第二章 カンサロウケ

第19話 ロウケ

 みなが厚手の上着を着ている季節。

 駅前の広場で、一人で仁王立ちする女性がいた。

 そのミドルヘアの女性は、右手に持つカードを見せた。

 そして、黒い服の男性も、呼応するようにカードを見せる。

「きなさい。カンサ・ジュラ!」

「カンサ・フェブ!」

 イマジン空間が展開され、辺りが紫色に染まっていく。カンサとカンサ使いをのぞいて。紫のドーム状のものは、周りで一番背の高い建物よりも高くそびえ立った。

 カンサもイマジン空間も、普通の人には見えていない。

 ササメと戦うのは、ミズチ。

 といっても、本人が戦っているわけではない。武器を持つのは、召喚された鎧姿の人物。いや、人物といっていいのか分からない。カンサ使いによって操作された、いわば傀儡くぐつだ。

 鎧が動いて、ガシャガシャと音を立てる。

 ジュラが使うのは槍。そして、フェブは剣。リーチの差を感じさせない間合いの詰めかたで、ジュラに攻め寄るフェブ。

「名前は聞かないのか?」

「なら、お聞きしましょうか」

「オレは、楠堂くすどうミズチ。お前を倒す者だ」

 その言葉に、スレンダーな女性が反応する。

「わらわは、梛川なぎかわササメ。覚えなさい!」

 互角の戦いを見せる両者。

 そこへ、あらたなカンサ使いがやってきた。紫色に染まっていないので一目でわかる。

「誰だ、お前は」

泉上いずみかみマサト。今日の運勢は……凶か」

 携帯電話を操作していたマサト。今日の運勢をぼそりとつぶやいた。

 一時休戦とばかりに戦いをやめる、ジュラとフェブ。

「運勢?」

 ササメの問いに答えず、マサトが召喚する。

「いくぞ。カンサロウケ・オーガ」

 オーガの武器はない。盾のみ。

 マサトの右手にはカンサのカードがある。そして、左手にロウケのカードを持っていた。

「なんだ、これは」

「知らん。知らんぞ」

 ほかのカンサと比べて、鎧が薄くシャープに見える、オーガ。

「いけ」

 マサトの言葉で、あっというまに接近するオーガ。カシャンカシャンとすこし軽い音が響く。素手の一撃で、公園の東屋あずまやが吹き飛んだ。

「こいつ」

「なんてやつだ」

 スピードだけでなく、パワーも桁違いだ。とにかく強い。そう形容するしかない。

 圧倒的な強さで、ジュラとフェブが追い詰められていく。

 鳴りひびく高めの金属音。オーガの攻撃で、周りの建物が壊れた。ゴゴゴゴと地響きのような音がこだまする。

「なぜだ。盾だけの相手に」

「くっ」

 たまらず撤退する二人。

 圧勝したマサトは、あまり嬉しそうな顔ではなかった。

 カードを二枚ともしまうマサト。

 空間が戻り、色も戻っていく。壊れていたはずの建物も元に戻った。


 病院に入るミズチ。

 それを、ネネが見ていた。

 ロングヘアをあまり揺らさず、慎重に尾行するネネ。病室を特定し、ミズチのあとに続いた。

 いつものようにベッドに座る妹と、見舞いにきた兄。そこへ現れた女性。

 白が支配する病室で、三人が気まずい空気になる。

「なぜ、お前がここにいる」

「ダメだよ、お兄ちゃん。“お前”なんて言ったら。ちゃんと名前で呼ばないと」

 カエデにさとされ、ばつが悪そうにするミズチ。

「気にしてないから、いいよ、別に」

「ダメダメ。彼女に逃げられちゃうよ」

「違うぞ、カエデ」

「違うよ」

 否定するミズチとネネ。

 ところが、カエデは信用していない。疑いのまなこを二人に向けている。

「お兄ちゃん。名前、教えてよ」

「ああ。ネネだ」

「へぇー。下の名前で呼んでるんだね」

 カエデは、にやにやしている。ネネが、すこし照れたような表情をした。ミズチは表情を変えない。

「違う。苗字を忘れただけだ。なんだ?」

小村崎こむらさきネネです」

「ネネさん。兄をよろしくお願いします」

 深々と頭を下げるカエデ。なぜか、目がうるんでいた。

「だから、違う」

「そうそう。違うからね」

「もう。仲がいいんだから」

 カエデは嬉しそうだ。話が長くなる。二人はしきりに、違う、違うと連呼していた。

「いいか、このことは、やつには言うなよ」

「う、うん」

「やつって誰? 友達でしょ? 名前、教えてよ」

「いいから、もう寝ろ。帰るぞ」

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