第678話 Tシャツ

キーコをベッドに寝かしたのは蘭子さんではないと分かったが、じゃあ誰が犯人なんだ? 

やはり俺の予想通りミーコとエーコなのだろうか? 

そんな事を考えながらキーコを部屋まで連れて行こうとした時に、パーティションに囲まれた俺の書斎から【ちッ】って、舌打ちが聞こえた。


誰か隠れている、誰が隠れている? キーコを運ぶのを中断し、パーティションの上から中を覗くと、予想通りミーコとエーコが隠れていた・・・しかも、ミーコのヤツは片手にスマホを持って、ムービーモードで俺の行動を記録していやがる。


問答無用でゲンコツを落としても良かったが、取りあえずその行動の理由を聞いてみると、トンデモナイ事実が判明した。

どうやら元凶はユリと桜子で、奴ら二人から【紋次郎君の弱味をスマホで撮ってくれば、お小遣こづかいをあげる】と言われて、協力したそうだ・・・はぁ~~あいつ等一体何を考えている?


俺はキーコを後回しにすると、ミーコとエーコを連れて居間で騒いでいるユリと桜子の元へ行くと当主が座るいつもの場所へ腰を下ろした。


「あれ、紋次郎君? 先に眠るって言ったのに何しに戻って来たの? 桃代さんが居なくて寂しいの?」

「ユリ、この状況を見て頭の良いおまえなら分かっているはずだ。ほら見てみろ、桜子は【バレた】って顔をして、逃げようとしてるぜ」


「あ~~ズルい、逃げないでよ桜子さん。あなたが【桃代姉さんが居ないこの隙に、紋次郎君の弱味を握りましょう】ってそそのかしたんでしょう」

「ユリと桜子は俺の前で正座。いいか、俺を罠にめるにしても、キーコを犠牲にするようなやり方は人としてどうなんだ? もしもこの事実を桃代が知れば、アイツは怒るぜ。手が付けられない怒り方をするぜ」


「ひ~~ッ! それだけは勘弁してください。桃代姉さんにバレると、わたしはきっとクビです」

「げ~~ッ! それじゃあ、わたしもクビじゃない。お願いします紋次郎君、桃代さんにだけは内緒にしてください」


「ふふふ、いいだろう。ただし、交換条件として時間が無い俺の代わりに、キーコが元に戻るまで議長代理の代理を続けてもらうぜ。さて次はミーコとエーコ、おまえ達だ。小遣こづかい欲しさに随分とくだらない事をしたな、あきれたぜ。この事をキーコが知れば軽蔑されるぜ」

「だって、眠ったお姫様を起こすのは王子様のキスだって、桃代さんに教えてもらったから、やるしかないって思ったんだよ」


「桃代のヤツ、余計な知識を教えやがって・・・いいかミーコ、それは物語の中の出来事で現実ではない。物語の登場人物に憧れるのはいいけど、物語の中の人物になるな。だいたい俺が王子様って無理があるだろう。それで、エーコの方は何だ? 本当に小遣こづかい欲しさか?」

「そうだけど・・・だって、キーコちゃんにパジャマを買ってあげたかったんだもん」


「パジャマ? えっ? だってキーコは可愛いパジャマを着てたぜ。アレだとマズいのか?」

「アレはわたしのパジャマなの。あのね、チェストからキーコちゃんのパジャマを出そうとしたら見つからなくて、パジャマをしまってそうな所にはキーコちゃんの可愛い下着があって、その隣にはヨレヨレの大きなシャツしかなかったの。だから、わたしのパジャマを着せたの。しかもそのシャツ、背中に大きくて気持ちの悪い絵がプリントされた、センスの欠片かけらもないシャツだったのよ」


「あれ? おかしいな、キーコがパジャマを持ってないはずないのに・・・エーコはちゃんと探したのか?」

「うん、探したよ。だけど、気味の悪いシャツがいっぱいあってさわりたくないから、探しきれてなのかな?」


「なぁ、そのシャツって、そんなに気味が悪いのか? キーコがそんなセンスのないシャツを買うとは思えないんだけど・・・」

「それはそうなんだけど・・・じゃあ、ちょっと待っててね、今そのシャツを2~3枚持って来るわ」


そうだったんだ。自分が遊ぶ為じゃなくてキーコの為だったんだ。エーコ、中々良いヤツ。でもキーコって、そんなにセンスが悪かったっけ?

