第5章「ガイア城決戦」
第46話「ガイア城決戦」
「……」
アルマス、ドロシー、ローダン、ダリアの4人。そしてアルマス達に賛同した多くのギルドの数々。彼らは遥か遠くにそびえ立つ背の高い城を眺める。イワーノフが拠点とするガイア城だ。
元々展望台として利用されていたようだが、近辺の住民が地方へ移り、人の気配は消え失せてしまった。そこに目を付けたイワーノフが、自身の理想郷の中心地として利用した。
「ここまで長かったような、短かったような……」
「でも、今まで死んでいったみんなの仇を、ようやく取れるかもしれないのよ」
「うん、絶対に勝ちたい……」
アルマス達は今日に至るまでの激闘の日々を回想する。多くの同胞がイワーノフとその一味の野望により、犠牲となっていった。積み上げられた多くの屍が道を形成し、今日という日へ導いた。過去最高に壮絶な戦いが待ち受けているであろう地へ、一同は足を向ける。
「よし、行こう」
「私達も行くわ」
「え?」
後方の茂みの奥から聞こえた声に、アルマス達は耳を傾けた。
「そりゃあ何だ?」
ゾルドがラセフの背後から忍び寄り、手に握られたペンダントを眺める。ラセフが常に首にかけていた物だ。大事そうに抱える仕草から、宝物に愛着を寄せるという悪役らしからぬ素振りが見られたことに、ゾルドは可笑しさを感じたようだった。
「お前には関係ない」
「チッ、せっかく仲良くしてやろうと思って話しかけたってのに。それより、あんな派手に行動に移して、どういうつもりだ?」
「イワーノフ様にとって一番の脅威になりうる障害を、ここで排除しておきたいだけだ。許可も頂いている」
昨日、ラセフは透井に向けて手紙を送った。人質として拐った香李を餌に、自分の弟であろう透井を誘き寄せた。
イワーノフの野望にとって最も障害となる存在は、アルマス達を除いてユキテル以外にない。弟の戦闘力と魔法の才は、自分を嫉妬心に押し潰すだけに留まらず、イワーノフの漆黒の闇を晴らすにも十分だった。
「不安の芽は早めに摘んでおくってか。なかなか慎重な思考じゃねぇか」
「それと、あの女はどうした」
「安心しな。しっかり見張ってるぜ」
ゾルドは背中から生えた金属製の触手を動かし、ラセフの前に巨大な檻を吊るして見せつける。檻の中には香李が座っており、憎しみのこもった眼差しを崩さず、じっと眉をひそめている。
「へっ、さっきから仏頂面して黙ってやがる。可愛くねぇなぁ」
「……」
「ユキテルの記憶の結晶はどうだ」
「ああ、それも大事に保管してあるぜ。心配すんなっての」
ゾルドは二本の触手を伸ばし、先端の鉤爪で挟み込んだ緑色の水晶を見せる。淡い光を放つ水晶は、まるで内部に神秘的な命を宿しているようだった。ゾルドはそれを玩具に触れるような動きで、表面を鉤爪で撫でる。
「おっ、そろそろあいつらが来る頃だな。俺らが押さえておくから。頼んだぜ、最後の砦さんよぉ」
ゾルドは香李が閉じ込められた檻を抱えながら、下方の階へと下っていた。彼が去って誰もいなくなった城の最上階で、ラセフは紫色のペンダントを強く握り締めた。憎しみと、嫉妬と、また別の懐かしい感情を胸に抱きながら。
「くっ、多い……」
城門付近は多くのゲースティーと化したモンスターで溢れかえっていた。イワーノフがアルマス達の進行にいち早く気付き、守備を固めていたようだ。勇者達は各々再生されないように、コアの破壊を試みる。
「みんなー! 進めー!」
「へっ、今の我らからすれば、ベネジクトの毒液なんぞただの唾でござる!」
「気を緩めるなよ! 卓夫!」
アルマスと共に刀を振るう夢達。ガイア城に攻め込もうとする主人公達と合流し、共にイワーノフを討ち取ろうと手を組んだ。ラスボスの首が目前まで迫っており、この世界が最終回を迎えようとしている空気を、夢は傷だらけになりながら察知していた。
「夢さん! 大丈夫か!」
「こんなの……ちっとも……」
ガッ!!!
