地球シミュレーション

地球シミュレーション

作者 @syusyu101

https://kakuyomu.jp/works/16816700426050399780

 

 ライブ配信しながらマルチエンディングゲーム『地球シミュレーション』を一週間ぶっ通しで全エンディング目指す中、ゲーム作品のNPCは記憶を継続しつつ、異なるエンディングを体験させられていく物語。





 SF作品とわかるようなタイトル。未来をシミュレーションしてどうしたら回避できるのかを描くのか、過去を改ざんしようとするのか、どのような話なのかは「読んでのお楽しみ」である。

 



 ある意味、衝撃的な作品といえる。

 まさにSF的。




 清楚派ヴァーチャルアイドル■■■■■ちゃーんが『地球シミュレーション』ゲームプレイをライブ配信し、その様子を見ている視聴者からコメントと YouTubeの投げ銭機能スーパーチャットで金額をもらっている。

 本作の主人公は、『地球シミュレーション』のゲームNPCキャラが一人称、前半が「俺」、後半の一部「私」で書かれている。


 映画『トイ・ストーリー』や『トゥルーマン・ショー』を彷彿させるような作品だ。


 火星へ飛び立つロケット「アウストラロピテクス」の第一期パイロットとして選ばれた彼は火星に向かって飛び立つことを夢見ている。なのに、さまざまな異なるエンディングを迎える度に、主人公は戸惑い、疲弊し、やがて死にたいと思うようになっていく。ようやく死ねると思うシチュエーションが訪れても、その手前で「エンド」が現れ、新たなゲーム、つまり彼にとっては一生がはじまるのだ。

 自分で選択しているようで、ゲームプレイヤーが選択した生き方をさせられ、毎回違う結末を迎える。こんなはずではなかったと思う前に、またリセットして初めからやり直し。

 ある意味、主人公は実験動物のような存在だ。

 自分の人生を生きている気がしない。玩具にされている。

 ゲームなのでそのとおりなのだけれども、他人プレイヤーにいいようにこき使われ、振り回され、されるがままの姿が、本作の主人公には見て取れる。


 二百回のエンディングを迎え、「アウストラロピテクス」を破壊することを決意する主人公。シナリオに「アウストラロピテクス」が現れると、なにかしらのエンディングを迎えると気づいたのだ。

 火星に向けて飛び立つロケットを墜落させ、破壊する決断をした。ゲームの世界で生きている彼にとって、人類がどれだけの時間と予算と叡智を結集してここまで着たのかをよく知っている。それを自ら破壊する苦渋の決断を下したにも関わらず、それすらも無数にあるエンディングの一つ『トゥルー・エンド 大革命』だったと知り、愕然となる。

 このエンディングを迎える際、主人公が行動しているとき「俺」ではなく「私」となっているのは、ゲームをプレイしている、清楚派ヴァーチャルアイドル■■■■■ちゃーんが選択し、操作しているからだろう。


 NPCである主人公は、「お前たち……一体、何者なんだ……?」と問いかける。

 視聴者はコメントを寄せているが、普通ゲームキャラが話しかけてきたら驚かないのだろうか。おそらく、トゥルーエンディングを迎えたときには話しかけてくるシナリオなのだろう、と思ってみているのかもしれない。

 NPCと呼ばれたことで、戸惑ってしまう。

 いままで人間だと思ってきたのに、自分がゲームキャラだと知ったら、自分が何者なのかと自問するだろう。

 どこまで考えたところで答えはなく、ゲームが終わると同時に本作も終りを迎える。

 

 読後は、なんだか可愛そうに思えてきた。

 あんまりゲームしないけれども、誰かが作ったシナリオの中で毎回いろんなことを体験させられ、しかも自分の本意ではなく他人の手のひらで操られていたという姿を読んでいると、わたしたちの人生にも他人の言われるままに操られている瞬間が潜んでいるのではないか、と考えてしまう。


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