少し待つとエーコは嫌そうな顔で三枚のシャツ持って来た・・・あれ? あのシャツには見覚えがある。


アレは桃代が勝手に捨てたと思っていた、俺のお気に入りだったTシャツだ。

お気に入りだったので、さすがに桃代に抗議をしたが、物凄い眼つきで睨まれて、逆に【真貝の当主が穴の開いたシャツを着て、外を出歩くな】って、ドスのいた声で怒られた思い出のTシャツだ。

なんでアレがキーコのチェストにあるのか知らないが、偉いぞキーコ、懐かしい相棒に再会した気分だ。


「ほら、このシャツを見てくだいよ。今はイモムシだって気づきましたけど、わたしがチェストで見つけた時はウジ虫がプリントされたシャツかと思いましたよ」

「うわ~~~、そのシャツはない無いわ。気持ちの悪い絵がプリントされてるだけでも嫌なのに、ヨレヨレの伸び伸びじゃない。確かに下着の上から大きなシャツだけを着ると男の人には受けるけど、そのシャツだと引かれるわね」


「そうですよね、ユリさんもそう思いますよね。次にコレなんですけど、プリントが色褪せてなんだか分からないんですけど、ユリさんならわかります?」

「う~~ん、何だろう? 黄土おうどいろした気色の悪い絵だけど、どこかの国の邪神像かしら? ねぇ、桜子さんなら何か分かる?」


「い、いえ、わたしもサッパリ分からないです。でも、いいじゃないですキーコちゃんが気にいってるのなら」

「そうは言いますけどね桜子さん、三枚目のコレを見てくだいよ。色褪せて分かり辛いですけど、これはどう見てもゴキブリの写真ですよ。こんなの着て目を覚ましたらキッチンの隅に居そう」


エーコちゃんもユリさんもダメ、それ以上そのシャツをけなさないで、それは紋次郎君のお気に入りだったTシャツたち。

最初のTシャツは、イモムシでもウジ虫でもない、カブトムシの幼虫の写真なの。

二枚目のTシャツは、黄土おうどいろした気色の悪い邪神像ではなくて、カブトムシのサナギなの。

そして最後、それは紋次郎君一番のお気に入りで、ゴキブリではなくてカブトムシのメスの成虫なの。

あまりにも気色が悪くて売れ残り、三枚で千円になってたから紋次郎君が買ってわたしに自慢した、お気に入りのカブトムシ三部作のTシャツなの。


オスがプリントされたTシャツは奇跡的に売れたらしく残念そうにしてたけど、メスとサナギ、幼虫がプリントされたTシャツは誰も見向きをしなかったみたい。だって気持ちが悪いもん。

しかも、わたしがアレを着た紋次郎君を見た時は、背中に大きな虫が止まってるように見えて、そのまま飛んで連れ去られるかと思ったわ。


当然だけど、高所恐怖症の紋次郎君が空飛ぶ虫に連れ去られたら、途中でショック死する気もしたわ。


だから、なんでも屋で働いていた時に【気色の悪いTシャツ】って言ったの。

そうしたら三日間口をいてくれなかった、思い出したくない思い出のTシャツなの。だから、これ以上悪く言わないで!


紋次郎君は確かにバカでセンスもゼロだけど、カブトムシの生態にだけは詳しいカブトムシバカなの。

だから、そのカブトムシの写真がプリントされたTシャツを馬鹿にすると、口をいてくれなくなる。


ほら、それが証拠に、紋次郎君のコメカミに血管が浮き出て、口がとんがらがってるでしょう。

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