「痛くなんかないわ!!!!!」
夢はヤケドシソードの火力を最大まで上げ、サイレントウルフをはね除けた。数多の命の危機を乗り越えた彼女にとって、通常モンスターはまさしく雑魚同然だった。香李を救い、アルマス達と戦い、イワーノフの野望を食い止める。その目標のためにひたすら刀を振り回した。
「流石だ」
夢の成長に感心しながら、透井は高速で2,3匹のバルタロスのコアを破壊した。彼女が自らの命を燃やし、華麗に駆け回る姿を眺めているだけで、自分も勇気を与えられているような気分に陥る。初めて味わった恋という感情が、透井の力を増幅させる。
「ハルさん! 我がお守りしまする! 前に出すぎないようにしてほしいでござる!」
「ダメ! 早く行かないと香李が……」
卓夫の攻撃の背後に隠れながら、城の正面玄関を睨み付けるハル。普段は現実世界に留まってジゲン・コジアケールの操作を担当していた彼女だが、娘の命の危機に大人しくしていられるはずもなく、シュバルツ王国大戦記の世界まで足を運んだ。ゴルフクラブ片手に戦場を駆け抜ける。
「ぬおっ!?」
背後からバルタロスが突っ込んできており、卓夫とハルは慌てて横に倒れて回避した。卓夫はハルを庇いながら戦っているが、モンスターが大群を作って襲ってくるこの状況下では、守りきるのに限界があった。
「痛っ!」
運悪く回避した先にサイレントウルフが佇んでおり、鋭い鉤爪でハルの右腕を切り裂いた。セーターもろとも皮膚が破れ、少量の赤い血液が周りに飛び散る。
「ハルさん! って、ぬぉぉぉ!!!」
ハルの救出に向かおうとした卓夫だが、再び突進してきたバルタロスに行く手を阻まれる。自分の身を守ることに手一杯になってしまい、仲間に気を配れない。夢や透井も同じくモンスターの相手をしており、今ハルを庇える者は誰一人揃っていなかった。
「ハルさん!!!」
ザッ
……たった一人を除いて。
「伊織君!?」
「よかった……間に合った……」
伊織がハルの目の前に立ち塞がり、サイレントウルフの牙を左腕に食い込ませている。凄まじい咬合力に耐えながら、ハルを背後に隠した。
「ど、どうして……」
「僕はあいつの父だ。そして、君の妻だ。家族を守るのは、父親の役目だろ」
ガッ
ハルが恐怖のあまり地面に落としたゴルフクラブを拾い、伊織はサイレントウルフの顔面を叩き潰した。牙もろとも粉々になり、コアも破壊されてサイレントウルフは消滅した。
「あ、ありがとう……///」
「ふふっ」
噛み付かれた痕の痛みを諸ともせず、伊織はハルに微笑みかける。唐突に現れた救世主の勇姿に、ハルは赤面を隠せないでいた。
「でも、機械の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。僕の信頼できる仲間に託してあるからさ」
「律樹、敵はやって来ないわね?」
「大丈夫だ。それより機械の方をしっかり見てろ、光」
現実世界からジゲンホールを通し、顔を覗かせる白髪の女性。そして、ジゲンホールの前に佇み、敵が近付いてこないか警戒している黒髪の男性。伊織から事情を聞き、助っ人として駆けつけたようだった。
彼らは伊織と同じバンドのメンバーである。どうしてもハルのそばにいて支えてやりたいという伊織の我が儘を聞き入れ、機械の操作と見張りを任された。ジゲンホールを通ってモンスターが現実世界に入り込んでこないか、武器を構えながら監視しているのだ。
「
「当然ですよ、仲間なんですから。それに、伊織の頼みとあれば断れませんし」
ギター担当の
しかし、自分達にできることはジゲンホールを監視することだけ。今は自分の成すべきことだけに集中だ。
「頼んだわよ……伊織……みんな……」
いよいよ最後の戦いが、幕を開ける……。
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