第2話預言者ムハンマド
メッカの繁栄の陰で蔓延る汚職、権力者の腐敗、そして人々を蝕む拝金主義。異邦の地で生きるムハンマドの胸には、次第にアラブ社会の深い闇に対する強い嫌悪感が募っていった。かつて戦場で数多の命を奪い、奪われる光景を目の当たりにしてきた彼にとって、精神的な荒廃は何よりも耐え難いものだったのかもしれない。
四十歳を迎えたムハンマドは、メッカの喧騒を離れ、静寂に包まれた郊外へと身を置いた。厳しい瞑想と鍛錬の日々を送る中で、彼の精神は極限まで研ぎ澄まされていった。そしてある日、彼はこれまで経験したことのない、鮮烈な感覚に襲われる。まるで世界と直接繋がり、他者の思考が流れ込んでくるような、不思議な体験だった。それは、現代の科学では未だ解明されていない、精神と精神、あるいは脳の深奥に眠る神経回路が共鳴し合う現象――テレパシーだった。
驚くべきことに、ムハンマドはそのテレパシーを通して、遥か昔に生きたブッダやキリストといった聖人たちと意識を交わすことができた。彼らの言葉は、時代の壁を超えてムハンマドの魂に深く響き、混迷する世界を照らす灯火となる。そして、幾度もの対話の中で、ムハンマドは自身の内なる声、そして宇宙の根源にある唯一の存在、「アッラー」の言葉を直接受け止めるようになった。「あなたは、私(アッラー)の言葉を人々に伝える預言者である」――その啓示は、彼の存在意義を根底から揺さぶり、新たな使命感を芽生えさせた。
唯一神アッラーからの啓示を受け、「預言者」であることを自覚したムハンマドの胸には、もはや迷いはなかった。腐敗しきったアラブ世界を浄化し、真の道を示すことこそ、彼の天命なのだ。静かに、しかし確実に、彼の心には聖なる炎が燃え上がり始めていた。それは、旧き秩序を打ち破り、新たな時代を切り開くための、「聖なる戦い(ジハード)」の狼煙となるだろう。
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