第26話

〜夜 ストワード王国 南の街〜


「だいぶ歩きましたね。もう暗いですし、今日はここで宿を取りましょうか」

「やったー!ルイス、同じ部屋に泊まりましょ!」

「……おい、ボンクラ王子。勝手にどこかに行くな」

「うげっ」

メルヴィルがアレストを乱暴に引っ張った。

「ぼっちゃん、本当に懲りませんね」

「少し酒を飲みに……ダメか?」

「はぁ……」

リヒターがため息をつく。

「私と行きましょう、アレスト」

「は?」

「何故あなたは1人で行動しようとするんです?危ないと分からないんですか?私が付き添うのなら良いですよ。危なくないですから」

「い、嫌だぜそんな……。俺は女と遊びたいってのに……何が楽しくて髭面のおっさんと……」

「やはりそういうことでしたか」

「あっ」

「許嫁以外と寝るのは禁止です。と、何度言えば分かるんですか?」

「じゃ、じゃあ!ルイスと寝る!今晩はルイスと寝てやるさ!!」

珍しくヤケになった高い声で叫ぶ。道の真ん中で「ルイスと寝る」なんて言われて、ルイスは思わず赤面する。

「……」

「ルイスを妃にするの?アレスト」

アンジェが聞く。

「んえ?……え、ええと……」

本当に珍しく歯切れが悪い。まさか。

「ぐっ……さ、酒臭い!ボンクラ!どこかで飲んだのか!?」

「え!?ぼっちゃんはずっと私たちと行動していたはず……酒場になんて行っていませんよ?」

アレストが背負っていた腹に鞄を抱える。それを不審に思ったベノワットが鞄のポケットに手を入れた。出てきたのはお菓子の包み紙。

「酒入りのチョコレートだ。かなり度数が高いものをたくさん食べている」

「美味しくて……つい、な……」

ストワード王宮近郊の街の出店で名産品として売っていたお菓子の山の中にあった酒入りチョコレート。アレストはそれをたくさん買って鞄の中に忍ばせていたのだ。道中、ひとつ、また1つ……と、もぐもぐ食べながら歩いていたわけだ。

「な、なにを……道中襲われるかもしれないというのに……あなたという人は……!」

リヒターが顔を手で覆う。

「悪かったぜ……美味くて美味くて、気づいたら全部なくなっちまった……ふふふ、こ〜んなに酔っ払っちまったのさ……」

ふら〜っとメルヴィルに寄りかかるアレスト。メルヴィルは盛大に舌打ちをしてアレストを突き飛ばした。砂の上に落ちたアレストが伸びる。

「尚更遊びになんて行かせられません。宿に行きますよ」

「い、嫌だ……こんなに気持ちいいのに、賭博場や酒場に行けないなんて、嫌だ〜!!!!!」

29歳の大の男が道端で座り込んで暴れ出す。

「ちょ、ちょっとアレスト!恥ずかしいからやめてよ!」

「やめてくれアレスト……君は一国の王子なんだぞ……」

「ぼっちゃん!子どもですかあなたは!」

「チッ……うるさい、しね」

メルヴィルが足でアレストの顔をげしげし踏む。

「……」

ルイスも呆れてしまう。

「ふふふ……メルヴィル、キスしようぜ……」

ぽつり、アレストが言った。その言葉に一同が固まる。

「ひっ!!気色の悪い!!」

メルヴィルが真っ青になってリヒターの後ろに隠れる。

「いいじゃないか……今夜は女を抱けないんだ……。あんたとしたいのさ、ほら、早く……」

「しね!!!!!!おい!来るな!!」

メルヴィルが悲鳴を上げて逃げ出す。アレストがそれを追いかけようとして、すっ転んだ。

「ギャハハ!!ギャハハ!!!あー、気持ちいい……はあっ……」

「ぼっちゃん!目を覚ましてください!……うぅ……もう寝ている。仕方がない、宿まで運びましょう。ベノワット」

「はい……」

すぅすぅ寝息を立てて気持ちよさそうに寝ているアレストを2人がかりで抱える。一同は宿に向かうことにした。

よっぽど怖かったのか、メルヴィルはアンジェとルイスの後ろをついて歩いた。


「もう、アレストってほんと快楽に逆らえないクズ王子よね!」

アンジェがプンプン怒っている。

「お酒の入ったチョコレートをいつ戦闘があるか分からない外国の道で全部食べるなんて。はぁ……ほんと呆れるわ!」

「それはそうだ」

「ルイスも思うわよね!」

同意すると、アンジェがやれやれと手を広げた。

(アレストはまるで子どもみたいだ。……ん?何?)

ふと目にうつった路地裏で、小太りの中年の男が若い男2人と話しているのが見えた。その手には、見覚えのある小さな袋。

(薬?いや、違う!)

砂だ。例の。

メルヴィルも気づいたのだろう、立ち止まって様子を伺っている。

「……それじゃあこれを飲めば、砂時計の永遠を刻めるということですか?」

「そうです。シャフマ王国を永遠にしましょう」

「ありがとう!名誉ある死を遂げられる……!」

男2人は中年の男に金を支払い、砂を同時に飲んだ。

「「!」」

ルイスとメルヴィルが目を見開く。2人の男は苦しみだし、砂の賊になった。

「メルヴィル」

「チッ……お前も見たか」

ルイスが頷く。

「だが、あの男には見覚えがある。たしか……」

「ちょっと、どうしたの?2人とも!」

アンジェが駆けて来る。

「ルイス。アンジェを頼む」

メルヴィルが低く言って路地裏から出てきた砂の賊に向かって走り、剣を振り上げた。

「アンジェ!伏せて!」

「きゃっ!?何!?敵!?」

ルイスがアンジェに飛びついた。2人が道に倒れ込む。一拍遅れて、斬られた砂の賊がルイスの背中にかかった。

「び、びっくりしたわ……。どうしたの?砂の賊がいたの?」

「うん。メルヴィルが斬ってくれた」

「そう……。良かったわ。被害が出る前に食い止められて」

「そうだね」

アンジェがルイスの手を握る。それを握り返す。不意打ちだったが、守れてよかった。

「……お前、なぜこんな所にいる」

「メルヴィル君か。さすがの剣の腕ですね」

「チッ……」

「私の娘は元気ですか?」

「それ以上喋るな。ここで斬ってやる」

メルヴィルが再び剣を構える。

「……無駄ですよ。私はただでは死なない。砂時計の礎となるその日まで、私は死なない」

そう言うと、大量の砂を撒いた。

メルヴィルが思わず目を閉じる。瞬間、たくさんの砂の賊が辺りを囲んでいた。

「くっ……」

「メルヴィル!!」

「逃がしたか……」

もう男はいなかった。メルヴィルが舌打ちをする。

「メル、大丈夫!?」

「あぁ。……たたかうしかなさそうだ。行くぞ、ルイス」

「この人数なら私たちだけで大丈夫そうね!」

「だが無理はするな、アンジェ」

「……!わ、分かってるわよ。メル」


【戦闘開始】


【戦闘終了】


砂の賊の討伐が終わった。アンジェがルイスに笑いかける。

「ルイス!無事でよかったわ!メルも、守ってくれてありがとう……」

「フン、当然だ」

「あっ、アレストたちを追わなきゃ!もう宿に着いたかしら?」

アンジェが駆け出す。その後ろ姿をじっと見つめるメルヴィル。

「どうしたの?」

ルイスが聞くと、メルヴィルが首を横に振った。

「何でもない。行くぞ」

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