第33話 妹のバスタオルの中に隠されたものとは!?

 作戦名――朝姫バスタオル剥ぎ作戦!

 実行。


 さあさあ、お前の正体を暴いてやるぞ。この衆人環視のもと、殺人計画を丸裸にし、二度と俺を殺そうとなど思わないよう、追い込んでやる。


 とりあえずは――


「じゃあ、泳ぐとしよう」


 この完璧な作戦に思わず笑みを浮かべてしまった。


「さあ、朝姫。泳ぐんだから、バスタオル、取らないとな……?」

「へ、変態!」


 朝姫が叫んだ。なんでだ? げへへ。脱げばいいだけだろ? ほら、ほらあ!


「やばい目してるって! ばか!」


 杏奈からまたお叱りを受けた。

 どんな目だよ。そんな、人を妹に手を出しそうになっている犯罪者みたいな風に言いやがって。


「……でも、泳ぎに来たんだから、泳がないとさ」

「わ、私はいい」


 彼女は俯いた。


「体調悪いからさ……皆で楽しんできてよ」

「朝姫ちゃん……」


 マリンちゃんが心配そうに見つめていた。

 いやいや、そんなわけないだろ。

 さっきまであんなに元気だったのに――


 だが、それをそうと言いづらい雰囲気ではあった。

 体調悪いって言っている相手に、嘘呼ばわり自体、なかなかしづらいことだからな。


「私、その辺で休んでるから、皆は泳いできて! 見てるだけでいいから」


 彼女は微笑んで、事前に用意した砂浜の上のシートに歩いていった。

 皆、顔を見合わせて心配そうな顔をしていた。


「……どうする?」

「朝姫ちゃんだけ無視して、遊ぶのは……なんか申し訳ないような……」


 皆も皆で、なにも気にせず遊ぶ、という気分でもなくなっていた。これはこれでよくない、か……。

 だったら。


「じゃあ、俺が朝姫の様子を見てくるからさ、皆は遊んできてよ。大丈夫そうなら、俺も合流するからさ。朝姫の面倒を見るのは、ほら、兄貴である俺の役目だろうから」

「……でも」

「いいんだよ。これはもともとさ、あいつの旅行なわけで……あいつが皆を誘ったわけだろ? だったらさ、皆だけでも楽しく遊ばないと、それはそれで朝姫は気を遣うだろうし……だから、朝姫の代わりにめいっぱい遊んでくれよ」

「…………」


「うん、そうだな」


 頷いたのは杏奈だった。

 流石、このあたりは最年長か。


「じゃあ、頼んだぞ、凪坂」

「杏奈も皆のことよろしく」

「任せろ」


 彼女は満面の笑みで答えてくれる。こういう時は、本当に頼りになる。


 そんなわけで、シートの上でつまならそうに座る朝姫の傍に寄った。

 本当は海で遊びたいんだろ、こいつ……。

 どうやら、そこまでして俺を殺したいらしい。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「……大丈夫か?」

「う、うん……まあ……」


 彼女は曖昧に答えた。

 海をずっと見つめている。目的は一つにしろよ……。

 いや、それも俺の役目だろう。


 こうなったら、正直に話す、か。


「なあ」


 俺は言って、隣に座った。


「本当は体調、悪くないんだろ?」

「……!! ち、違うし……本当に悪いから」

「体調悪いなら……体調悪いって分かってんなら、わざわざバスタオルなんて巻く必要なんてなかったはずだ。だって、そうだろ? 調なんだよ」

「……っ!!」

「でも、バスタオルを巻く必要があったのは……その中身を、隠したかったからだ」

「……そこまで、お見通しなんだ」


 やはり、か。

 正体を現したな。


「兄ちゃんはな……、ここでお前につまらない思いをさせるくらいなら、そのバスタオルを無理矢理剥いででも、海の中に連れ込んでやる。それくらいの覚悟を持ってんだよ」

「……うん、そうだよね。知ってるよ」


 彼女はなぜか、嬉しそうに微笑んだ。

 なんだ? なにがあった?


「ごめんね。心配かけて……でも、やっぱり…………」


 彼女はいよいよ、顔を真っ赤にさせて背を向けた。

 ああ、もう! じれったいな!

 こうなったら、作戦も糞もあるかああ!!


 俺は勢いよく朝姫を押し倒し、彼女の上に覆いかぶさるようにした。


「おに、おにおにおにおにいににお兄ちゃん!?」

「悪い……朝姫……もう限界なんだよ」

「だ、だめだめ! こんな……! 皆が見ているところで!」


 俺はそっと、朝姫の足に手を這わせていく。

 彼女は覚悟を決めたように目を閉じた。

 足から、ふとももへ。

 ふとももから、腰へ。

 腰から、胸へ。

 胸から、首へ。




 ――バスタオルを剥いだ。


「…………………………へ?」


 朝姫が顔を真っ赤にしたまま、目を開ける。


 バスタオルを全部剥いだのはいいものの……。


 バスタオルの裏にも、朝姫の体にも、なにもなかった。

 凶器どころか、道具一つ。

 そこにはただ、水着があるだけだ。


 ど、どういうことだ……!?


「わ、分からない……ただ、朝姫のかわいい水着が露わになっただけ? 朝姫のかわいさが一層と増しただけ!? だったら……だったら、朝姫! お前はなんで――」


「お兄ちゃんの馬鹿あああ!」

 メキィイ!

 と、重い一撃が俺の溝に入り、雲の上を確認できるほど、俺の体が浮き上がった後、海に打ちつけられた。


 わ、わけが分からない……。

 落ちた先は、どうやら杏奈たちが遊んでいたらしく、彼女たちはぽかんと、浮き上がる俺を見ていた。


「なにがあったんだよ」

「分からない……ただな、一つ言えることは……朝姫と一緒に遊んでやってくれ……それだけだ」


 俺の意識は、そこで完全に途切れた――わけではなかった。


 なんとか持ち直した俺は、朝姫を海に連れ出し、皆と海で遊んだ!

 こればっかりは、彼女の暗殺計画を忘れて楽しめた!


 そう思った矢先だった。


 朝姫が、俺の背中に突然抱き着いてきた。

 な、なんだ……?

 彼女は小さく呟いた。


「どうしよう……お兄ちゃん……紐、取れちゃった……」


 気付けば、俺と朝姫だけ、人に流れてしまったようで、皆とはぐれていた。

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