第56話 ありがとう

「助けてくれてありがとう」

 とつぜん街中で、ソウオンが少女から言われた。きょとんとしている。見覚えがないようだ。

「知らねェ。さっさと帰りな」

「おじちゃんが、お母さんを助けてくれたんだよ。あと、私も」

 そう言われても、身に覚えがない様子。イライラした雰囲気を隠さず、少女に詰め寄る。

「うるせェんだよ」

 ソウオンにとっては、戦い以外はどうでもいいようだ。助けてもらったと思っている少女のことなど、まるで覚えていない。

 何か言いたそうな少女を残して、ソウオンは去っていった。


 深まる秋。

 駅前の広場には、長袖の人たちがまばらにいた。

 そこに、イマジン空間が広がった。紫で塗り替えられていく世界。

 いるのは、カンサ・エイプ。

 腕組みをして立っている。そして、それを操るソウオン。やはり、腕組みをして立っていた。ふたつのかたまりが、紫色を跳ねのけたように元の色を保っている。

 そこに、同じく元の色のままのネネがやってきた。

「カンサ・マーチ!」

 当然のように戦いになる。

「お前ごときじゃ、食い足りねェな」

「聞き捨てならないわ」

 ネネが怒る。弓矢を構え、引き絞った。

 連射しても、エイプには当たらない。

「さっさと倒されろ!」

「わかったから。もう、怖くない」

「はあ?」

 ソウオンは、なんのことか分かっていない様子。

 決意を秘めた表情で、ネネはカンサ・マーチに指示を出し続ける。

「ササメ。力を貸して」

 その女性は、いまはもういない。バトルロイヤルを脱落している。それでも、二人で戦った日々は、確かにネネの力になっていた。

 連続で弓矢の攻撃をするマーチ。エイプには当たらない。

 そこへ、アラタがやってきた。

「ソウオン!」

 黒い服のミズチもやってくる。

「今度こそ」

 ソウオンは、獰猛どうもうな笑みを浮かべていた。まるで、自分が勝つビジョンがすでに見えているかのように。

「へっ。食いごたえがありそうだなァ」

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