卒業式②
「なんて顔、してんのよ」
「・・・・なにがだよ」
「やっぱり、心配なんだ?」
「別に」
「素直じゃないなぁ、顔に出ちゃってるのに」
「うっせー」
夏川は、今度は声を上げて笑った。
夏川よ、お前は俺の不幸がそんなに楽しいのか。
そんな恨み言の1つも言いたくなったが。
夏川はフッと目を細め、その目に慈愛の光を浮かべて俺を見た。
さながら、観音菩薩のように。
・・・・あれ?
こいつ、こんなキャラだった?
だいぶ、藤沢化してきてないか?
やっぱ、付き合うと似てくるもんなのか・・・・
「大丈夫。ちゃんと悠木を見ていたのは、四条だし。悠木の事が誰より大好きなのも、四条だし。悠木だって、そんなことくらい分かってる。あんたの気持ちは、ちゃんと悠木に伝わってる。いくら恋愛に疎いからって、悠木もバカじゃないんだから」
「うん」
「今まで悠木にアタックした奴ら、みんな玉砕してるんだって。悠木ね、『気になる人がいるから』って断ってるらしいよ。当たり前だよ。そんな、ポッと出の奴らに、あの悠木が簡単になびく訳、無いじゃん。」
「・・・・だな」
「誰だろうねぇ?気になる人って」
「・・・・さぁな」
「あ、もしかして、【Nさん】かなぁ?」
「知るか」
「もー、ほんと素直じゃないなぁ」
「ほっとけ」
藤沢の『亜由実!』の声に、夏川が俺の隣から離れていく。
そして、入れ替わりのように。
スッと、淡いピンクのワンピースが、俺の隣に並んだ。
「しじょー」
「ん?」
今さらながらに照れくさくて、なんだか隣を向くことができず、俺は前を向いたまま返事をする。
「変、か?」
「え?」
「これ」
思わず隣を見ると、悠木は困ったような顔をして、可愛らしいピンで止められた髪と、ヒラヒラと揺れるワンピースの裾をいじっている。
「真菜さんにやってもらったんだけど」
「髪か?」
「うん。でも」
「でも?」
「落ち着かない」
「だろうな」
俺は思わず噴き出した。
悠木があまりにも、心の底から居心地の悪そうな顔をしているもんだから。
「俺も、なんか落ち着かねぇ」
「そうか。やっぱり、変か」
納得したように小さく頷く悠木に、俺は慌てて付け加える。
「いや、変ではない。すげー、似合ってる」
「え?」
「髪型もワンピースもちゃんと似合ってるし、すげー可愛い。けど」
「けど?」
小首を傾げる悠木にドギマギしならも、俺は言った。
「いつものお前の方が、落ち着く」
「・・・・そっか」
「見慣れないから、かもな」
「うん」
「でも、本当に、すげー可愛い」
「・・・・ありがと」
頬をうっすらと染めた悠木が、小さく笑った。
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