第40話

〜シャフマ王宮 近郊〜


「ギャハハ!!!そうさ!!壊れろ!壊れてしまえ!!」

アレストが腕を広げて天を仰ぎ、破顔する。

ルイスたちの前で見慣れたシャフマ王宮が崩れ落ちる。

「父上たちはしんだのか……?」

戦闘を終えたベノワットの口からそう零れる。完全に無意識だったのだろう。はっとした顔をし、頭を横に振る。

「ころさないさ!!そんなことしたらなんの意味もないだろう!?」

こちらを振り返ったアレストの瞳孔が開いている。興奮しているのだ。

「俺が大陸の真ん中の断頭台で自害するところを見せる。そうしないと『砂時計の存在を否定』できない。そうだろう!?」

だからペルピシに呼んだのさ。口角を上げて言う。

「軍師サン。最終決戦は勝たなくていいぜ」

「勝たなくていい?」

「そうさ。俺がアイツらの前でしねばいい。そうすれば呪いが消える。……重要なのは見せつけることさ。砂時計の呪いは消えたと見せつけるのさ」

そのために、一国の王子が命を経つ。

「う〜ん、痺れる話じゃないか。ギャハハ!!ギャハハ!!!さぁ、最終段階だぜ!!あんたらもあいつらが憎いだろう?」

「……」

皆の顔は暗い。

「どうしたんだ?」

「どうしたって……あんた、しにに行くんでしょう?」

アンジェが言う。

「なんだよ今更。剣の話をあの盗賊と踊り子を兼業していたヤツに聞いた時に言われたじゃないか。しぬって」

「それは、そうだが」

ベノワットの目が泳ぐ。

「剣が手に入ったと思うと、ですね」

リヒターの声が小さい。

「……」

メルヴィルは黙って自分の手を見つめている。

「メ…も、悲しんでくれるのか?嬉しいねェ……」

「……っ」

「なんだよその目は?ふふふ。あ、もう怒っていないぜ。そこのリ…はどう思っているか知らないが、俺はあんたが敵側に捕まったことで結果的に剣を手に入れることになったから良いと思っているぜ。ま、もう勝手な行動は謹んで俺の隣で大人しくし」

「アレスト……!」

メルヴィルが、目にいっぱい涙をためていた。

「……あんた、まさか剣を手に入れたことを悔やんでいるのか?自分があのとき父親の剣を奪わなかったら……なんて思っているのか?」

アレストがメルヴィルに近づく。涙を見せたくないのか、メルヴィルは俯いている。声が普段よりも低い。まさか、メルヴィルに手を上げようと……。

(あ!)

アレストがメルヴィルの肩を抱いた。

「……分かるさ。俺も、俺があんただったら……きっと剣を渡したくない。あんた、知っていたんじゃないか?本当は……剣のことを全部」

「知らない!!俺は、何も……!」

「ふふふ、あんたの御先祖サンはその刃を俺の先祖に向けたというのに、あんたはしまい込むのか」

「違う!俺は、お前にしんでほしくなかったわけではない!」

メルヴィルがアレストの肩を掴む。

「……!」

「俺は、お前が、人間としてしなないのが……砂と消えるというのが、許せなかっただけだ!!お前は俺の剣で!人間としてころしてやるのに!」

「あんた……」

「お前がしぬのは賛成だ!!だが、しに方が……お前らしくない!!お前は汚く!血を吐いて!!気狂いのように笑いながらしぬんだ!!!」

「ははは、なんだよそれ」

アレストが乾いた笑い声を上げる。初めて聞いた。

「俺に綺麗にしんで欲しくなかったから剣のことを黙っていた、なんて!!かなり自分勝手じゃないか?さすが騎士団を抜け出した挙句敵に捕まる男だぜ!!ギャハハ!!ギャハハ!!」

「チッ……うるさい。黙れ……」

「……じゃあ俺は汚くしぬとしようか」

アレストが右手首の腕輪に触れる。

「なっ!やめろ!!」

腕輪を外そうとカチャカチャ音を立てるアレストの腕をメルヴィルが掴む。アレストが腕輪から手を離しておどけた笑みを見せる。

「ギャハハ!!あんた、覚えていないのか!?前に盗賊にこれを盗られたとき、めちゃくちゃに焦って俺より速く走っていたことを!」

「ぐっ……」

「本当はしんでほしくないです、じゃないのか?ふふふ」

「違っ……大洪水が起きたら大陸が沈むから!」

「はいはい、そうだねェ。剣士クンの言う通りだ」

「くっ、ボンクラ!!」

メルヴィルがアレストの腕を引っ張って転ばせる。

「いてっ……な、なんだよ」

「シャフマを傾けたことを」

「……」

「王子として国を滅ぼすことを」

「……」

「後悔、していないんだな」

「もちろんさ」

「なら、しぬことも。後悔していないのか」

「……そうさ」

アレストが砂の上に仰向けになる。

「砂時計が壊れる時はあと一度でいい。あんたが時計を入れられそうになって、また思った。俺が砂時計を道ずれにする。そうすればもう被害者はでない。呪いは消えるのさ」

何度も言っているが。と、空を見る。


ベノワットがアレストの隣に座る。リヒターとアンジェも。

「俺は君について行く。シャフマ王国騎士団は、アレスト王子のためにいる」

「私も応援するわ。それで被害者がもう増えないのならね!」

「ぼっちゃん、覚悟は受け取りました。行きましょう。決着をつけに」


「アレスト」

ルイスが王宮を背にしてアレストの前に立つ。アレストが体を起こし、座る。

「私も、全力でたたかう。一緒に行こう」

1000年の呪いを解きに。シャフマを終わらせるために。

「あぁ。軍師サン。頼りにしているぜ」





〜夜 シャフマ王宮近郊〜


「敵側は傷の手当、それから兵器として投入するであろう砂の怪物を生産するための準備が必要だ。早く着いてしまおう」

アントワーヌが言うと、アレストが頷く。

「そうだねェ。早く着いて作戦を立ててしまおうか」

と、前方に砂の賊。

「商人の仕業ね。砂時計の信仰を利用して砂をばらまいているのよ」

西の方で砂時計の信仰を勧める貼り紙を見たことを思い出す。

「ああなったらもう普通の人間には戻れません。気の毒ですが討伐しましょう」

「今まで通りにですね」

ベノワットが槍を構える。

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