸念する中、金丸部長は鼻息荒く宣言した。


「ふふ……茜ちゃんの懸念することは最もだ。だが、ワレに秘策あり!!」


 黒板を手のひらで叩く金丸部長。


「衣装作りは家庭科部に助っ人を頼んでもらったのだ!」

「おお!」

「これなら1人1人の衣装を作れる! しかも吹奏楽部が音楽を担当する!!」

「「おお!!」」

「極めつけは、美術部も大道具と小道具製作において助っ人に入る!!!」

「「「おお!!!」」」

「しかも映像研究部における製作テロップを流し、締めは後夜祭で舞踏会をやるぞ!!!!」


 金丸部長の宣言に皆の拍手が巻き起こった。

 みんな口々に「学校一丸で面白そう」や「後夜祭の舞踏会っ良いね」と言っている。


「どう茜ちゃん、衣装作りは出来そう? 出来る限り皆の為に助っ人を用意したから」

「まぁ、何とかしてみますよ。部長の言う、皆がスポットライトが当たる様にね」

「よろしく頼むよ、茜ちゃん。俺も出来る限り助っ人に入るから。美咲に碧ちゃんも特殊効果期待してるよ」


 頭を下げる金丸部長に茜はちょっと照れくさそうに言った。


「大丈夫ですよ、部長。若い内はノリと勢いでどうにかなりますから。そうだよね? 美咲、碧」


 茜の期待を込めた視線に美咲と私は笑顔で頷いた。


「偉大な魔法使い美咲様に掛かれば大丈夫! そうだよね、碧」

「うん。でも偉大な魔法使いは言い過ぎ」

「えー、いいじゃん別に確定した未来なんだからさ」


 嵐の予感から和やかな雰囲気に変わり、これからいよいよ配役を決める為のくじ引き大会が始まる。

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