モデル引退発表④
「じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「ああ」
藤沢に助けられたのは、これで何度目だろう?
もうほんと、藤沢には足向けて寝られねえな。
・・・・藤沢の家、どっちの方角か知らないけど。
玄関まで藤沢を見送りながら、俺はふと気になった事を口にした。
「そういえば藤沢、ハンドボール部はもう引退したのか?」
「お前なぁ・・・・」
靴を履き終えた藤沢が、呆れたように振り返る。
「最後の最後まで、俺の部活覚えなかったな」
「えっ?」
「わざとか?わざとなのか?」
「いや、そーゆー訳じゃ・・・・」
「俺は、ラグビー部だっつーのっ!もう引退したけどなっ!」
「・・・・だっけ?わりぃ」
「ま、いいけど。今日はお前の可愛い姿に免じて許してやる」
「なっ・・・・可愛いってなんだよっ!」
「腑抜けた顔とギャン泣き顔」
「藤沢っ!」
火でも出るんじゃないかと思うほど、顔が熱かった。
確かに、どっちも藤沢にバッチリ見られたけどっ!
わざわざ言葉にされると、恥ずかしさ倍増だっつーのっ!
ふざけんなっ!
と抗議の声を上げようとしたが。
「ほんとお前、瑠偉のこと、大好きなんだな」
そう言ってまっすぐに俺を見る、藤沢の慈愛に満ちた目に、恥ずかしさも怒りも消えて無くなった。
なんだよ、こいつ。
仏様かよ。
なんて目で俺を見るんだよ。
・・・・ほんと、藤沢には、敵わねぇ・・・・
「瑠偉のこと、頼んだぞ」
言いながら、藤沢は腕を伸ばして俺を力強く抱きしめる。
「あいつの事任せられるのは、お前しかいない」
一段下がった玄関に立っている藤沢の顔は、ちょうど俺の顔のすぐ横で。
為すがままに抱きしめられていると、ガチャリと鍵が開いて、悠木が顔を覗かせた。
「お邪魔しま・・・・」
俺と目が合うなり、悠木はそのままそっとドアを閉める。
「ふっ・・・・ふふふじさわっ、分かった!ほんと、今日はありがとな!」
慌てて藤沢を引きはがし、その勢いのままに玄関のドアを開けると、俺は背を向けて帰りかけている悠木の肩に手を掛けた。
「悠木っ!変な誤解すんじゃねぇってっ!」
「あれ?なんだ瑠偉、来てたのか」
後ろから聞こえる、能天気な藤沢の声。
藤沢よ・・・・ほんとに、ほんっとーに、俺はお前に心から感謝してるけど・・・・いつか一発殴っても、いいよな?
疑わし気な目で藤沢と俺を交互に見る悠木の姿に、俺はそっと拳を握りしめたのだった。
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