第26話
「ねぇ〜、灰音ちゃん。まだダメなの?」
「うるせェ、黙ってろ」
灰音ちゃんに手を引かれて校舎の廊下を歩く。その手はガッチリと掴まれるどころか、指と指が絡まっている──所謂「恋人繋ぎ」だ。
「みんなに誤解されちゃうよ〜?いいの?アオハルできなくなっちゃうよ」
私は別の世界の人間だから構わないけれど、灰音ちゃんはそうではない。これから先、好きな人ができたときに私の存在が邪魔をしてはいけないのだ。原作ではそんな描写はなかったけれど、実際は分からない。もしかしたら彼女だっていたかもしれないのだから。
そう考えるとなんだか胃もたれをしたようなモヤモヤが胸を掠めたけれど、灰音ちゃんがバカにしたように鼻を鳴らしたのを見てすぐに治っていた。
「別にいい。誤解したけりゃ勝手にさせとけ」
「ふふ、灰音ちゃんがいいなら別にいいけど!」
小走りで灰音ちゃんに近づいて距離を縮めると、繋がれた手をぎゅっと強く握り締める。ぴったりと体を寄せれば彼はこちらに体重をかけてくる。
「重いよ〜」
「うるせ、野放しにしとくとテメェはすぐに他の男に尻尾を振りやがるからな」
「わぁ、すごい言われ様だな」
尻尾を振った記憶はないよ、と言えば「無意識が一番タチ悪ィ」とバッサリ切り捨てられた。人見知り舐めんなよ。
「……なあ、何見せられてんの?俺ら」
「柳楽、白雪ちゃんにベタ惚れなんだね〜。ズブズブじゃん」
呆れたように──どこか羨ましそうでもあるが──二人を見守るのはクラスメイトたちだ。玄と大良の会話にそばにいた他の生徒たちも無言で頷く。
授業終了後、着替えを終えた1ーSのメンバーは灰音と未来の仲睦まじい様子を後ろから見ていた。灰音の柔らかい表情は初めて見るに等しかったし、彼の独占欲はまるで彼氏の様でもあった。
「白雪ちゃんは柳楽のこと好きなのかな?」
「先生のことが好きなんじゃないの?」
「二人の関係性って不思議だよね」
佐奈、美織、宮美がそれぞれ言葉を発する。本来であれば女子高生である彼女らにとって所謂“恋バナ”のネタになるであろう二人であるが、そんな浮いた話では片付けられない。それほどに灰音と未来が寄り添う姿は周りから見て自然なものであった。
「柳楽も黙ってたらモテるのにな」
「白雪さんも可愛いから……きっとこれからすごくモテる、と思う」
玄と一路の客観的な評価に、少し離れた位置にいるはずの灰音の肩が揺れる。それに気づいたのは友人である龍一郎のみであった。
「あの二人見てアピールできるやついんのか?その根性スゲー尊敬するわ」
龍一郎が灰音の新たな一面に溜息をついたところで大良が空気の読めない発言をする。
「だよねぇ、俺白雪ちゃん狙ってたのにな〜」
「お前死ぬ気か?」
ゾッとしたように玄が身を震わせたと同時に灰音が顔だけで勢いよく振り向いて、未来に気付かれないよう威嚇をしたのであった。
灰色ニゲラ 向日ぽど @crowny
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