第32話 二人の密約

 海の近く。冷たい風が吹き抜ける。

 街でばったり会う、コウスケとヒサノリ。

 すぐさまカードを見せるヒサノリを、コウスケが制する。

「まあ、落ち着いてください」

 そして、二人は近くの喫茶店へと向かった。

 中は暖かい。二人は、上着を脱いで席についた。

「どういうことだ?」

単刀直入たんとうちょくにゅうに言います。手を組みませんか?」

「なんだと?」

 コウスケは、メガネの位置を左手で直して、ニヤリと笑った。

「あの三人。アラタにミズチにネネ。最近では、ササメも、か」

「何が言いたい」

「やつらは、手を組んでいます。なら、こちらがバラバラに戦う道理どうりはない」

「そういうことか」

 ヒサノリは察したようだ。

「そのとおり。手を組みませんか? 勇伊ゆういさん」

 あくまでも体勢を崩さず、どっしりと座っているコウスケ。ヒサノリがすこし身を乗り出す。

「その前に、ひとつ条件がある」

「なんでしょうか?」

「お前の望みを教えろ」

「ぼくの望みは、ささやかな幸せ。それだけです」

 コウスケは、屈託くったくのない笑顔で言い切った。

「こちらも教えないとフェアではないな。犯罪の撲滅ぼくめつ、だ」

「へえ。それはすごい望みですね」

「あと、呼びかたは、ヒサノリでいい」

「分かりました。ヒサノリさん」


 じきに暖かい風が吹いてくる季節。

 花束を持ち、病室の前に立つミズチ。

 息をはき出し、無理に笑顔を作る。

 扉を開け、ミズチが部屋に入る。中は、ほとんど白一色。まるでイマジン空間の白バージョンだ。

「よう。元気か?」

「んー。まあまあ、かな」

 ロングヘアをすこしなびかせて、少女が言った。

「カエデ。具合いが悪いのか?」

 ミズチが駆け寄る。妹は、すこし弱っているようだ。

「なんでもないよ」

 カエデは、難病を抱えている。ミズチの眉間に力が入った。

「絶対に治る。だから、そんな顔をするのはよせ」

「悪い。聞いてた」

 病室の扉を開けて、アラタが入ってきた。

「おい。アラタ。お前」

 カエデは嬉しそうにしている。

「お兄ちゃんの友達ね。カエデ、会えて嬉しい」

「そんなんじゃない」

「ああ。友達。うん。そうだな」

 微妙な間をあけて、アラタが言った。

「お兄ちゃんのお話、聞かせてください」

 カエデに懇願されて、アラタの表情が緩む。かと思えば“うーん”と、うなり始めた。

「そう? なら、何がいいかな」

「おい。変なことを話すなよ」

「わかってるって」

「本当だろうな」

「だから、わかってるって言ってるだろ」

「仲がいいんですね」

 病室の前に立っていたネネは、もういなかった。

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