竜騎士の願い

竜騎士の願い

作者 戦ノ白夜

https://kakuyomu.jp/works/16816700426399522719



 ユノガンド領主である竜人グレーザーが友人の盲目の娘ソフィアを元気づけようと海へ連れていき、互いの思いやりで双方の障害を乗り越えて結ばれる物語。



 竜騎士の願いとはどんなものかしらん。それは「読んでのお楽しみ」である。


 高校生がこういうものを書くのか。

 実に素晴らしい。まさにメロドラマ。

 グレーザー、ソフィアは自分ではクリアできない障害を抱えていて、アーノルドがきっかけを与えてくれた。クリアすることで互いが成長し、前に進むことで結ばれる。

 ファンタジー小説に読み慣れていないと、入りづらいかもしれない。読者層は作者と同年齢以上を想定しているのかしらん。中高生くらいなら問題ないだろう。小学生高学年でもいけるはず。

 

 疑問符や感嘆符のあとはひとマス空ける云々は目をつむる。


 主人公は竜人であり、蒼月騎士団長、ユノガンド領主グレーザーの三人称で書かれた文体。また、アーノルドの盲目の娘、ソフィア側からも書かれている。

 グレーザーと名乗れば竜人だと知られて怖がられると危惧したため、彼は彼女の前ではエルダインと故郷の名を使っている。遊戯王カードの哨艇エルダインとは関係ない。

 中世ヨーロッパを舞台背景になぞらえたRPGでよくみかける世界観の異世界ファンタジーである。

 二字熟語を多用し、また人物描写等もこだわって表現されている。


「岩のように角張った輪郭、湾曲した二本の角。頑丈そうな顎、そこから覗く牙、黒光りする鱗と、縦長の瞳孔を囲う青い瞳────人の目を惹き付けながらも、どこか直視を避けさせる、雄々しき神秘。それは完全に竜頭であった」とある。

 体格は具体的に言及はされていないので、人間と同格と推測するけれども、竜人の体臭や口臭はどうなのだろう。人間と同じものを食しているのだろうか。「低くて重厚な声」とあるが、竜の突き出たような口で人と同じような声を発しているのだろうか。

 世間知らずで盲目のソフィアは「雰囲気から相手の心情を察することに長けて」おり、「その人が纏う気の微妙な変化が分かる」なら、家族とは異なる、人ならざるなにかを感じると思うのだけれども、その様は見られない。他人とのふれあいが少ないため、比較する感覚も長けていないのかもしれない。


 蒼月騎士団長、竜騎士グレーザーは、武功によって昇進した結果ユノガンドの領主となった。ユノガンドの隣、海を背にした長閑な田園地帯カラデアに住む「古くからの名門」エディンガー家のアーノルドとは「親交があり、良い友人」である。

 アーノルドはグレーザーから「快活な壮年紳士」と表現されている。

 壮年とは人の一生のうち、最も元気のさかんな年ごろ。

 厚生労働省では、二十五から四十四歳。内閣府では三十五~四十四歳。市町村では、四十から六十四歳を壮年期としている。

 アーノルドには、騎士としてグレーザーの指揮下にある息子たちと盲目のソフィア十六歳がいる。三人兄妹と仮定し、歳も大きく離れていないとすると、アーノルドの年齢は四十代か五十代と推定される。

 グレーザーは竜人だから、人間のような年齢では推し量れないと思われる。


 アーノルドの娘、ソフィアに会ってくれと言われて訪ねるグレーザー。彼女の、海に行ってみたい、という申し出を引き受け、馬に乗って海岸につれていく。「見えるものだけが、全てではない。触れねば分からぬものも、あるだろう」と、波打ち際へと誘う。

「エルダインさま。私、海が好きです」「きっと、綺麗な場所なのでしょうね。見てみたかったです」彼女の本音がグレーザーの心に「棘のように深々と突き刺さって抜けな」くなっていく。

 その後も竜人であることをふせて会い、別れ際にみせる寂しそうな顔を見るに絶えず、「劣等感と罪の意識」にさいなまれる。「竜人の力を使うならば」「彼女の暗闇に、光と色を与えて」あげることができる。だが、目が見えるようになれば、竜人であることを隠していたことを彼女に知られてしまい、「傍にいられなくなる」と思い悩んでいく。

 アーノルドから、「数日前から、ソフィアが臥せっている。卿のことを気にしていたようなので、声を聞かせてやって頂けないだろうか」と手紙が届く。自分のせいで思い悩んでしまったのではないかと考えたグレーザーは意を決して、急いで駆けつける。

 竜人の力で彼女の目を治すも、「美しいものを見て貰いたくて、治したのだ。決して俺の姿を貴女の瞳に映したくて治した訳ではない。……見ないでくれ、頼むから」と立ち去ろうとする。

 引き止めるソフィアは、かつて縁談話があった折、「目が見えなくて身体も弱いような女の面倒は見られないって、一蹴され」母親からは「あなたのことを好きになって、一緒に生きていってくれる人はいるって……だから、信じて待ちなさい」父親からは「お前の代わりに必ず見つけてくるから、待っていなさい」といわれたという。

 このとき、「アーノルドはあの日、初めからそのつもりで」ソフィアに会わせたのかもしれないとグレーザーは思い、「竜人だって人間だって、同じですよ。両方初めて見るんですから」「醜いとは、思いません。それに、あのとき仰ったじゃないですか……見えるものだけが全てではない、と」彼女の言葉をきいて、竜人である「彼という存在が、許された」のである。


 ここで気になるのは、アーノルドがどこまで考えていたか。

 娘の縁談が破談となったのを知ったアーノルドは、父親として不憫に思い、雨の降ったあの日、グレーザーに声をかけて娘に引き合わせたのは、「良い人だっただろう、エルダインは」といいながら、娘にグレーザーが気に入るかどうかの品定めをさせるためだったかもしれない。

 当然、グレーザーについて調べていただろう。古の竜の血を引く竜人には古代竜の呪力がつかえる、という噂を耳にしていてもおかしくない。グレーザーが娘の目を治せるかも、と一度たりとも考えなかったなんてことはあるだろうか。

 噂は噂だが本当なら、父親としては娘のためなら一肌も二肌も脱ぐことを惜しむはずがない。

 海を見に行った後、グレーザーが訪ねなくなり、「数日前から、ソフィアが臥せっている。卿のことを気にしていたようなので、声を聞かせてやって頂けないだろうか」という手紙を送ったのも来訪してもらうためだ。でなければ「卿のことを気にしていたようなので」とわざわざ書いたりしないだろう。

 事実、娘はすっかり弱り果ててしまっていた。

 そんな娘の姿を見ては哀れみ、竜の力をつかってくれるかもしれないと僅かでも考えたのでは……と無粋な邪推をしてみる。

 さすがにそこまでは考えていなかっただろう。ただ、盲目の娘を不憫に思って、父としてできることをしたまでだろう。

 

 竜人の力であっけなくソフィアの目が治っていて、どこで竜人の力を使ったのかはわからない。「深く息を吸う。決闘の前のように、吐き出す息と共に心を空にする。竜の顔から表情が消えた。願うのは、ただ一心。己の身体も、心も、犠牲にする覚悟はできている」とあるので、ここの動作が竜人としての能力を発揮しているのだろうか。心を空にして一心に願うことで力が使えるのかもしれない。

 ただし、その代償は己の身。

 片目を失うという代償から、竜人の力を使ったことがわかる。

 最後にそのことが明かされるのがよかった。


 果たして二人は結婚したのかしらん。

 

 

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