28話 凍るスライム
屋上に現れた人物は長い髪を後ろで纏めた侍のような女性だった。凛々しい目で
その正体は
思わず彼女の名前を声に出して呼びそうになるが、なんとか声を押し殺す。
今、この状況で混乱させる訳には行かない。
コウモリ男は狙いを俺から
羽を振るって斬撃を飛ばす。
未知の斬撃は事前情報なしでの回避は困難だ。
だが、
パン。
パン。
乾いた音が夜空に響く。
【
拳銃二発のダメージなど微小なものだ。東山、コウモリ男の羽に当たった弾丸は貫通することなく弾かれる。
こうなることは
な腕に付けた【特殊装甲】で遠距離攻撃を得意とする【
だが、俺の心配をよそに、弾丸が当たったコウモリ男の羽が、徐々に透明な結晶に覆われていく。
これはーー氷か?
『なんだよ、アレ!! あんなこと出来んのか?』
「いや……。俺は知らないよ!」
羽が凍ったコウモリ男は地面にへと堕天する。
「こいつの名前は【
【ダンジョン防衛隊】の新兵器。【特殊装甲】の技術を軽量、縮小して銃弾に収める技術を開発していたらしい。
そしてその効果は絶大だと言わざるを得ない。
比較的入手しやすい【
これから【ダンジョン防衛隊】の武器として広まっていくことだろう。
そんな武器を
「さて、次はお前だ。漁夫の利で上げる成果に、果たしてどれだけの価値があるのか、常日頃から疑問を持つ私だが――今日ばかりは目を瞑ろうではないか」
「とかいいながら、ちゃっかり俺達の戦いを観察してたくせに……!」
銃口から放たれる弾丸。
それは基本的には直線にしか進まない。
【
「ち、素早いな。だが――」
『おい、危ねぇぞ!!』
目を離したすきに凍った翼を千切り、翼もろとも
攻撃に専念していた
だが――、
「ふむ。流石は【
右手に大きな鋏を身に着けていた。
【
なんて強引な武装を――。
片翼を失い
「おいおい……。【
残された片翼でただ斬撃を生み出す。
狙いも威力も定めない。
まるで玩具を失った子供の如く暴れていた。
屋上の影に隠れて斬撃から避難する。
『どうする! あいつ、ここを全部破壊するまでやめねぇぞ!』
「みたいだね」
俺の視線の先には同じように壁に隠れて斬撃から避難している
しかし、だからと言って俺達からも視線を逸らさない。
流石は現場たたき上げの隊長だ。
「
『ああ! って、ええ! そっちに行くのかよ!』
ガイが驚くのも無理はない。
俺が走り出した相手はコウモリ男ではなく
「流石は【
周囲は斬撃の嵐。
先ほどよりも回避可能な範囲が狭まった状況。
だが、それすらも
「……けど、俺の狙いはもう叶ったよ」
俺は放たれた弾丸を右腕で防ぐ。
一発目が着弾し、薄い粘膜のような液体が広まる。
二発目の着弾と同時に液体が瞬時に凍っていく。
『おい! なに当たってんだよ! いくら周りが危険だからって避ける方法はいくらでもあっただろうが!』
「いいから見てなって!」
右腕が凍った俺は身体を90度捻り
「ガイ! 二重武装だ!」
『二重武装ったって、なにが――! って、これはそういうことか!』
ガイは凍った腕に意識を集中させる。
そう。
凍っていようが使われているのは【
ならば、それを使って【二重武装】することは――可能だ。
もっとも、【
それはガイの体力を消耗する二重武装に見合わない能力のために、戦闘で使うことはないだろうと思っていた能力だ。
だが、今は違う!
俺はコウモリ男が放つ斬撃に向かい自ら身体を突っ込んだ。
その衝撃で鎧から湧き出た粘液が四方八方に散り、斬撃によって更に散る。
屋上全土を覆うように飛び散った。
漁夫の利を嫌うようなことを口にはする
すぐに俺の行動の意味に気付いて地面目掛けて二発の弾丸を放った。
『はーん。あれだな、能力って使いようなんだな』
屋上にある全てが凍っていた。
コウモリ男も含めてだ。
斬撃は止み、代わりに周囲の温度が一気に冷える。
「斬撃の嵐に凍土なんてーー酷い天気だよ」
俺達は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます