ムハンマド ~スンニとシーア~
ponzi
第1話ムハンマドとスンニ
古の時代、東西の文化が交錯する地で、一人の異邦の傭兵がその生涯を大きく変える出会いを果たした。彼の名はロベルト。戦場を渡り歩き、数多の修羅場を潜り抜けてきた屈強な男だったが、故郷を遠く離れ、アラビアの灼熱の太陽の下、メッカの王族に捕らえられていた。処刑の寸前、彼の前に一人の女性が現れる。
「この者だけは、どうかお見逃しくださいませ」
凛とした声の主は、スンニ。メッカを統べる王の四番目の妃だった。アラブの血脈を受け継ぐ彼女の瞳には、知性と慈悲の色が宿っている。
「わたくしはスンニ。王様の妃の一人でございます。お腹は空いていらっしゃいませんか? あなたのお名前は?」
警戒の色を隠さないロベルトに、スンニは優しく問いかけた。
「ロベルトだ。なぜ、俺を助けた?」
「理由はございません。ただ、あなたの瞳を見た時、決して殺してはならないお方だと感じたのです。それは、神の思し召しなのかもしれません」
ロベルトは、スンニの言葉に訝しげな視線を送る。
「いずれ、後悔することになるだろう」
スンニは、かすかに微笑んだ。
「年齢は? わたくしは三十二になります」
「俺は二十六だ」
「ロベ…、ルト、とおっしゃいましたか。少々、呼びにくいお名前ですね。でしたら、今日からあなたのお名前はムハンマドといたしましょう。いかがですか?」
ロベルトは、その響きに一瞬戸惑いながらも、どこか受け入れられるものを感じた。
「悪くないな。もし俺が生きてここにいると知れたら、故郷の傭兵仲間たちが黙っていないだろうからな」
その時、王の家臣がスンニの元へ急ぎ足でやってきた。
「スンニ様、大公様がお呼びでございます。『捕らえた異邦の男をどうするつもりか』と」
スンニは、落ち着いた様子で家臣に答えた。
「王様には、ムハンマドを今後、兵士の一員としてお仕えさせたいとお伝えください。彼の名はムハンマドです」
そして、家臣に向き直り、
「ムハンマドを兵士たちの宿舎へ案内して差し上げてください。彼はきっと、王様のお役に立てる男です」
家臣は恭しく頭を下げた。
「かしこまりました、スンニ様」
家臣はロベルトに冷たい視線を向け、
「おい、ムハンマド! わしが兵士たちの宿舎へ案内してやる。付いて来い!」
スンニは、ロベルトに柔らかな眼差しを向けた。
「では、また後ほど。あなたの様子を見に参ります、ムハンマド」
ロベルトは、スンニの言葉に素直に頷いた。
「ああ」
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